第23話 後輩な幼馴染と家族の情景
その後。結局、連絡を聞いてかけつけた父さんが、
「後は、私に任せて、二人は家に帰りなさい」
言ったので、タクシーを呼んで家に帰った。
二人きりのリビング。
紬もそろそろ家に戻った方がいいんじゃないかと思う。
「うちって、両親共働きじゃないですか」
唐突に、紬が語り出した。
「そうだな」
紬のお母さんは大手の会社に勤める事務職。お父さんは、大手家電メーカーの技術者。二人とも、朝に仕事で、夜に帰るのが常。だからか、昔から、紬は、よく俺の家に入り浸っていた。
「パパもママもお仕事だから仕方ないじゃないですか」
「だよな。稼いでくれてるから、生活があるわけだし」
「でも、私としてはやっぱり寂しかったわけです」
そう、紬からはっきりと言葉にして聞いたのは初めてだった。
「そういうの、初めて聞いたな」
「初めて言いましたから」
とにかく、と。
「おばさんは第二の母親みたいなもので、感謝してもしきれないんです」
「直接言ってやれよ。面会できるようになったら。喜ぶと思うぞ」
「そんなの、いきなりは言えませんよ」
妙なところで躊躇をするのがまたこいつらしい。
「もちろん、縁ちゃんが居てくれたのも、ですからね」
慌てて付け足したように言う。
「別にとってつけたように言わんでも」
「こんなときくらい、素直に受け取ってくださいよ」
口をとがらせる紬。そんな他愛無いやり取り。
ようやく少しペースが戻ってきた。
「縁ちゃん。提案があるんですけど」
紬が意を決したように言う。
「無茶なことじゃなければな」
「明日から、私が縁ちゃんの家のご飯作りますから」
「そんな無理せんでも」
「無理じゃないですよ。いつもお世話になってますから」
こういうところは、やっぱり律儀だ。でもなあ。
「嬉しいけどさ。おじさんとおばさんは大丈夫か?」
娘を、いくら昔から付き合いのあるところとはいえ、お泊りを許すくらいだ。
案外OKが出てしまいそうな気もするが。
「私が、パパとママを説得します!」
決意に燃える紬。
「わかった。俺も一緒に行くから。まずは言ってみようぜ」
「はい。お願いします」
「あ、でも、今日はさすがに帰れよ。心配してるだろうし」
「それはさすがにわかってます」
そうして、佐藤家の家族会議に俺も参加することが決まったのだった。