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闇の勇者は化け物を利用する。

 

 ーーーその頃、ミシーダの街中央広場。


「あの魔獣ヤベェな……」


 戦闘の振動を感じながら、イフドゥアはダガーを手に街中で暴れまわる魔獣を見上げた。


 ニュートリノ・タイラントサウルスと魔道士が合体した魔獣……メゾの魔力を吸って生まれ落ちたキメラだ。

 もはや〝魔性〟と呼んでも差し支えない。


「いくら何でも厄介すぎるだろ」


 イフドゥアは髪をかき上げつつ、後方でため息を吐いた。


 街中を侵攻して来るキメラと対峙しているのは、剣士テームと魔道士協会議長チューンである。


 飛翔魔法を行使して、チューンが敵の気を引きつけている間に、住民はどうにか全員安全地帯に逃がすことに成功していた。


 元々魔道士と治癒士の集まりである。

 魔道士協会の面々が風の拡声魔法で避難誘導を行い、その後イフドゥアの指示の元、戦闘に参加可能な者はすでに参加させている。


 しかし、状況は全く良くならない。

 足止めには成功しているものの、キメラの再生能力が高すぎるのである。


「チューン、テーム。どうだ? 殺せそうか?」

『無理ね。日が沈めばまだやりようはあるけど』

『めちゃくちゃ硬い! この武器じゃ無理!』


 それぞれの返事に、イフドゥアはアゴヒゲを撫でる。

 チューンは闇魔法を得意とするため、昼間は攻撃の威力が低くなるし、潜入していたテームが握っているのはハイランクではあるが、ごく普通の片手剣である。


「どうするかな……」


 元凶のメゾを喚び出して始末させるのも無しではないが、そうなると戦闘後に大騒ぎになるのは目に見えている。

 またイフドゥア自身にも手が無い訳ではないが、それもそれで今後に差し支えがあった。


「後はラピンチか……聖剣か」


 ノイルたちに付き添っているあの竜人か、レーヴァテインであれば始末も可能だと思われた。


 するとそこで、強烈な魔力震を感知した。

 ステンドグラスが砕けるような音が背後から聞こえる。


「何だぁ!?」


 イフドゥアが振り向くと、議事堂から空に向けてバキバキと空間がひび割れるような筋が走り、そこから幾つもの光点が飛び出してあたりに散っていく。


 その中でも一際大きなそれが、議事堂の前にすぐに落ちて、巨大な何かを姿を形作った。


「転移魔法……!?」


 だが、今の魔力震は明らかに通常のそれではない。

 空間に広がる芳香は、焦げ臭さが混じったもの。


「いや……フィスモールの時空魔法が暴発したのか……! あのボケ……!」


 どうやら、あの男はノイルの試練を邪魔にし行ったらしいことを、イフドゥアはそれで悟る。 

 対象を異空の彼方に吹き飛ばす最上位魔法は、一歩前違えば世界を抉るような魔法だ。


 幸いに、今回は単に人々を弾き飛ばすに留まったようだがーーー新たに議事堂の前に現れたモノを見て、イフドゥアはガシガシと頭を掻く。


「ド畜生!! ここに来て魔性がもう一匹かよ……! 何でこんなところに居やがる!?」


 それも、先代魔王の代に『魔の国に突如出現した』と言われるモノに酷似した、王冠を被る巨大なゴブリンキング……通称〝強欲の王マモン〟だ。


 イフドゥアは、目を凝らして見たその顔に、見覚えがある気がして舌打ちした。


「ッ……フィスモールかよ」


 邪神の一族と言われる魔性〝七ツ罪セブンス〟の一柱。

 その正体が、昔、先々代勇者パーティーの魔道士だったあの男らしい。


「流石に気づかねーわけだわ……人に化けれるのか、邪神どもは」


 となると、神聖都市ナムアミのトップ……大聖女ディ・ガンマと名乗るアルファのほうも、同じく邪神の代わり身になっている可能性が高かった。


 しかし今は、そんなことを考えるよりも目の前の脅威をどうにかしなければならない。


 まずは現状確認だ。


 聖剣の試練がどうなったのか。

 あの飛び散った光点がノイル達ならば、とイフドゥアは『賢者の札』を取り出して、一人の男に呼びかけた。


「ラピンチ! 生きてたら応えろ!」


※※※


「……!」


 バッと目を開けたノイルは、一瞬、自分の置かれた状況が理解出来なかった。


 視界に映るのは青空。

 遠くで、騒がしい喧騒と戦闘の気配。


 ガバッと身を起こすと、ノイルは議事堂の後ろにある滝の落ちる崖上にいた。


 眼下にはフィスモール・イプシロンが変異した怪物と、遠くに腐ったニュートリノ・タイラントサウルスの姿が見える。


「なん……だアレ……!?」


