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闇の勇者は答えを保留する。


「俺たち、って言うのは……ソプラと、俺ですか?」

「そう。後はメゾだな」


 イストの言葉に、チラリと女魔王に目を向けると、彼女は楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべている。


「いやぁ、種明かしは楽しいな?」

「される側は驚いてばかりで楽しくないですけどね」


 言いながら、ノイルは口の前で指を組んで円卓に両肘を置き、得た情報を頭の中で整理する。


 魔王アインスと勇者オメガの戦いから全てが始まり、魔王が世界を征服した。


 聖女アルファが現れたことで、戦乱を避けるために、テームが『オメガ』としてアインスを倒した、と言う演技をした。


 その後、有していた権力を冒険者ギルドと魔道士協会に移して、魔王政府は表向き潜伏、魔の国の影響力は縮小。


 2代目魔王フィーアが立ち、徐々に歴史を改竄した後に〝聖架軍クルセイズ〟が攻めて、三代目魔王メゾが立つ。


 そうして魔王の勢力と争っている聖女の背後には〝邪神〟と呼ばれるモノがいて、それに対抗するために、イストたちはノイルとソプラを探していた。


 という話なのだが。


「……あれ? その頃ってバスは生きてなかったの?」


 確か歳がだいぶ上のはずなのだが。

 そう思っていると、バスはあっさり肩をすくめた。


「まだオラも小僧の頃の話だ。それにドワーフは魔族って言ったとこで、元々地下住みで鉱山掘って暮らしてるからな。魔の国の中に住んでるってだけで、地上の話なんかにゃ大概の連中が疎い。そういう話を知ってる変わりモンは外にいるしな」

「なるほど」


 寿命の長さや暮らし方が違うと、そういうものなのだろう。

 ノイルもドワーフの詳しい歴史や内情などさっぱり知らないので、そこについては納得出来た。


 ーーーそれにしても、構図が逆だね。


 普通に考えたら、邪神の下にいるのは魔王だろう。

 昔の英雄譚なんかでも、大体人間は神に選ばれたというような話ばかりである。


 だが実際に〝邪神〟の下にいるのは聖女で、しかも人類最大勢力だというのに、特に世界は荒廃してもいない。


 しかもその〝邪神〟に対抗するのが勇者と魔王、そして修羅だという話。


 ここが、今までの情報ではよく分からない。


「……メゾがさっきの戦闘の後、邪神の力を吸収していたのは何なんです?」

「流石に頭の回転が早いな」


 イストが、こちらの質問に感心した顔で何度も頷いた後に、答えを返す。


「だが勘違いが一つある。フィスモールを魔性と化した力は、邪神の力ではなく魔王の力だ」

「……それもイマイチ理解出来てないんですが、今の魔王はメゾなのでは?」


 仮に力が引き継がれるものだとしても、この場にいる以外にもまだ魔王が存在するのだろうか。


「俺も古代の文献を紐解いて知ったことだが、肩書きとしての『魔王』ではなく、勇者や修羅と並び立つ【真なる魔王】となるには条件があってな」


 イストは、軽く身を乗り出してノイルの目を覗き込む。


「【真なる魔王】になるには〝7ツ罪セブンス〟と呼ばれる、八つに分かれた魔王の力を集める必要がある」


 その内の一つ『強欲』が、フィスモールが所持していた錫杖に宿っていた、という話らしい。


「魔王の力は宝具に封じられている。うち一つはオヤジが、フィスモールのものも含めて三つは、現在メゾが持ってるんだ」

「……本来であれば敵の力であるものを、邪神だか聖女アルファの側が利用していた、ということですか?」

「相手の思惑は分からんが、可能性はあるだろうな。邪神に対抗する三種の力は、別に善なる力というわけではない。使い方次第で善にも悪にもなる、ただの力に過ぎない」

 

 先ほどから、イストの発言はノイルの常識を覆すようなものばかりだ。


 ーーーただの力、ね。


 邪神だの勇者だの魔王だの、という名前にこだわるから、多少分かりづらい話になっているのかもしれない。


 要は、巨大な力と巨大な力が敵対していて、どちらが勝つかで正義と悪が決まる、そういうことなのだ。


 イストの話を全面的に信じるのなら、だが。

 

