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若作りどもは曲者揃い。


 獣人の声音に含まれていた殺気に、ノイルは仲間たちと目を見交わした。


「ソー。フィスモール大司教が聖架軍のリーダーだったら、何か問題があるの?」

「……」


 問いかけるが、ソーは黙りこくったまま答えない。


 だがあぐらを掻いた彼の両手は固く握り合わされており、全身の毛並みが逆立って目が底光りしていた。


 明らかに尋常な様子ではない。


 どうやらラピンチは何か知っているようで、少し困ったようにアゴを掻いていたが、ジッと見つめると彼は首を横に振った。


 他人の問題だから勝手に話すわけにもいかない、とこちらとソーを行き来する視線が雄弁に語っていた。


 普段のおちゃらけて軽そうな印象とは裏腹に、ラピンチの口は固いらしい。

 しかしいつまでも黙っていても仕方がないので、ノイルはオブリガードに話を戻した。


「聖架軍の侵攻って、数十年前でしょ? いくらなんでも外見が若すぎない?」

「フィスモール大司教は、多分、かなりのトシだよ」


 赤髪の少女は、チラチラとソーを気にしながらこちらの質問に答えた。


「あの人が大司教なのは、〝長寿の秘法〟を見つけ出しただか何だかで取り立てたられた……って話を、座学で習ったこ気がするし」

「知ってる人について習ったにしてはずいぶん曖昧だね」

「勉強嫌いだもん。教会史なんて特にイヤだったし、話半分にしか聞いてないよ」


 真面目に受けたのは魔法の授業だけ、と言いながらアハハとオブリガードは笑ったが、ソーの殺気のせいでわりと虚しい響き方をした。


 ーーー気持ちは分からないでもないけど、そこは覚えておいて欲しかったなー。


 と、内心でノイルは思いつつ、人差し指の先を擦り合わせながら話を続ける。


「まぁ、外見が若い理由はそれで納得できるけどさ」

「本当は、大司教の中でも、かなりトシ行ってるかもしんないよ。たまに本拠地から来る同じ肩書きのジジイ達も敬語だったりするし」


 本当に口が悪い聖女だ。

 話すときに歪めている顔を見ると、本当に街の斥候連中とそう変わらない印象になるので、彼女にとってはそっちがホームなのだろう。


 まぁ、それは今は関係ないので、ノイルは別の気になったことを聞いてみた。

 

「フィスモール大司教が上の方なのはともかく、そうなると、イフドゥア大司教が普通に接してたのは何でかな?」


 それどころかタメ口アンド馴れ馴れしい、というコンボを決めていた感じがある。

 教会内での敵対勢力で、かつイフドゥアの方が若いのならああした態度は取らない気がした。


「性格の問題?」

「イフドゥア様はそこまで礼儀を知らない人じゃないよ。あの人は、ハーフエルフだから」


 疑問は、オブリガードがまたもあっさり解消してくれる。


「へー」

「だから、フィスモール大司祭と年齢はそう変わらなかったはずだよ」

「なるほど。……ところでオブリガード。そういう情報って凄く大事だから、先に言っておいてもらえると嬉しいんだけど?」

「そんなん、言う暇なかったしさ。そもそも大事かどうかとか知らないし」


 オブリガードは特に悪びれもしないし、なんなら彼女の言う通りではあるのだが。


 ーーーそもそも君は、教会から抜け出したいんじゃなかったっけ?


 『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という格言を知らないのだろうか。


 利害の一致しない相手と争う時は、どんな些細な情報でも所持しておくものだとノイルは思っているのだが……まぁ、ソプラとオブリガードはそういうタイプではない。


 嫌だと思ったら目にしたくない、そんな風に感情に素直に従って生きているのだろう。


 理解は出来ないが、慣れてはいる態度だ。


「……何をじーっとこっちを見てるのよ?」

「いや、二人って似てるなって思って」


 ソプラの問いかけに言い返すと、彼女は歯を剥いた。


「ちょっと失礼ね!? さすがに私、オブリガードよりは色々考えてるつもりなんだけど!?」

「それはアタシのセリフだよね……いくらノイルでもちょっと」


 二人の嫌そうな顔を見て、やっぱり似てるなーと思いつつ話を戻した。


「ま、それはともかく。イフドゥア大司教がハーフエルフっていうのは意外だったな」


 外見からすると、エルフに共通する彫りの深い整った顔立ちや白い肌という特徴はあるようだが、耳を隠しているとただの偉丈夫にしか見えなかった。


 ちなみにエルフ族は、魔族ではなく人族の近親として扱われている。


 種族としては厳密には別なのだが、遥か昔から人間と共存し、知恵をもたらしてくれていたと言われているからだ。


 厳密には魔族扱いのドワーフよりも、さらに人に近しい種族である。


「イフドゥア様が髪を長く伸ばしてだらしなさげにしてるのは、あんまり尊敬しているような扱いをされるのが好みじゃないからだって言ってた。エルフってだけで無条件に尊敬する人もいるのが嫌だって」

「やっぱ変わり者だね」


 出自から態度まで、全てがその生まれ持った属性から乖離しているあの大司祭に、ノイルはますます好感を持った。


 ーーーしかし、見た目で年齢が分からない連中が上層部にいる、となると、神の使徒も魔族と変わらないな。


「ねぇノイル」

「何、ソプラ」

「表情がすごく不敬なこと考えてる時のニヤけ顔になってるんだけど」

「ご明察だね。でも俺、敬意を払ってる相手には失礼な態度は取らないよ」

「例えばあなた、誰に敬意を払ってるの?」

「バスさんとか」


 ジトッとした目をこちらに向けてきたソプラに軽口で答えると、彼女はそれ以上何も言えなかったようで黙り込んだ。


 だが、これだけ軽いやりとりをしていても、ソーの顔が和まない。

 正直ピリピリとしているくらいならさっさと話して欲しいんだけど、とノイルは困った、という意思表示をしつつバスを見る。


 すると隻腕のドワーフは軽く眉を上げた後に、凄みのある視線をソーに移した。

「なぁ、虎頭よ」

「……何だよ」

「オメー、いつまでも辛気クセェ顔してねーで、あのイケ好かねー大司教とどんな因縁があんのかさっさとゲロっちまえよ。ンな風にいつまでも殺気立ってられたら鬱陶しいんだよ」


 あまりにも率直すぎるその物言いは、この場ではバスしか口にできないことだった。


「……前に聖架軍の名前が出た時も、何かありそうだったよね」


 ノイルが言い添えると、全員の意識がソーに集中する。

 すると彼は、視線を足場に落としたまま、ポツリと相棒の名前をつぶやいた。

 

「……ラピンチ」

「俺っちに訊くなよ。そいつはお前の話なんだから、話すかどーかは自分で決めろよ。ナァ?」


 相変わらずアゴを掻いて困った様子を見せている竜人の返事に、ソーは深く息を吐く。


「……そうだな」


 呻いた後、それでもしばらく迷っている様子を見せてから。

 ソーはやがて、ポツリと言った。


「ーーーノイル。俺の故郷はな……昔、聖架軍(クルセイズ)に滅ぼされたんだ」

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 正義に酔ったバカは始末におえんからね・・・ 昔も今も
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