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記憶の恩恵  作者: minaira
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ツインブへの指導

「マリナが魔法を使える日が来るなんて……」

 恐怖心を抑えながら魔法を勉強していたマリナの姿を一番近くで見ていただけに、セリバは溢れる嬉しさを堪えきれなかった。

「アスリール様にはどれだけ感謝してもしきれません」

「気にすることはない。さて、さっそく役に立ってもらおうか。マリナ、《クリーン》の魔法は使えるな?」

「……はい」

「なら17時まで《クリーン》一回につき銀貨1枚で洗浄屋の仕事をして、終わったら冒険者ギルドの訓練場に来い。セリバはその付き添いだ」

「わかりました」

 そう言って、セリバはマリナを連れて行った。

「ツインブは訓練場で指導してやるから、ついてこい」

「ありがとうございます!」

 弾んだ声を上げ、ツインブは喜んで後を追いかけてくる。




 冒険者達の威勢の良い声が響く冒険者ギルドの訓練場。

 そこで貸し出されている防具を着用し、木剣を手に取る。

 ツインブも同じ装備だ。

「アスリール様、準備できました」

「そうか。では始めるとしよう。まずは木剣の素振りからだ」

「はい!」

 《グレース》で熟練冒険者達の記憶を得たことで、ツインブの実力の低さと悪い動きが認識できる。

 日々の鍛錬の成果で、ほとんど同じ動きの素振りを繰り返せているが、無駄な部分に力が入っていたり、上半身と下半身の動きが崩れていたりする。

 こういう体に染みついた動きは、指摘しても矯正することが難しい。

 だから、正確な動きができるまで何度も練習を行なう必要がある。

 そして、ここで才能の差が現れる。

 一度で正確な動きを覚えてしまう者もいれば、ツインブのように時間をかけてようやく覚えられる者もいる。

 しかし、それは《グレース》を使って一回でその動きを覚えさせてしまえば関係ない。

 後はその動きを凡才未満のツインブが戦闘で上手く活かせるか、という問題があるが、経験を積むことで補えるだろう。

「よし。その動きを忘れるなよ」

「はい!」

 《グレース》で記憶に刻んだので、忘れるわけがないのだが、それを知らないツインブのために言っておいた。 

「次は私に攻撃してこい。私もツインブに隙ができたら攻撃する」

「……わかりました。――はっ!」

 アスリール様に攻撃していいのか、少し迷ったツインブだったが、命令にはどんなことにも従うと決めたので、先ほどの動きを踏まえながら木剣を振り下ろした。

「――えっ?」

 しかし、ツインブの木剣と接触する直前まで、その木剣を受け止めようとする構えをしていたが、受け止めずに一歩下がって回避したため、ツインブは不意をつかれてバランスを崩した。

 そして、隙が生まれたのでツインブに木剣の一撃を入れる。

「……っくぅ」

 ツインブは呻き声を出しながら、地面に倒れ込む。

「振り下ろす動きは悪くないが、私の木剣に気を取られ過ぎだ。それに相手の動きを常に予想しておけ。次の行動に移る時間を短くできる」

 そして、今の経験も《グレース》でツインブに学習させ、同じ失敗をしないようにする。

「早く立て。戦闘で傷を負うことは珍しくない。痛みにも慣れておけ。痛みで動きが鈍れば、敵は追撃してくるぞ」

 また《グレース》を使って、ツインブが痛みに怯まず戦えるようにする。

 その影響で、ツインブは痛みに苦しみながらも気合いで立ち上がり、こちらに走ってくる。

「おぉぉぉ!」

 ツインブの少し荒くなった太刀筋を躱し続け、息切れしてきたところで腹を蹴る。

「ぐっ」

 立とうとしても、ツインブは疲労と怪我で倒れたまま起きられない。

 それでも強くなることに執着するツインブは、諦めずに苦しい指導に食らいつく。

「自分の体力を考慮して動け。剣だけで攻撃してくると思うな。相手をよく観察しろ」

「……はい」

 小さな声だが、ツインブは返事を欠かさない。

(《グレース》を秘密にしなくて良いのなら、一瞬で熟練冒険者の技量をツインブに持たせることもできる。……が、強者を量産できることを知られると面倒だ。指導している姿勢を見せざるを得ない)

 そうして、マリナとセリバが来るまでの指導の間、ツインブの苦悶の表情が変わることはなかった。

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