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ノイルとソプラ 


 ーーー用意された宿の個室。


 コンコン、というノック音で相手が誰か分かったノイルがドアを開けると、そこにソプラが立っていた。


「どうかしたの?」

「入っていい?」

「そりゃもちろん」


 最近、イマイチふざけている場合でもなかったこともあるが、基本的にソプラに逆らうという選択肢はノイルにはないのである。


 椅子を勧めてから、水差しから中身を注いだ木製のカップを彼女に渡す。

 ポニーテールをほどき、銀糸の髪を長く垂らしたソプラは、コップを両手に持ってその中身に視線を落としていた。


「……?」


 目を合わせようとしない彼女を不思議に思いながら、ノイルはベッドに腰を下ろした。


「ノイル」

「何?」

「……さっきの話」


 その言葉と態度で、彼女が何を気にしているのかは理解できた。


 長い付き合いなのだ。

 イストの話を聞いて、ノイルがどういう選択をするのか、という点が気になっているのだろう。


「んー。ソプラはどうしたい?」

「あんまよく分かんないわね。なんか難しい話だったし」


 信用するの? と問いかけてくるのに、軽く肩をすくめる。


「嘘だと考える理由は、あんまりないかな。嘘にしては用意周到じゃない? イクスキャリバーやレーヴァテインを渡してるしさ」


 話が本当ならば、魔王の剣と勇者の剣である。

 嘘をついているのなら、そんな強力なものを味方がどうかも分からない相手には渡さないだろう。


 まして、テームは聖剣を実際に操ってみせ、正体まで明かしている。


「……オメガ、と話したのかな? 確認は取れた?」


 レーヴァテインに宿る、かつての勇者の魂。

 そこに言及すると、パッと顔をあげた彼女は、一瞬驚いた顔をしてからムゥ、と顔をしかめる。


「そーやって、何でもお見通しみたいなしれっとした態度がムカつくのよね」

「あはは、そう? ごめんねー」


 こうやってすぐふてくされるのは本当に変わらない。


 少し沈黙した後、こちらが何も言わずにいたら居心地が悪くなったのか、再びソプラが口を開く。


「あなたも、なんか凄かったのね」

「みたいだね」


 修羅の話は前々から聞いていたが、実際に種明かしをされてみると少し嬉しい気持ちもあった。


 昔から感じていた、自分が異質だ、という事実は変わらない。

 だがその異質さは自分一人のものではなく、勇者や魔王と……ソプラと並び立つ権利だった、という話だったからだ。


「なんなら、俺の方が希少レアみたいだしね?」

 

