闇の勇者と幼なじみは、トドメの一撃を加える。
ーーーなんでテームが、聖剣を?
ノイルの頭を一瞬よぎったのは、その疑問だった。
聖剣や魔剣は、その所持者として選ばれた者しか手にすることは出来ないはずの神器である。
選ばれたのはソプラのはずなのに。
しかしそんな疑問を問いかけている余裕はなかった。
フィスモールの作り出した重圧の空間に、ノイルたちは囚われており、敵はさらに何かの魔法を放とうと魔力の気配を錫杖に集めている。
呼びかけてきたテームは、混乱するノイルと目線を向けたソプラに向かって、聖剣を肩に担ぎながら吼える。
「今の、英雄形態で共鳴したお前らなら、これが出来るはずだ! 見とけよォ!!」
テームは、そのまま呪文を口にする。
「〝急襲形態ーーー超越活性〟!」
ゴァッと、テームの体を覆う力と気迫の圧が明らかに増した。
〝急襲形態〟は、剣士の中位スキルである。
〝加速形態〟同様に瞬発力を大幅に強化する代わりに、効果時間の短い形態だ。
しかし、その後に告げた『超越活性』の文言に聞き覚えがなかったが……おそらくは、さらに上位に位置する何らかのスキルなのだろう。
テームは、英雄形態であっても動くのがようやく、という〝黒風圧〟の影響下にありながら、かなりの速度で走り出した。
「「!?」」
ノイルも、そしてソプラもその動きに目を見張る。
テームは勢いを緩めないままフィスモールの体を蹴り上がっていく。
「オメガァ! 行っくぞォオオオオオオッ!?」
駆けながら彼が叫ぶと、聖剣が応じた。
正確には、聖剣に嵌った赤い宝玉が輝きを増し、そこから一人の男の幻影が浮かび上がってテームの姿と重なる。
ーーーイフドゥア?
一瞬見えた青年の横顔が、そう見えたと思った瞬間にその輪郭が薄れて、ゆらりと幻影のような浄火の鎧がテームの体を包み込む。
最後、フィスモールの肩を跳ねて振り向き、王冠の錫杖に狙いを定めると、赤く染まった瞳を輝かせる。
「オォオオオ……ッ! ーーー《浄火の一撃》!!」
刀身に赤い炎のような輝きが揺らめき、袈裟懸けに斬り払った刀身が柄頭のねもとに叩きつけられ……。
……キィン、と音を立てて、真っ二つになった。
その途端〝黒風圧〟の重圧が消える。
ーーーソプラッ!
ノイルがとっさに心の中で呼びかけると、彼女は一瞬こちらに目を向けてからテームの方に向かって駆け出した。
「見たかぁ!? 受け取れぇッ!!」
テームが振り抜いたレーヴァテインを投げると、完璧なタイミングで受け取ったソプラが体の脇に聖剣を構え、切っ先を地面に向けたまま駆け抜ける。
そして、共鳴状態のノイルにも、彼女に力が戻ったのが理解できた。
ーーーやるわよ、ノイル!
ーーー了解。
交感した想いを受けて、ノイルも偃月刀を構える。
「「ーーー〝超越活性〟!」」
二人で同時にそう口にすると、ぐわん、と視界が揺れた後に、〝凶化〟の時と同じように辺りの時間の流れが緩やかになる。
しかも、体に宿る力が増した。
ーーー行ける。
それをノイルが感じ取った瞬間、ソプラが跳ねた。
フィスモールの顔の真正面まで跳躍し、空に向けて大上段に構えた聖剣が陽光にきらめく。
ノイルは、逆に地を這うようにフィスモールの背後に回り込み、刺突の構えで強く地面を蹴る。
赤と、青。
二種類の輝きを宿した二本の刀身。
ノイルは、ソプラとタイミングを合わせて、頭に浮かんだ文言を口にする。
「ーーー《浄火の一撃》!」
「ーーー《月下の一閃》!」
ソプラが振り下ろした、灼熱の斬撃と。
ノイルが下から突き上げた、凍閃の刺突。
それぞれに魔性を捉えた一撃が、ちょうど心臓の位置で重なり……。
『ギィギャァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ……!!』
ソプラに頭を割られ、ノイルと相互に増幅した聖なる力に急所を灼かれたフィスモールが、断末魔の叫びを上げて黒い塵と化し、爆発した光の中に溶け消えた。




