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闇の勇者と、四天王最弱の男。


 後始末を終えたイフドゥアと再会したのは、宿の食堂だった。


 どうやら魔道士協会と何やら繋がりがあるようで、貸し切りらしい。

 集まっている面々は、円卓に集められた椅子の周りに座っている。


 ノイル側は、ソプラ、アルト、そしてソーと、回復魔法による治療を受けても傷が完治していない様子のバス。


 間には、今のところどちら側とも分からない、オブリガード、ラピンチ、そしてメゾ、デュラム。


 イフドゥア側は、テームと、魔道士協会のチューンである。


「魔王軍四天王、って、何ですか?」


 そこでどこか少し疲れた様子ながら、同時に生き生きとしている彼にノイルは問いかけた。


 テームがなぜ聖剣を操ることが出来たのか、など聞きたいことはいっぱいあったが、まずはそれだった。


 魔王メゾ麾下に存在しているのは三魔将……従将デュラム、文将ノイン、武将ミロクと呼ばれる者たちのはずだ。


「そこらへんの話は長くなるんだが、まぁ、まずは俺の正体を明かしておこう」


 イフドゥアがそう言いながら左手につけた指輪をこすると、彼の姿がゆらり、と揺らめいた。


 服装はそのままに、髪の色と瞳の色が黒く染まり、長く伸びていた髪と髭、そして耳が短くなる。

 肌も、浅黒く染まった。


 瞬きの間に変化したイフドゥアは、アゴに薄い不精ヒゲを生やした、少し目つきが悪くクマのある青年の姿になった。


 それを見て、一番驚いていたのはノイルたちではなく、オブリガードだった。


「イフドゥア大司祭……!?」

「どうした? オブリ」

「だだ、だってその姿は!?」

「こっちが本当の姿なんだよ。まぁ騙してたのは外見と本来の所属だけだ。元々いた『イフドゥア』って奴を殺して化けてたわけでもない。そこは安心しろよ」


 大きく手を広げた青年は、フィスモールにトドメを刺す時にテームに重なった誰か……恐らくは勇者オメガの姿に、より近づいている。


「人間……なんですか?」

「そう、人間だよ」


 ニヤリと笑ったイフドゥアはこちらに目を向け、顎の無精髭を撫でながら言葉を重ねる。


「だが、不老の呪いにかかってる。このテームもな」

「え、死なないの?」


 ソプラがキョトンと言うのに、正体を隠していた男は首を横に振った。


「いや、死ぬ。老いないだけだよ」

「……あなたは魔王軍の人間で、聖協会に紛れ込んでいた、ってことですか?」

「そうだな。だが多分、お前さんの持っている情報とは少し事情が違う。その辺りを説明していこう」

 

