第24話 佐藤さんちの家族会議とやりくり下手
さて、時刻は夜8時を回ろうかという時。
紬の家のリビングで、俺たち4人は向かい合っていた。
手前側に座るのは、俺と紬の二人。
向かい側に座るのは、おじさんとおばさんの二人。
おじさんは、本名を佐藤晴臣と言う。某大手家電メーカーで技術職についていて、会社から出る製品の一部はおじさんが設計したものがあるとかないとか。眼鏡が似合う知的な雰囲気を漂わせた人だ。
おばさんは、本名を佐藤一子。とある大手メーカーで事務職をやっている。人懐っこい笑顔と、俺の母さんとは対照的にほっそりとした体つきが特徴の人だ。
「……で、縁ちゃんの家の家事を手伝いたいんです。いいですよね?」
真剣な顔つきで承諾を求める紬。
「……」
「……」
しばらく押し黙ったままのおじさんとおばさん。
「いいんじゃないかしら。紬もいつもお世話になってることだし」
「一子さん、ちょっと待って」
承諾しかけたおばさんをおじさんが制止する。
「鈴木さんのところにはお世話になってるから、手を貸すのは賛成だ」
でもね、と続ける。
「正直、毎日家事をするというのは大変だよ。きっと、予想よりも」
「わかってる、つもりです」
「朝食と夕食の支度だけでも、結構な重労働だよ。本当に大丈夫かい?」
真剣な目で娘を見据えるおじさん。
「料理くらいできます。大丈夫です!」
「料理だけじゃなくて、やりくりもしないといけないよ」
「だ、大丈夫、です」
少し自信が無さげな声になる紬。
料理が出来ても、食事代のやりくりができるかは別問題だしな。
「それで、そちらのご両親には許可を取ってあるのかい?」
今度は俺に向けての問い。
「はい。正直、母は紬に苦労をかけるなんて、と遠慮気味でしたが」
ただ、紬が食い下がるものだから、結局、首を縦に振ったのだった。
「はあ。それなら、反対しても仕方ないか。ただ、家計簿をつけて、予算の範囲内でやりくりすること。昔からの付き合いと言っても、お金の問題でなあなあはいけないからね。あと、絶対に無理はしないこと。約束できるかい?」
「はい!」
というわけで、予想通り(?)、あっさり承諾が得られたのだった。
そし、早速、翌朝のためにスーパーに買い出しに出る俺たち。
「なあ、本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですって。ひょっとして、料理の腕、疑ってます?」
じろりと見据えられる。いや、そこじゃないんだけどな。
「お前の料理の腕はよく知ってるけどさ。しかしなあ……」
「なんです?」
「いやさ。お前、高い食材買いすぎだろ」
現在、スーパーで買い物の真っ最中の俺達。
そう。母さんの代わりに家事をする上で大事なやりくり。
それが一番の不安要素だった。
カートに放り込んでいる食材を見ても、やたら質のいいものばかりだ。
「だ、だって。せっかくなら、いいもの作りたいじゃないですか!」
抗弁する紬。その気持ちは嬉しいんだが。
「予算大幅オーバーしたら、うちだって困るぞ」
「う。それはそうなんですけど……」
そこを突かれると弱いのか、しゅんとうなだれる紬。
「ま、今日はいいけど。明日から、ちゃんと予算考えて行こうな」
「はい……でも、納得が行かないんですけど」
「何が?」
「食費のやりくりしたことないはずなのに、なんで詳しいんですか?」
ああ、そういうことか。納得。
「いやさ、母さんも同じなんだよ」
「同じ?」
「予算考えずに、いい食材使いたがるとことか」
「そ、そうなんですか?」
きょとんとした表情の紬。
「ああ。だから、俺が予算オーバーしないように管理してる」
「初耳なんですけど」
心底意外そうな顔をしている紬。
「言わなかったしな。だから、家計簿もちゃんとチェックするからな?」
「なんか、変なところでしっかりしてますよね」
「変なところとは失礼な」
変なところとは心外だが、悪い気はしない。
「そんなところで、拗ねないでくださいよー」
そんな賑やかな会話を交わしながら、夜のスーパーを巡る俺たち。
これからしばらくは、こんな風景が日常になっていくんだろうか。
そんなことをふと思ったのだった。