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第27話 朝の仕返しと約束

「「行ってきまーす」」


 家を出る俺たち。こんな風にして二人で高校に通う風景ももう慣れたものだ。

 そう、思っていたのだが。


「なんか、遠くないか?」

「べ、別に。いつもどおりですよ」


 なんだか(つむぎ)がいつもより距離を取っている気がする。

 そして、ちょっと距離を縮めてみると、また距離を取られる。


「なんか気に障ることでもしたか?」

「さあ。自分の心に聞いてみたらどうですか」


 言葉だけ聞けば不機嫌な様子だが、どうにもわざとらしいな。

 そう思った俺は、さらに距離を詰めてみる。


 再び紬は離れる。俺はまた距離を詰める。

 そんな事を繰り返している内に、紬は道路の壁際に追い詰められていた。


「ちょ、ちょっと。なんで私が追い詰められてるんですか?」

「さあ。俺はちょっと遠いなーと思っただけだが」

「距離離すたびに詰めて来ましたよね!?」


 少し涙目になる紬。壁際に女子生徒を追い詰めている男子生徒。

 傍から見ると、通報されてもおかしくない気がしてきた。


「で、何が理由なんだ」

「何がって、何もないですよ」

「本当に?」


 じーっと、紬の目を見つめる俺。目をそらす紬。そんな時間がしばらく続いた後。


「もう。わかりました。わかりましたよ。言えばいいんですよね」


 先に根を上げたのは紬の方だった。


「ちょっとした仕返しのつもりだったんです」


 観念したように告白する紬。しかし、仕返し、ねえ。


「俺が何かしたっけ」

「朝のことですよ。寝たフリして、私のこと観察してましたよね」

「まあ、そうだな」

「だから、ちょっと私も意地悪してみようかなと」


 恥じらいながら言う紬。合点が行ったが、それであの行動とは。


(こいつは意地悪には向いてないな)


 こんな可愛らしい意地悪をしてくるのだから。


「ちょっと。何、ニヤニヤしてるんですか?」

「いや。お前が可愛すぎてな。どうしようかと」

「もう。また、からかってますよね」


 ぷいっと顔を背ける紬。

 そんな仕草もますます愛らしくて、背けた顔に手を触れてみる。


「近いですよ…て。え。……んんっ」


 気持ちの赴くままに口づけを交わす。


「……ぷはっ」


 唇を離すと、少し息苦しそうな様子の紬。


「どうした、大丈夫か?」

「息継ぎくらいさせてくださいよー」

「すればいいだろ」

「いきなり過ぎです。準備くらいさせてください」


 抗議の声にもどこか力がない。


「ちょっと気持ちが抑えきれなくて」

「また、からかってます?」

「いや、本音だって。嘘をついているように見えるか?」

「う……まあ、信じますけど。もう少し場所を考えてください」

「場所って……あ」


 同じ高校の生徒が、口々に何かいいながら、俺たちを避けて通っている。


「さすがにやり過ぎだったか」

「それどころじゃないですよ。キスしてた時だって、きっと……」

「噂になったら、いさぎよく全校生徒の前で宣言でもしよう」

「ちょっと別れたくなってきました」


 本気じゃないとわかっていても、その言葉はグサっと来る。


「いや、宣言はさすがに冗談だ」

「ならいいですけど。ほんと、場所は考えてくださいね」

「でも、お前も拒まなかっただろ」

「そりゃ、好きな人ですから……てごまかされませんよ」

「さすがに通じなかったか」


 ちょっとおどけてみる。


「ほんとのこと言いますけどね」


 少し真剣な顔つきになる紬。


(えにし)ちゃんがキスしてくれるのは嬉しいですし、私もいつでもしたいんです。だから……こういうのは二人きりの時にしてもらえないかなと。周りの目を気にしなくてもいいですし」


 どんどん最後の方になるにつれ声が小さくなっていく。


「そ、そうか。それなら、もう少し自重する」

「は、はい。二人きりなら遠慮しなくていいですからね」


 というわけで、これからは人前ではイチャイチャし過ぎない、ということを決めた俺たちだった。どれだけ守れるかはともかくとして。


 そして、この朝の行動が後々、予想もしていなかった影響を及ぼすことを俺たちはまだ知らなかった。

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