渇望する力
不定期更新です。修正しつつ小説を書いていくので、タイトルや内容が変わることがあります。
現代社会で生きる人は、他人や本、インターネットから知識、経験、技術などの様々な情報を学び、記憶し、応用することで機械を開発したり、家を建てたりしている。
人は知らないことがほとんどできない。
例えば、家を建てるために必要な物が全て準備されていたとしても、家の建て方を知らなければ、まず何をすれば良いのかさえ、わからないから、どうすれば家を建てられるか試行錯誤するだろう。家の建て方を知っていれば、すぐに作業に取りかかり、効率的に家を建てられるだろう。
だから、高度な文明も膨大な情報を記憶した人達によって支えられていると思う。
そんな考えを持っていたから、この力に目覚めたのかもな。
何の前触れもなく、どこまでも深く広がっているような薄暗い洞窟にいた。
とりあえず洞窟の出口を探していると、嫌悪感を感じる化け物と遭遇してしまった。
――何なんだ。こいつは……。
見たこともない醜悪な猿から逃げながら、そう心中で呟いた。
やがて、左右の方向に分かれる道を見つけ、どちらに曲がるべきか、と悩む。
どちらの道も先に何があるのかわからない。勘で分かれ道を右に曲がることにする。
曲がった瞬間は猿の化け物の死角に入ることになる。だから、反転して不意の一撃を化け物に与えようと考えていたが、右に曲がった先は――猿の化け物の群れだった。
挟み撃ちにされたと気づき、もう片方の分かれ道に逃げようとしたが、追いかけて来た化け物に後ろの道も塞がれてしまった。
それでも一体しかいない後方の化け物を突破しようと走り出した。
その化け物は両手両足を使い、素早く迫ってくる。
そして、足にしがみついて動きを止めようとしたのか、低く飛びかかってくる。
――躱した。
だが、窮地を脱することはできていなかった。
逃げようとした先には、数え切れないほどの化け物がいたからだ。
逃げている最中に新たな化け物が追いかけることで少しずつ数が増し、それが遅れて追いついたのだろう。
逃げ場がないため、無数の化け物と一人で戦うしかなかった。
警戒しているのか、化け物は徐々に近づいてくる。
(……死ぬのか、俺は……こんなところで……)
自分より弱い獲物を仕留められそうだ、と上機嫌そうな化け物。
(……死にたくない! 殺されて堪るか!)
自分が強者であり、お前が弱者だと語るような化け物。
(――力だ。こいつらを皆殺しにできる力。全てを自分の思い通りにできる力が欲しい!!)
警戒する必要はないと判断し、一斉に襲いかかってくる化け物らを見て、思わず笑ってしまった。
――まさか、本当に手にすることができるとはな。
得たばかりの力を使えば、化け物らは忽ちその場に立ち止まり、近くにいる仲間だった化け物を襲い始める。
化け物らは互いに傷つけ合っていた。
全身に傷を負いながらも、尽きることのない憎悪に身を委ね、動き続ける。
目の前にいる同じ姿をした化け物が自分の敵だ、と思い込まされて争う哀れな末路。
化け物が最後の一体になった頃には、周囲は化け物の血と肉が飛び散り、凄惨な光景となっていた。
それを見ても、気持ち悪くなることはなかった。
自身が心の底から望んだ結果だったからなのかもしれない。
地面に倒れ、瀕死の状態でかろうじて生きている化け物を放置し、酷く不快な臭いに耐えながらダンジョンの出口を目指して歩みを進めた。