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闇の勇者は、飯が食いたい。


 棚段に上がってから二時間。


 刻みを作る作業は得意なバスに任せることにして、ソーを補助につけた。


「ヘタクソだな虎頭。そうじゃねぇよ」

「うっせ。登れりゃ良いだろ、登れりゃ!」


 隻腕のバスは最初にソーに刻みを打たせて、それの形を整える方式で登り道を整えていっている。

 幸い冒険者の必須アイテムであるヒモとピックは余るくらいあるので、二人は壁にぶら下がりながら作業をしていた。


 その作業を、棚段に膝を抱えて座ったソプラが見上げている。


「ていうか、ピックがあれば別に刻みいらないんじゃ?」

「装備揃えるのに、そこそこお金使ったしね……節約出来るならするべきでしょ?」


 ニュートリノ・タイラントサウルスの死骸を入手出来ていれば、そこまで気にする必要はなかったが……残念ながららぬタヌキの皮算用だ。


「この件が終わったら、少しお金貯めないとねー」

「……無事に終わるかしらね?」


 ソプラが軽く首をかしげると、白い髪がさらりと肩を流れた。

 少し不安に思っているのか、赤い瞳が陰っている。


「無事に終わらせるんだよ」


 そのために、わざわざ魔王に許可を取ってソプラのそばにいるのだ。

 勝利をもたらす剣とやらは、真実なら必ず彼女の力になる。


 するとソプラはフッと口元を緩めた。


「そうね……」


 ーーー?


 なんかいつもに比べて素直だな、と思いつつ、洞窟の下を見張っていたノイルは眼下を覗き込んだ。


「あ、そろそろかな?」


 またスライムたちが近づいてきて、赤い輝きが増してきている。


 すでに何体か捕獲して、そのままの形で固める方法を試していた。

 槍で穴を空け、引き抜かないまま柄を通して中身を凍らせると、問題なく巨大な照明になったのだ。


 そうして固めたスライムは、バスたちの作業がしやすいようその足元に転がしていた。

 アルトが見張っており、槍で空けた穴から粘液が漏れ出すたびに固めている。


 ノイルは、そんなアルトの後ろで寝っ転がってアクビをしていたラピンチに声をかけた。


「そろそろ、もう一回やってくれる? 多分今回で終わりくらいだと思うけど」


 階下からのスライムも、いちいち刺していくのは面倒だったのでノイルは楽をする方法を見つけていた。


「終わり? ほんとか? ナァ?」

「ほんとほんと。もしかしたら、もう一回くらいあるかないかくらい」


 スライムたちの勢いは減少し始めていた。

 数を減らし続ければ、別に増えるわけでもないので当然なのだが。


「まぁ、こっちに上がってこれないくらいに減らせば、そのままにしてても問題ないしね」


 この棚段に上がれるくらいに積み重なれなくなれば、スライムは自力で縦穴を登れないのだ。


「よっしゃ、じゃ、やるぜ?」


 立ち上がって頭上でくるりと槍を回したラピンチは、下がったノイルと入れ替わりに縦穴の前に立ち、ピタリと真下に向けて穂先を構える。


「ーーー《牙突刺ファングスラスト》!」


 彼が発動したのは、中位の槍スキルだった。

 穂先を輝かせながらラピンチがスライムの一体を突き抜くと、そのまま眼下に向けて一直線に刺突の威力が到達する。


 通常は目の前の敵に対して使い、槍の射程を伸ばす効果範囲の狭いスキルだが、今回のような狭い穴蔵で使うと効果覿面こうかてきめんだった。


 貫かれたスライムたちが次々にバシュンと弾けて、溶解液を撒き散らす。


 すると、ひしめき合ってせり上がっていたスライムたちの体積が減り、運良く槍に貫かれなかったスライムたちもスライムの皮も、粘液の滝によって下に押し流されていく。


「楽だなぁ。槍スキル、俺も習得しようかな?」

「適性あるの?」

「さぁ?」


 あらゆる武器を扱えるのか、剣技だけを扱えるのかはよく分からない。

 初等の槍スキルだけは一応養成学校で習っているので、鍛えれば可能だとは思うが。


「別に剣技で代替できるだろ? ナァ?」

「まーね」


 今のところノイルには使えないだけで、遠距離攻撃用の刺突スキルも存在しているのである。

  

「後は、バスたちが終わるのを待つだけだ」

「あ、ならノイル。少しだけ話したいことがあるんだけど」


 こちらのつぶやきに反応したアルトが、丸メガネを押し上げながら振り向く。


「いいけど、何の話?」

「ここに安置された聖剣について、オブリガードと話したいことがあるのよね」

「アタシ?」


 壁にもたれてあぐらをかいていた赤髪の少女は、目をパチクリさせながら自分の顔を指差す。


「そう。一応、皆聞いてた方がいいかなって思って」

 

 そういうことか、と納得したノイルは、バスたちに声をかける。


「まだかかりそうなら、一度休憩しない? そろそろお腹も空いたしさ。もし終わりそうなら待つけど」

 

 弁当は一応持ってきてあるので、上にいる二人に声をかけると、穴から返事が戻ってきた。


「上に横穴があるのは見えたが、もうちっとかかりそうだな。一回降りる」

「うん」


 ノイルは、バスたちが戻ってきたところで車座になり、昼食を摂ることにした。

 

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