 言いながらイフドゥアがメゾに目を向けると、彼女もニヤニヤと告げる。


「イスト……まぁ君たちには馴染みのない呼び方だろうが、このイフドゥアに不死の呪いをかけた〝魔王〟はボクじゃない。ねぇ、陛下?」


 メゾがパスを渡すように声をかけたのは、帽子を目深に被り、背後にひっそりと控えていた従将デュラム。


 最初にノイルを、街まで迎えにきてくれた魔族である。


「……ホッホッホ」


 小さく笑ったデュラムは、帽子に手をかけた。

 それをそのままスルリと脱ぐと。



 ーーー強烈で濃厚な魔力の圧が、その肉体から噴き出した。



「「「「……!?」」」」


 ノイルたちが思わず腰を浮かし、息を呑むほどのそれ。

 しかし、正体を現したデュラムは軽く手をあげる。


「そう怯えるでない。別に危害を加えようとは思っておらんからの」


 力強い声を発したのは、帽子を被っていた時よりもはるかに体格のいい、豊かな白ヒゲを蓄えた老人だった。

 シワだらけだが彫りの深い顔立ちと、どこか茶目っ気のある表情。


 化けた時のイフドゥアの雰囲気に少し似ているが、より威厳が備わっている。

 正体を現すと、チューンとメゾが、まるで彼に対して臣下のような態度を示し、女魔王が口を開く。


「彼が、イストとカイ(・・に不死の呪いをかけた本人ーーーかつて世界を統一した、魔王アインスだよ、ノイル」

「かつて世界を、統一した……?」

「そう、数十年前……そろそろ百年近いか?」

「そうだな」


 イフドゥアとメゾが頷き合うが、そんな話は聞いたことがない。


 アルトに目を向けると、彼女も眉をひそめて考え込んでいた。


「養成学校で学んだ歴史どころか、歴史の文献にも、そもそも魔王が世界を支配していたなんて事実は、なかったはずだけど……」

「そう。闇に葬られた話だからな。聖教会も、俺たちも、積極的にそれをした」

「何のためですか?」


 ノイルは、状況が全く読めなかった。


 メゾは魔王ではないのか、という疑問を覚えたところで、イフドゥアが……本人の名乗りによればイスト、という名前らしい青年が、答えを口にする。


「オヤジは正確には、先々代の魔王だ。順を追って説明しよう」


 フィスモールの魔の国侵攻よりも、さらに昔。


 人間同士のいざこざにより故郷を失ったイストは、双子の弟と離れ離れになり、魔王アインスに拾われたらしい。


 そうした悲劇をなくすために、世界征服を決意したイストはアインスに掛け合い、周辺国を併呑し始めたのだそうだ。


「その時にオヤジの下で一緒に戦ったのが、俺と現魔王のメゾ、その前に魔王だったフィーア、そして今はチューンと名乗っている、そこのドライだ」


 話を振られた相手は、目深に被っていたフードを下ろす。


 現れたのは、縁無しメガネをかけた美女だった。

 彼女も指輪をこすると、イストとは逆に耳と犬歯が伸びて牙となる。


吸血鬼(ヴァンパイア)……」

「そうだ。そして我々は、いつしか魔王軍四天王と呼ばれるようになった」


 チラリとチューンが目を向けたのは、ラピンチだった。


「……こんな短時間に二回も起こしてご主人怒らねぇ? ナァ?」

「お前さんも、隠し事をし続けるのはしんどいだろ?」


 イストの言葉に、頬を掻いたラピンチがボソリと呪文を呟く。


 すると、ラピンチが少しグロテスクな感じで二つに分かれ、一人の幼女と小竜に変化した。


「お、前……女だったのか……!?」


 長年付き合った相棒の正体にソーがあんぐりと口を開けると、小竜のほうが口を開く。


「俺っちはこっちだよ、ナァ?」

「フィーアは、フィーア・スキャットだよ!」


 ピコン、と幼女が元気よく手を上げるのを見て、ノイルはさすがに頭に手を当てた。


 大昔に存在したという魔王軍四天王がいて、その内二人が元魔王。


 つまりこの場には、アインスを含めて三人の魔王がいるという話なので、もはや意味が分からない状況だった。


 しかもフィスモールに傷を受けたというフィーアは、多分魔性化したあの男に傷を負わせた魔族なのだろうが、どう見ても天真爛漫な幼女にしか見えない。


「……ずっとそのままでいない? ラピンチ。華があるし」

「ご主人がそれで良けりゃ俺っちはいいけどな。ナァ?」

「ヤダよー。フィーアはお昼寝したいもん!」

「何バカなこと言ってんのよ」


 ソプラに冷たい目で見られてノイルは肩だけすくめてみせる。

 あまりにも話が常識外れなので、少しバカなことを言いたくなったのだ。


「まぁ、話を戻そう。そうしてオメガを倒して世界征服を成し遂げた俺たちは、順調に世界をよりよくして行った。ああ、一つ言い忘れてたが、俺はオメガの兄だ」


 先ほど話に出てきた生き別れの双子が、勇者となったらしい。


「だから顔が似てるのね」

「双子だからな。ま、正確にはもう少しややこしいんだが、そいつは置いとこう。かつて俺たちは、二つに分かれて戦った。オメガは勇者として、俺は魔王軍で〝四天王最弱の男〟としてな」

「それが、聞いている話と違いますね。魔王を破った勇者オメガの功績を称えて〝勇者の祭典(ブレイヴ・オリンピア)が作られたのでは?」


 そこに関しても、イストは淀みなく答えた。


「そいつは、ソプラの嬢ちゃんの前にレーヴァテインに選ばれた、カイ……テームの話だな」


 闇に葬られた部分の一つで、魔王を表向き倒したのは〝勇者オメガの再来〟としてその名を名乗ったテームだったらしい。


「それ自体も、ある程度計画通りだった」

「なぜ魔王政府を解体したんです?」

「今、神聖都市を仕切る聖女アルファが反旗を翻そうとしたから、というのが理由の一つ。もう一つは〝邪神〟の存在だ」


 天使の軍勢を召喚し、イストたちに牙を剥こうとした聖女アルファと正面から衝突すれば、再び世界が戦禍に包まれる。


 それは、イストたちが望んだことではなかったという。


「だから、魔王政府の権限を解体し、魔道士協会と冒険者ギルドの二つに権限を移し、財政面からの支配という形だけを残した。アルファと交渉し『負けたオメガの名誉を回復する』という条件で、全面戦争だけは避けることが出来たからな」

「そんな条件で?」

「ていうかその前に、なんでレーヴァテインを持ってたテームさんが生きてるのに、私が勇者に選ばれたの!?」


 ノイルとソプラがそれぞれに疑問を口にすると、イストがなだめるように手を上げる。


「落ち着けよ。……アルファは、オメガのパーティーの一員で、アイツの恋人だった。俺たちを恨んでいたのは、俺たちがオメガを殺したからだ」

「レーヴァテインに関しては、オレが自分から勇者の力を手放したんだよー」

「力を手放すって、そんなことが出来るんですか!?」

「可能だった。その理由もあるが、そいつは置いといてくれ。重要なのは、もう一つの理由のほうなんだ」


 ノイルは、イストの言葉に疑問を飲み込んだ。

 そしてこちらもまだ聞きたげなソプラに目配せした後に、改めて彼が話したがっていることに対して疑問を投げる。


「もう一つの理由、というのは〝邪神〟に関すること、ですか?」

「そうだ」


 イストは、それまで浮かべていた笑みを消し、真剣な表情で円卓に肘をつく。


「アルファの背後には〝邪神〟がいる。ーーーそれに対抗するために、カイは勇者の力を手放し、俺はお前さんたちの出現を待っていたんだ」

 

今話での詳細については、話と目次のリンクにある『魔王軍のスカウトマン』にてどうぞ(๑╹ω╹๑ )位置付け的には前日譚ですが、読まなくても内容は理解可能なように次話を書きまするー

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[一言] フィーアがラピンチの背中でお昼寝すれば解決だね!
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