 少し煽ると、ソプラは頬を膨らませて木製のコップを握りしめる。

 ミシ、と軽く音を立てたところをみると、負けず嫌いの彼女の琴線に触れたらしい。


「……ノイルのくせに。私のほうが強くなったはずだったのに!」

「久しぶりに聞く気がするなぁ、それ」


 こういうやり取りが心地いいのだ。

 ソプラはこうでないと、という気持ちが、いつもノイルの中にはある。


「それに……勇者ってやめられるのね」

「やめたいの?」

「なんで?」

「え? いや、話をそんな風に振られたからさ」


 やめたい気持ちがあるのかと思ったのだが、そうではなさそうだった。


 本気で疑問に思った様子で首をかしげる彼女に、逆にノイルが戸惑っていると、ソプラはその赤い瞳でまっすぐにこちらを見つめてくる。


「私はあなたより強くなるのよ。せっかくある力をなくすなんて、そんなもったいないことしないわよ」


 あまりにもまっすぐで、躊躇いのない言葉と瞳に……ノイルは、思わず頬を緩める。


 ーーー本当に、昔からブレないよなぁ。


 そんな彼女が、ノイルは可愛くて仕方がなかった。

 だから、ついついからかいたくなる。


「ソプラらしいね」

「当たり前じゃない」

「そんなに俺と結婚したい?」

「……ッ!!」

「あ、おっきな声を出したら周りに聞こえちゃうよ?」


 ボン、と顔が真っ赤になった彼女が怒鳴り声を上げる前に釘を刺す。


「『ノイルより強くなる』……そろそろ待ちきれないんだけどな?」


 肩を震わせて笑い声を抑えたノイルは、口をパクパクさせるソプラに、ベッドから腰を上げて近づいた。


「ねぇ、ソプラ。ソプラはずっと昔から俺のものだけど、いつまでも我慢できないよ?」


 彼女の滑らかな白磁の頬を指先で撫で、耳元に口を近づけて囁く。


「いつ、俺より強くなるの? 約束は、破りたくないんだけどな?」


 もはや言葉もなく硬直しているソプラからは、甘い香りがした。

 

 ーーーでも、我慢だ。


 ノイルはソプラを支配下に置きたいのではなく、並び立って欲しいのである。

 その時に、彼女は最高の女になっているはずなのだから。


「とりあえず、邪神は倒さなくちゃね。そのために何をするのか、ってところかな。今悩んでいるのは」


 体を離してベッドに戻ると、片手で胸元を抑えて唇を震わせるソプラがこちらを睨みつけてきている。


「あれ、どうしたの?」

「……どうもしないわよ!」


 全力で横に目線を逸らした後、バカ、と言った彼女は、そのまま言葉を重ねた。


「私は、どうやったら強くなれるかは分からないけど、とりあえずノイルと一緒に行動はしないわ」

「あ、そうなの?」

「だってそれ、結局守られてるだけじゃない。養成学校の時と何も変わらないままじゃ、どうしようもないもの」


 ソプラの判断に、ノイルはうなずいた。


「じゃ、どうするかは決まったね」


※※※


 ーーー数日後。


「じゃ、ここでお別れだね」


 ミシーダの街の前に出現した、転移魔車シフトレイン……最初にノイルを迎えに来た乗り物を前に、ノイルはソプラに声をかける。


 邪神を倒すために協力する、とイストにノイルが告げると、彼は礼を述べた。


 見送りに来た彼とチューンを前に、ノイルとソプラ、それぞれのパーティーが並ぶ。


 こちらは、ソー、ラピンチ、バス……そしてメゾ。

 ソプラの方は、アルトとオブリガード、そしてテームである。


 これからノイルは、残りの魔王の宝具と功績を集めるために。

 ソプラは、聖剣の力を使いこなすためにテームの指導を受けながら、功績を集めていくことになる。


 魔性フィスモールを倒した功績は破格だったが、まだまだ足りない。

 逆に、そうしてもらったのだが。


 ーーー先ずはお互いに強くなり〝勇者の祭典ブレイヴ・オリンピア〟で勝ち上がる。


 それが、ノイルたちの出した結論だった。

 一番分かりやすい強さの指標であり、勝てればSランク冒険者に認定される。


 そして、祭典で勝ち上がるのは、それが主催者である聖女アルファに近づく最も早い道だった。

 

 祭典まで、後三年。

 

「次に会った時に驚きなさいよ。絶対、二度と、ノイルには負けないんだから!」

「俺もそうなることを願ってるよ」


 ビシッと拳を突き出してきた彼女に、コツン、と拳を当て返したノイルは、仲間たちと共に転移魔車シフトレインに乗り込み、見送る者たちに大きく手を降った。




「じゃ、またーーー〝勇者の祭典(ブレイブ・オリンピア)〟で!」




Fin.


本当はこの後、伝承文みたいな感じで『その後』を描いても良かったのですが、まだ一番前である雑用係が終わってないので(なんでだ)やめておきました。


気が向けば、また書こうかと思いますが、とりあえず予定していたファーストピリオドまでは(予定外はあったものの)書けたので、筆を置きます。


お付き合いいただき、ありがとうございました!


また新作を出した際には、よろしくお願いいたします。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひと段落 俺たちの戦いはこれからだ! ですねw 3年後 やっぱりノイルが強いんだろうなw 隠して言葉でごまかしそうだがw [気になる点] 続きはいつかなぁ? [一言] ルーターが壊れて交換…
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