表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の恩恵  作者: minaira
6/8

計画

 マリナとセリバが洗浄屋の仕事をして、ある計画に必要な資金を集めている期間に行なったことは、多岐にわたる。

 その一つ目は、《グレース》を使った情報収集とツインブへの指導だ。

 情報収集ではダンジョンや冒険者ギルド、生活様式、物価、モーナの町周辺の地理、情勢などを詳しく調べた。

 特に興味深かったのは、世界中にある全てのダンジョンが繋がっている、ということだ。

 だから、モーナの町のダンジョンも、無数に存在する出入り口の一つに過ぎない。

 そして、洞窟のようなダンジョンで明かりが必要なかった謎も解決した。

 モンスターが生み出されるほど豊富な魔力とダンジョンの壁が反応して、発光するおかげらしい。

 その不思議な存在であるダンジョンは恵みと脅威の両方をもたらす。

 恵みの例としては、肉や野菜などの食料、傷や病を治す薬の材料、鉄などを含む鉱物だ。

 脅威は言うまでもなく、モンスターである。

 人間が暮らす町の周囲に壁が作られているのも、ダンジョンから地上に出て繁殖したモンスターが町に侵入するのを防ぐためだ。

 またモンスターの影響で人が暮らす地は分断され、各町との交易も少ない状態だ。

 よって、基本的に全て自給しなければならない町は、皮肉にもモンスターを産むダンジョンの恵みを利用することにした。

 だから、危険を承知の上でダンジョンに入り、食料などの恵みを町に持ち帰る冒険者はなくてはならない職業だ。

 冒険者ギルドは、その冒険者が効率良くモンスターの討伐とダンジョンの素材を採取できるようにするために設立された。

 例えば、ダンジョンの食料や素材などを求める依頼者と冒険者が直接会って取引するより、依頼者の依頼を冒険者ギルドが仲介して冒険者がその依頼を受ける方が、冒険者は手間がかからない。

 そんな町に必要とされる冒険者だが、日々モンスターと戦う職種のため死傷者も多い。

 冒険者ギルドはそれを抑える役目も担うため、冒険者の実力に合わせて依頼を紹介する。

 その仕組みは、ダンジョンの奥に行くほどミスリルなどの希少な素材を得られ、モンスターが手強くなることを利用している。

 まず冒険者ギルドは、ダンジョンの構造や出現するモンスターの種類などの難易度ごとにダンジョンを区分けした。

 それが《エリア》だ。

 モーナの町の冒険者ギルドでは、ダンジョンの入り口周辺を《エリア1》とし、そこから奥に進むにつれて《エリア2》、《エリア3》というように数字が増えていく設定だ。

 モンスターの影響で各町の交友が少ないため、冒険者ギルド同士の情報共有も上手くいっていない。

 だから、各冒険者ギルドによって《エリア》の設定が異なっているが、大抵の場合は各町のダンジョンの入り口が《エリア1》に設定されている。

 次に冒険者ギルドは、冒険者の実力を把握するため、それを表現する制度である《ランク》を作った。

 《ランク》は一番下の10級から一番上の1級まである。

 試験に合格すれば最初から1級になることも可能だが、そんなことは稀なため、《ランク》は順に上げていくものだと冒険者に認識されている。

 そして、冒険者ギルドが冒険者の《ランク》に合った《エリア》の依頼を紹介することで、怪我をする冒険者の数を減らしている。

 冒険者の中には紹介された依頼を受けず、より高額な報酬の依頼を受ける者もいるが、その分危険な《エリア》に行くことになるので、死ぬ確率も高い。

 けれども、そうして死ぬ冒険者が後を絶たない。

 それを愚かな人達と評せるが、その原因を考慮すると、教育不足とも言える。

 義務教育どころか、学校すらないため、主に親から学ぶことしか知らない。

 だから、親が冒険者でなければ、冒険者のことを学ぶためには先輩冒険者を頼るしかない。

 しかし、新人冒険者が見知らぬ先輩冒険者に教えを請うと、当然ながらその知識の対価となる金銭を要求される。

 そして、稼ぎの少ない新人は、その金を払えないため、自己流でダンジョンの探索を行なう。

 それがダンジョンの危険性を認識できずに愚かな行動をする理由だ。

 そんな冒険者の知識をダンジョンに行く事前準備として、剣の指導中にツインブに話した。

 他にも、複雑な構造をしているダンジョンのマッピング方法やモンスターの習性、複数人でパーティーを組んだときの役割などもツインブに伝えた。

 二つ目は、《グレース》を用いた様々な分野の技術習得だ。

 《クリーン》のような便利な魔法や魔物を攻撃したり、身を守ったりする戦闘用の魔法、武器や防具、建物、家具、薬などを作る技術を習得した。

 特に薬屋からは、普通の薬だけでなく、瞬く間に傷を癒やすポーションという特殊な薬の作成法を得られた。

 ポーションは傷を癒やす効果が高いほど、値段が途方もなく上がり、その相場も安定しない。

 大凡の値段は、軽傷を治す下位ローポーションは金貨1枚、重傷を治す中位ミドルポーションは金貨100枚。死ぬ前なら致命傷すら治す上位ハイポーションは金貨1000枚だ。

 これほど上位ハイポーションが非常に高価な理由は、作成過程で用いる魔法で多量の魔力を消費し、ただでさえ少ない上位ハイポーションを作れる薬師の魔力がすぐに尽き、大量生産が困難であるからだ。

 そして、需要に対して供給が追いつかないため、上位ハイポーションは市場に出回らないことも珍しくない。

 だが、《グレース》でマリナに上位ハイポーションの作成法を教えれば、その膨大な魔力で上位ハイポーションを量産できる。

 洗浄屋よりも圧倒的に効率良く金を稼ぐことができる上位ハイポーションの量産。

 これが上位ハイポーションの存在を知ってから考えていた計画だ。

 しかし、肝心要の上位ハイポーション作成法は得ることができたが、まだ問題があった。

 それは上位ハイポーション製造に必要な設備と、それを設置する場所を買う金がないことだ。

 その問題を解決するために、マリナとセリバに洗浄屋の仕事を命じ、上位ハイポーション量産計画に必要な資金を集めていた。

 セリバの報告によれば、今日中に資金集めが終わるそうだ。

 明日になれば上位ハイポーション製造に必要な設備と、それを設置する家を買える。

(……待ち遠しいものだ)

 魔力を増やす鍛錬を行ないながら、そう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