 ーーー正直、そういう感じの方が好みだけどさ。


「四つこちら側にある、ってことは、その魔王の宝具は後三つあるんですね」

「そうだ。その内一つは、所在も判明している」


 イストはうなずいて、その名前を列挙した。


 一の罪【傲慢(サマルエ)の杯】

 二の罪【愛欲(サラ)の輪】

 三の罪【強欲(マモン)の杖】

 四の罪【憤怒(オロチ)の刀】

 五の罪【暴食(イクス)の剣】

 六の罪【怠惰(バアル)の瞳】

 七の罪【嫉妬(アタン)の牙】


 その内、傲慢、強欲、嫉妬の三つをメゾが持っており、怠惰をアインスが所持しているらしい。


「……イクスの剣?」


 その内一つに引っ掛かりを覚えたノイルは、自分の腰を見下ろす。


 ーーー双極の剣【イクスキャリバー】。


 メゾから与えられたその魔剣は、つまり。


「ご明察。そいつは魔王の力を宿す宝具の一つだ。……もっとも、他の宝具と一つ違うのは、そいつは昔に存在した修羅の持っていたモンで、そいつの力も宿してるってことだな」


 だから他の宝具と違い、所持者を倒してもメゾが力を吸収できないらしい。


「修羅……つまりお前さんとメゾの間に〝竜の絆〟が結ばれた時、その力は解放されると推測している」

「また新しい話が出てきましたね」


 そろそろ疲れてくるレベルだ。


「もうすぐ終わる。〝邪神〟は、もし完全に復活すればこの世界を滅ぼす存在らしい。それに対抗するには、三つの力を揃えるだけじゃなく、三者の間に〝竜の絆〟が結ばれる必要があるだそうだ。その繋がりがどういう形のことを指すのかは分からないが……カイとメゾの間には、なくてな」

「だから、テームは力を手放したんですね」

「そーゆーことだな!」


 明るい様子でテームが親指を立て、ようやくノイルは、全ての状況に合点がいった。


「絆なら、俺とソプラの間には愛がありますからそこは大丈夫だと思いますが……」

「っ!? ななな、何言ってるのよ!?」

「あれ、何か違う?」


 いきなり話に自分が出てきたからか、ソプラがなぜか真っ赤になっているが、彼女は揺るぎなくノイルのものなのでそこに関しては特に疑いがないはずなのだが。


「素の顔で言うんじゃないわよ!」

「……?」


 理不尽に肩を叩かれて納得がいかないまま、ノイルは首をかしげた。


 だが、そこは特に話を広げるところでもないので、イストに向き直ってまた疑問をぶつける。


「あなたの立ち位置はどうなんです?」

「ん?」

「人間と邪神が敵対的なのは理解しましたが、その中で貴方は何を望んでいるのでしょう?」

「俺自身は、基本的には平和というか、調和を望んでいる。太古に封じられたらしい〝邪神〟を再び退けたい」


 イストの言葉は明瞭で、少なくとも嘘はないように見受けられた。


「俺は、お前さんたちを少し前の〝勇者の祭典(ブレイヴ・オリンピア)〟で見つけて、こいつらだ、と思った。多分10歳になっていないくらいの年齢だったな」


 そうして、こちらを見つけたという時の様子を語ったイストは、最後にパン、と手を叩いた。


「ーーーという事情で、俺たちはお前さんたちと知り合ったってわけだ」


 これで、俺たちの話は全部さ、と言われて、ノイルはうなずく。


「そんなに前から、だったんですね……」

「ああ」


 冒険者養成学校を卒業し、メゾのスカウトを受けて『闇の勇者』になったのは、そうした事情があったのだ。


「〝邪神〟……ですか」


 まだ少し信じがたい気持ちもあるが、フィスモールを目にし、話を聞けば納得も出来る。


「そう。そいつに対抗できる奴らを探して、ようやく見つけたのがお前さんたちだ。……協力してくれないか?」


 イストは、ソプラとノイルを交互に見る。


「ノイル・オロチ。そして、ソプラ・リン……ツヴァイを含むお前さんたちが、邪神に対抗する〝竜の絆〟の持ち主だ」


 俺はそう確信している、とイストはテーブル越しに手を差し出してくる。




「ーーー君たちを、スカウトしたい。世界を平和のままに保つために」




 イストの言葉に、ノイルは即答はしなかった。


「明日まで、考えさせて下さい。その辺りは、仲間たちと話し合って決めることにします」

「いいだろう」


 イストは手を引っ込め、立ち上がった。


「今日はゆっくり眠るといい。もし引き受けてくれるのなら、ツヴァイを魔王職から解放して君たちと一緒に旅立ってもらう」

「え?」

「おぬし、ワシにその間の魔の国のお守りを押し付けるつもりじゃな?」


 黙って成り行きを見守っていたアインスがイストに言うと、彼は鼻で笑った。


「ツヴァイの下で、今まで十分休んだだろ。ちっとは働けよ従将デュラムさんよ」

「それなりに働いとるわバカ息子。じゃがまぁ、いいじゃろう」


 そんな、減らず口を叩き合うアインスとイストを眺めながら、ノイルたちも立ち上がって各々部屋に引き上げた。

 

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[気になる点] アルト置いてけぼり説 [一言] ナチュラルに俺の女宣言ですか。 なんでこいつら関係が発展してないんだ...
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