闇の勇者は、剣士に改めて名乗られる。
「すごいな……」
フィスモールを貫いた一撃を見て、ノイルはメゾの【破聖の欠片】の威力を思い出していた。
ーーー世の中は化け物ばっかりだなぁ。
イフドゥアは彼女とも知り合いのようだ。
もしかしたら、彼の周りの連中がヤバイのかもしれなかった。
突然現れた竜の姿と、一瞬の閃光。
ーーーラピンチ、かな?
ここまでの流れを読んで、ノイルは結界に向かって走り抜けながらあの竜の正体を推測した。
隠していた奥の手的な何かなのだろう。
ノイル自身がソーやラピンチと知り合ったのは、本当に偶然でしかなかったが。
ーーー俺ってやっぱり、運がいいんじゃないかな。
そんなことを考えながら、煙の向こうから現れた、ブヨブヨと膨れ上がっている体を焼かれたフィスモールに目を向ける。
「で、ノイル。アイツをどーやって倒すんだ?」
テームが剣を肩に担ぎながら並走して問いかけてくるのに、ノイルは仲間を見回した。
フィスモールに故郷を滅ぼされ、家族を奪われた虎獣人の拳闘士、ソー。
敵の執着するレーヴァテインの作り手の子孫であり、また敗北を喫して腕を奪われたドワーフの戦士、バス。
オブリガードを殺されかけて、怒りに燃えている幼なじみで勇者の少女、ソプラ。
そして新たな力に覚醒したノイル自身と、イフドゥアも認める謎の剣士テーム。
「どうやって、って……このメンツで、逆にどうやって負けるつもりなの?」
ノイルは、軽く笑みを浮かべて偃月刀の切っ先をフィスモールに向ける。
「ーーー正面から、ぶっ潰すんだよ」
シンプルにしてベストな方法だ。
ノイルは、相手が凄まじく強大な相手であることを冷静に見極めながらも、全く心配していなかった。
イフドゥアからの支援も受け、このメンツで負けるわけがない。
「動きは俺が指示するよ。そして最後は、ソプラの浄火の一撃でトドメを打つ。作戦はそれだけだよ」
「ふーん」
テームは軽く片眉を上げた後に、ニカッと笑みを浮かべた。
「やっぱ良いな、お前! この件が終わったら、ちゃんと仲間にしてくれよ!」
「え? いいの?」
確かにノイルは彼をスカウトしたが、イフドゥアの配下なのではなかったのか。
「いいのいいの! イフドゥアもただの仲間だし、最近一緒に旅してくんないしさ! お前といる方が楽しそうじゃん!」
バンバン、と背中を叩かれた後、テームはさらに言葉を重ねる。
「それに〝修羅の適性〟っての、むちゃくちゃ凄いし惚れたんだよ、オレ! 前に〝凶化〟使ってたのに、今は〝奉化〟使ってるし! 暗黒の剣技や英雄の剣技だけじゃなくて、全く性質が違う英雄形態を二つも持つヤツ初めて見たもん!」
「そうなの?」
「そうだよ! 英雄形態の中でも〝凶化〟ってのは己の道を突き詰めた悪鬼みたいな奴が得るもんで、〝奉化〟は忠義を誓う主人を持つ高潔な聖騎士の得るもんだしさ! お前がヤベーってのは、それだけで分かる!」
なぜか嬉しそうなテームに、ソーとバスが顔を見合わせる。
「いや、ノイルが規格外なのは今更だけどよ……」
「まぁ、オラがコイツにならついてってもいいと思えるヤツだからな」
言いながら、二人はソプラに目を向ける。
「主人……ってよりは、飼い主……?」
「振り回されるのか振り回してんのか分かんねーが、お似合いなのは確かだ」
「んにゃ!? なな、何の話よ!?」
二人のニヤニヤした顔に、ソプラが真っ赤になりながらこちらを睨みつけてくる。
「あ、あなたが変な英雄形態出すから、話が妙な方向に転がったじゃないの! バカノイル!」
「これはとばっちりじゃないかなー……」
〝奉化〟を発現させなければ、ソプラの力も増さなかったのだが。
「それに別に、誤解でも何でもないし。ソプラのためなら、俺死ねるよ?」
「ーーーー!!!!!」
言葉もなく、固まって口をパクパクさせるソプラに、テームがニヤニヤする。
「おやー、ごっそさん! ソプラって、オレの嫁さんにソックリだわ」
「え? テーム、奥さんいるの?」
めちゃくちゃ若そうに見えるのに、と思いながらノイルが聞くと、テームはうなずいた。
「もう死んだけどな。ああ、別に殺されたとかじゃなくて、普通に寿命でさ」
「……?」
「ま、そこら辺の話は、また落ち着いた時にでもするよ! イフドゥアとも話すんだろ?」
「うん、それはそうだけど」
「そういえば、オレ、ノイルにフルネームまだ言ってなかったよな。改めて今言っとくよ」
「え? うん」
テームは、笑みを晴れやかなものに変えて、親指を立てた。
「オレは、カイ……カイ・テームだ! これからよろしくな、ノイル!」
そこで、結界にたどり着いたノイルたちは、結界を張っている者たちの援護を受けて、中に飛び込んだ。




