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第21話 相談屋な俺と後輩(後編)

 そして、時間は過ぎて放課後。指定した場所にたどりつくと、既に朝比奈(あさひな)さんらしき人が待っていた。


「あ、お待ちしてました。相談屋さん」


 ぺこりと頭を下げる朝比奈さん。


「普通に鈴木と呼んでくれると助かる。相談屋さんとか、ダサいし」


 これをなんというのかわからないのだが、俺は何か学校で特別なことをしてるぜ感が苦手なのだ。


「こちらの方は……依頼をすると、相方さんも来ると聞いたことがありますが」


 毎回毎回着いて来てたら、そりゃ噂にもなるわな。


「佐藤といいます。《《鈴木先輩》》についてきただけですんで、お気になさらず」


 (つむぎ)がぺこりと頭を下げる。こういう場面でだけは、紬は鈴木先輩呼ばわりをする。こいつなりの照れ隠しだが、それが可愛い。


(何笑ってるんですか、《《鈴木先輩》》?)

(いや、《《佐藤》》は可愛いなあって)

(もう、何言ってるんですか)


 そっぽを向く紬。そんなやり取りを交わしていると、


「あの、お話、聞いてもらって構いませんか?」

 

 しまった。依頼人を放置して脱線するとは。


「ああ、ごめんごめん。続けて、続けて」


 話を促したところ、朝比奈さんから聞いた話は次のようなものだった。まず、サッカー部のAさん(仮名)が居て、朝比奈さんに言い寄って来るということ。次に、何度断っても言い寄って来るのでストレスがたまって仕方ないらしいこと。最後に、言い寄ってくるだけで、それ以上のいやがらせや暴力は無いので、部にも教師にも訴えにくい、ということ。


 話を聞いて思ったのは、やっかいだなというものだった。特に、言い寄って来るけど、何もしないというのが性質が悪くて、危害を加えられているわけではないと来れば教師も動きにくい。


「それで、どうでしょうか?なんとかなりませんか?」


 切実な声で訴える朝比奈さん。部に行くたびにそういう絡まれた方したりしたらストレスが溜まってしょうがないだろうし、気持ちはよくわかる。どうしたものか。


(思いついた案があるんだが、聞いてくれるか)

(ロクな案じゃないと思いますが、聞いてあげます)


 こういうのにノッてくれるのが紬のいいところだ。


(レコーダーアプリあるだろ。そこに、言い寄られてるとこ録音すれば一発だぞ)

(意外にまとも……いや、結構微妙ですね)

(どこが微妙なんだ?証拠としては確実だろ)

(《《鈴木先輩》》のことですから、ネットでばら撒くとか考えてるでしょう?)


 紬は、何かヤバイものを見る目をしている。

 

(心外だな。せいぜい学校中にばらまくくらいだ)

(学校中にばら撒く必要ないですよね。絶対!?)

(冗談だ、冗談。教師に渡すくらいだよ)

(それくらいなら……最初から、それを言ってくださいよ)

(ツッコミを入れてくれるチャンスをむざむざフイにすることもないだろ)

(はあ。もういいですよ)


 疲れた、という顔の紬。


「結論だが、朝比奈さん。レコーダーアプリを使おう」

「レコーダーアプリ、ですか?」


 聞いたことが無いのだろう。首を傾げている。


「ICレコーダーって聞いたことないか?あれのアプリ版」

「えーと、言い寄られているところを録音するってことでしょうか?」

「そういうこと。で、お勧めのアプリなんだが……」

「わかりました。やってみます」

「また、言い寄られるのは嫌だろうけど……」

「もう1回くらいは我慢してみます」


 その後は、流れでレコーダーアプリの使い方をレクチャーした。あとは、次の部活の時辺りに、また言い寄られることがあれば、レコーダーアプリに録音してもらって、あとは先生に報告してもらうように言った。それで解決しなかったら、その時はその時だ。


 ということで、その場はそれでお開きとなったのだった。


 数日後。


【鈴木さん、先日はありがとうございます。アプリに録音したのを、担任の先生に提出したんですが、なんとか動いてくれるそうです】


 というメッセージが届いていた。うまく行ったようでなにより。


「しかし、技術の進歩という奴だよなあ」


 ぽつりとつぶやく。


「どうしたんですか、縁ちゃん」


 応じるのは紬。


「今はスマホのアプリでこういうことができるが、昔はどうしてたのかなあと」

「専用のICレコーダーって前からありますよね」

「お小遣いで買うにはちょっと高いだろ。安いのでも4000円くらいするぞ」

「それもそうですね。どうしてたんでしょう」


 そういう事があっても泣き寝入りということもあったのだろうか。


「なんていうか、色々考えさせられるんだよな」


 こういうことがあるたびに、世の中はままならないと思う。


「それに、今回はたまたまアプリが使えたが……」

「縁ちゃん。今回は無事解決したんですから、まずはそれを喜びましょうよ」


 言い募るのを遮るように紬はそう言う。


「確かに。ぐだぐだ言ってても仕方ないよな。まずは喜ばなくちゃ、な」

「あ、でも。ほんとに物騒な手段は無しにしてくださいね」

「しないって。信用できないか?」

「そりゃ、最近はマシですけど……」

「昔は違うと?」

「いじめっ子が居たら、学級会で結託(けったく)して糾弾(きゅうだん)するとかやってましたよね」


 遠い昔の事を語られる。まあ、ちょっとやり過ぎたこともあったかもしれない。


「あの頃は青かった。俺も成長するさ」

「ほんと、物騒なことは止めてくださいね。縁ちゃんが停学とか嫌ですよ」

「大丈夫だって。匙加減は考えるから」

「とにかく、変なこと考える前に相談してださいね」

「了解」


 そうして、相談屋としてのお《《仕事ごっこ》》がまた1件、終わったのだった。

 しかし、つくづく、俺もこいつに助けられてるものだ。

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