 どうやら自分は、聖剣の間から外に吹き飛ばされたらしい、というところまでは分かったが、目の前の現状は何がどうなっているのかさっぱりだ。


「うう……ん……」

「ソプラ?」


 呻き声が聞こえたのでそちらに目を向けると、ソプラが真横でノイルと同じように横たわっていた。


 手元に聖剣レーヴァテインもちゃんとある。


「ノ……イル……? え、何がどうなったの!?」


 同じく混乱しているらしいソプラを見たことで、ノイルは少し落ち着きを取り戻した。


 ーーーまぁ、何が起こったかは後で把握するとして、要は仕切り直しだな。


 状況そのものは悪化しているようだ。

 何せデカい怪物が1匹増えている。


 しかし、どうやら誰かが戦っているようで、散発的に遠くにいる腐った怪物の周りで散発的に攻撃魔法の輝きが弾けていた。


 こっちの戦力も増えている、ということは、一概に悪くなっているばかりでもないかもしれない。


「ソプラ。一つだけ確認させて欲しいんだけど」

「何よ?」


 戦場を見つめていた彼女が首を傾げるのに、ノイルは問いかける。


「ソプラは、聖剣の主人になった、ってことで良いんだよね? 浄火の鎧纏ってたし」

「多分ね。なんか、オメガとかいう人間だか精霊だかよく分からない、元勇者とかいうのが『認めた』って言ってたから」

「なるほど。……オメガ?」


 その名前に、ノイルは眉根を寄せた。

 聞き覚えのある名前だったからだ。


「それ、フィスモールも口にしてたけど。第一回〝勇者の祭典(ブレイヴ・オリンピア)〟が開催される理由になった勇者の名前じゃないの?」

「あ、そうなの?」

「授業で習ったはずだけど」

「歴史苦手だし」


 ソプラはあっさり肩をすくめるが、覚えてないことはあまり誇れた話ではない。


 ーーー昔の勇者の魂が聖剣に宿ってる、のか。


 そんなことを思いつつ、ソプラが聖剣の主人になった事実を確認できたノイルは、続いて戦場に目を向ける。


 フィスモールはこちらに気づいておらず、暴れ回る怪物に注意を向けている。


 味方同士、というわけではないのだろう。


 そして暴れる姿を見るに、腐った怪物の方には知性がない。

 

「で、これからどうするの?」


 ソプラの問いかけに、一つ思いついたことがあったノイルは、ニヤリと笑いながらアイテムを一つ取り出した。


「何、それ?」

「メゾからもらったもう一つの魔導具だよ。【操心の蛇】っていうらしい」


 蛇が玉に巻きついたような、【破聖の欠片】とはまた違った意味で不気味な意匠のものである。


「教会の壁を吹き飛ばすための魔導具が欠片なら、中から潜入するための魔導具、ってところかな。なんか、念じた対象の心を操れるらしいよ」

「……凄く嫌なアイテムだけど、それをどうするの?」

「こうするんだよ」


 ノイルは玉を掲げると、腐った怪物を操ることを念じた。


 すると魔導具が起動して、腐った怪物の頭を取り巻くように紫の雲のような光が発生し、ビクン、と怪物が身を震わせる。


「お、操れた」

「……そ、それでどうするの?」

「こうするんだよ」


 引きつった顔をするソプラに、ノイルはにっこりと笑みを浮かべてみせてから、動きを止めた怪物に念じる。


「ーーー『フィスモールに襲い掛かれ!』」


 すると、グルン、と頭を……よく見ると人の上半身のような形をしている部分をフィスモールに向けた腐った怪物は。


 四つん這いになると、体に叩きつけられる攻撃魔法を無視して、フィスモールに向かって大通りを駆け抜け始めた。


「これでよし」

「よしじゃないわよ!?」

「しばらく時間が稼げるんだからいいじゃない。今のうちに、他の連中と合流しよう。多分同じように吹き飛ばされてるはずだからさ」


 言いながら、ノイルは【賢者の札】を取り出して片目を閉じた。


 イフドゥア大司教やチューン議長と再会出来れば、そちらとも連携が取れるようになる。


 そんなことを思いつつ、ノイルはまずバスに連絡を入れた。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ……ん?匂い? となると、イフドゥアってもしかすると、もしかしちゃったりするんで? でも、互いに顔は知ってるハズだから殺し合いになりそうなモノだし、エルフの血が云々って話は一体……?不…
[良い点] オメガの仲間ってこんなやつばっかか? と思ってたら邪心の使途かよw [気になる点] 滝の真上だと落ちない? [一言] もうワチャクチャでんがなw
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