ランク登録
魔力を増やす鍛錬を終え、余った時間にツインブの指導を兼ねてダンジョンに行くことにした。
しかし、その前に冒険者ギルドで依頼を受けるために必要な《ランク》の登録をしなくてはならない。
ミストはツインブを連れ、冒険者ギルドの窓口に座っている女性に話しかけた。
「《ランク》の登録を二人分頼みたい」
「かしこまりました。試験官を向かわせますので、訓練場でお待ちください」
そう言われ、ツインブと訓練場でしばらく待っていると、筋骨隆々の男性がやって来る。
「お前達の相手をする4級試験官のマグラスだ。……そうだな、まずお前から試験をしよう。名前は?」
マグラスに選ばれたので、名乗る。
「ミスト・アスリールだ」
「……アスリールか。装備はそこにある物を使え」
マグラスは訓練場に用意されている武器と防具を示した。
ミストは刃引きされた鉄製の剣と盾を手にする。
それを見たマグラスが言う。
「標準的なスタイルだな。俺は――こいつだ」
マグラスは重量のある巨大な鉄剣を両手で持ち上げた。
「――なっ」
ミストの後ろにいるツインブは思わず声を上げてしまった。
その剣が刃引きされているとはいえ、まともに受ければ無事では済まないだろう。
「随分扱いにくそうな剣だな」
だが、ミストは動じない。
「――ほぅ。大抵の奴はこれを見ると怯むんだがな……。まぁ、いい。始めるぞ!」
マグラスとミストは互いに武器を構える。
先に仕掛けたのは――マグラス。
巨大な剣を両手に構えながら、一気にミストへ接近し、豪快に大剣を振り切る。
「おらぁ!」
風を切りながら迫る巨剣に対し、ミストは迷わず斜め前方に出る。
そして、姿勢を低く保ち、その剣を躱す。
この一瞬で、マグラスはミストの回避する動きに合わせて剣筋を調整し、猛烈な一撃を食らわせようとし、ミストはフェイントをかけて剣が届かない間合いを生み出そうとする攻防があり、それにミストが勝利して回避に成功した。
そのままミストは巨剣の間合いを詰め、ミストの剣の長さに適した間合いに入る。
マグラスは巨剣の間合いの内側に入られ、形勢が不利となったが、先ほどの勢いで振り上げた巨大な剣を振り下ろす。
しかし、ミストの剣の方が速かった。
ミストはマグラスの体に一発入れる。
「――ぐっ」
マグラスは歯を食いしばり、尚も巨剣の動きを止めない。
ミストは振り下ろされてくる巨剣を避けながら、マグラスの背後に回り、首に剣を突きつける。
「これで終わりだな」
ミストがマグラスに言った。
マグラスは力を抜き、自分の負けを認めた。
「……強いな。戦い慣れしている。3級相当の力はあったぞ」
「そうか」
ミストはマグラスの評価を冷静に受け止めた。
記憶操作の《グレース》で膨大な戦闘経験を積んだ状態のミストは、平常心のまま最善の動きができた。
《グレース》がなければ、巧みに戦うことができなかったのは想像に難くない。
そして、この戦いで改めて《グレース》の問題点を確認できた。
《グレース》で技量の向上はできるが、マグラスのような筋力は得られないということだ。
つまり、体は地道に鍛えるしかない。
だから、良い鍛錬方法を《グレース》で探しておこう、とミストが考えているうちに、マグラスの試験は続く。
「次はお前だな。名前は?」
「ツインブ・ユークです。よろしくお願いします」
ツインブもミストと同じ装備でマグラスに挑んだ。
――が、マグラスの最初の一撃でツインブは負けてしまった。
4級の実力を遺憾なく発揮したマグラスの腕前によって、ツインブはその攻撃を躱すことが許されず、巨大な剣を盾で受け止めてしまうことになり、その圧倒的な威力で吹っ飛ばされて試験が終わった。
「ほとんど反応できていなかったからな。お前は9級だ」
「……はい」
ミストとの差に落ち込むツインブ。
ツインブは気づいていないようだが、ミストの指導を受けてなかった以前なら10級だったので、これでも短期間ではかなり成長していた。
「この後は、最初に来た窓口で《スタープレート》を受け取ってくれ」
「《スタープレート》?」
ツインブがマグラスに尋ねた。
「自分の《ランク》分の星が刻まれた金属板だ。アスリールなら星が3個、ツインブなら星が9個刻まれているはずだ。依頼を受けるときに必要だから、家に忘れたり、無くしたりするんじゃねぇぞ」
「はい」
ツインブの返事を聞き、マグラスは去って行った。
「ようやくダンジョンの依頼を受けられますね]
「ああ」
ミストはツインブの言葉に頷き、《スタープレート》を受け取りに行った。