鉄製の剣
マリナとセリバが冒険者ギルドの訓練場に来たので、ツインブへの指導は終わりにした。
「アスリール様、これが洗浄屋の収入です」
セリバから金貨13枚と銀貨2枚が手渡される。
この金額はモーナの町に暮らす庶民の半月分の稼ぎに匹敵する。
マリナの類い稀なる魔力は《クリーン》の魔法を何十回使っても尽きることがない。
だから、これだけの金を短時間に得ることができた。
「マリナ、お前のおかげで金が手に入った。よく頑張ったな」
「……アスリール様……が……魔法を……使えるように……してくれた……から……」
マリナは褒められて機嫌が良さそうだ。
「セリバも付き添いご苦労だった。今日はもう宿で休むとしようか」
「どの宿になさいますか?」
「《光の道》に泊まる。評判が良い宿の一つで、値段もその質に合ったものだ」
《グレース》で見つけた《光の道》という宿について説明しながら、その宿にマリナ達を連れて行った。
そして、マリナ、セリバ、ツインブを合わせた4人分の宿泊費に金貨1枚と銀貨2枚を払い、宿屋《光の道》に泊まった。
翌日、宿の食堂で朝食を注文すると、昨晩と同様にザイルの肉を使った料理が席に運ばれてくる。
ザイルの肉を買って食べることはないと思っていたが、ザイルは安くて上手い肉なので、頻繁に宿の食事でも提供される。
これからもザイル料理は避けて通れないと悟り、昨晩は口にしたが、改めて目の前に置かれると、何とも言えない感覚に襲われる。
実際に食べてしまうと美味しいので、これに慣れてしまう日も近いな、などと考えながら、ザイル料理を食べる。
朝食を済ませると、セリバ達の服やダンジョンに必要な道具を買いに行かせていたツインブが帰ってきた。
「アスリール様。命じられた物を買い終えたので、アスリール様の部屋に運んでおきますね」
「ああ。頼む」
購入した荷物を持ったツインブは部屋に向かった。
居心地が良かったので、この宿屋に二日続けて泊まることにした。
この宿に泊まっている間は、余分な荷物は部屋に置ける。
(残りは金貨6枚と銀貨5枚。計画を予定通り進めるには、まだ金が足りない。洗浄屋の仕事で金が貯まるまで、何をしようか。……情報収集、自己鍛錬、ツインブの指導、……やることはある。まずはこれらをすべきか)
マリナとセリバに洗浄屋の仕事を命じ、ダンジョンで使う武器を買うため、丈夫さが売りの武器屋にツインブと向かった。
切れ味よりも丈夫さを優先する理由は、鉄などの低価格帯の材料を用いた刃物は、ダンジョンでモンスターを斬ると、どんなに鋭くても切れ味が悪くなるからだ。
一方、ダンジョンの奥深くで採取されるミスリルなどの高価格帯の材料を用いた刃物は、切れ味の劣化をかなり抑えられるので、鋭さも考慮に入れる必要があるが、金貨数枚では買えないため、今は関係ない。
武器屋にたどり着くと、狭いダンジョンで扱える規格の剣が陳列されている場所で立ち止まる。
「この中から選ぶのですか?」
「そうだ」
ツインブの疑問に答えながら、剣の目利きをする。
「これにしよう」
手に取ったのは、鉄製の装飾が一切ない実用的な量産品だ。
それを金貨4枚と銀貨8枚で2つ購入し、その一つを佩剣する。
「ほら、お前の分だ。身につけておけ」
そう言って、買ったばかりの鉄製の剣をツインブに1つ渡した。
「……この剣を私に? ありがとうございます!」
ツインブは感激しながら剣を腰に下げる。
「マリナ達は一週間くらい洗浄屋として働かせるつもりだ。その間、空いた時間があれば、容赦なくお前を鍛えるぞ」
「頑張ります!」
(アスリール様の指導は厳しいけど、たった一日でも強くなれた。だったら、もっともっと強くなれるはず!)
そのようなツインブの考えを《グレース》で読み、ツインブへの指導が上手くいきそうだ、と思った。