第33話 俺の後輩は惚気けたかった
噂を払拭するための校内放送。
だが、それが予想外の方向に向かおうとしていた。
「いや、馴れ初めといってもだな……」
「私と縁ちゃんは家が向かいで、昔から一緒に遊んでたんです」
戸惑う俺とは対象的に、本当に馴れ初めを語りだす紬。
顔が赤いが、なんだかとても楽しそうだ。
「いや、簡潔過ぎだろ。もうちょっとエピソードとか交えてだな」
「エピソード……色々ありましたけど、やっぱり誕生日でしょうか」
「誕生日、なんかあったっけ?」
「うち、両親共働きじゃないですか」
「でも、おじさんもおばさんも、誕生日くらい祝ってくれてただろ」
「それは嬉しかったんですけど、やっぱりちょっと寂しかったんですよ」
「同級生で集まって祝うにも、準備できなかったしなあ」
「それで、縁ちゃん、気合い入れて誕生日パーティの準備してくれたんですよね」
さすがに暴露し過ぎだろ、と言ってて思うが、こうなりゃヤケだ。
「準備っつうか、二人だけだから、別に大した労力でもなかったって」
「彼は控えめに言うんですけど、ほんとすっごい気合入ってるんですよ」
「ちょっとケーキ用意したり、誕生日プレゼント用意したくらいだって」
「そんな事言ってますけど、ケーキは毎年手作りだったんですよ、皆さん」
その辺どうなんですか?という表情で紬に見つめられる。
「あー、もう!そりゃまあ、おまえ、なんか寂しそうだったからな」
「と、こういう人なわけです」
としたり顔で放送を聞いている奴らに話しかける紬。
「それが全部じゃないけどな。可愛いから気を引きたいってのもあったし」
「え、ええ?そんな理由が?」
「思春期男子としては、そりゃそういうのもあったさ」
「え、えーと。じゃあ、そんなに前から、縁ちゃんは私を……」
「今と同じ気持ちだったかはわからんけどな。意識はしてたよ」
「そ、それはありがとうございます」
なんだか縮こまった様子の紬。
嬉し恥ずかしという感じの表情だ。
「お二人はほんとに昔から仲が良かったんですねえ」
放送委員の柚木ちゃんから茶々が入る。
「そうですね。思いつきで変なことをする困った人ですけど」
「それは弁解できないが。今回はおまえも同罪だろ」
「正々堂々と、こうやって弁解してるだけですが?」
「俺たちの馴れ初めとか要らんだろ」
「もうこの際ばらせるだけばらしてしまいましょうよ」
普段なら考えられないような発言をするこいつ。
頬も赤いし、やたらハイテンションだし、酔ってるんじゃないか?
「わかった、わかった。じゃあ、FPSの話でもするか」
「FPSの話なんて、普通の人ついてこられませんって」
「別にいいだろ。馴れ初めの話なんだから」
「FPSでなにかありましたっけ?」
「色々とあったぞー」
そんなこんなで、噂話を払拭するための弁解から始まったこの放送。
お互いの昔話を暴露するというものすごい有様になってしまったのだった。
放送後、教室への帰り道にて。
「あー。ちょっとやり過ぎちゃいました」
先程のテンションはどこへやら。
ダウナー気味になった紬がそこにいた。
「今回は自業自得だからな」
「それはそうですけどね。柚木さんも悪いですよ、あんな話を振って」
「乗った方も乗ったほうだろ」
「だって、つい言いたくなっちゃうじゃないですか」
「おまえ、ひょっとして惚気けたかったのか?」
「……」
返事がない。まさか、図星?
「あー、もう。そうですよ。惚気けたかったんですよ!」
「どうどう」
「クラスだと真面目で通ってますからね。そういう事いいづらいですし」
「考えてみりゃ、俺たちの事知ってりゃ、あんな誤解は出ないよな」
「あと、彼氏とFPSしてたとか言っても、通じませんからね?」
「そうだったのか」
「FPSなんて、マイナーもいいとこですからね。まして、入り浸ってたなんて……」
なるほどなあ。紬の学校での意外な一面を見た気分だ。
「とりあえず、これで噂が収まるといいな」
「別の噂が広まりそうで怖いです」
「それはもう今さらだろ」
そうして、俺達は教室についたのだった。
この後待っていた、クラス中の反応も知らずに。