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闇の勇者は無事に洞穴に入る。


 ソーが地面に叩きつけた拳から、一直線に黄色い光の筋が走る。


 反対の壁にまで到達した光の筋から、地気がドン! と音を立てて吹き上がり、その周りにいた擬似スライムたちを吹き飛ばした。

 

 それを見たノイルは、仲間たちに声をかける。


「今!」

「《浮遊フロート》!」


 飛び降りると同時にアルトが魔法を行使し、全員がふわりと地面に着地した。


 【ミョルニル】を引き抜いて先に滑り降りていたバスが、一足先にソーの方に向かって駆けていく。


 ノイルは、女性陣にそれについていくようにと腕を振って指示を出し、片手剣を引き抜いた。

 スライムたちはこうしている間にもドンドン降り積もっており、言う間にこの辺りを埋め尽くすだろう。


 ソーの元にたどり着いたバスが振り向き、彼と共にスライムを警戒する隙間を、ソプラ、オブリガード、アルトの順に駆け抜けていく。


 が、ノイルの手前でスライムがソーの作った道を塞いでしまった。


「ボウズ!」

「もう一回吹き飛ばすか!?」

「いい! それよりスライムが来る前に二人も洞窟へ!」


 ノイルは〝強襲形態フォームアサルト〟で強化された脚力で、思い切り地面を蹴った。


 着地のことを考えていない本気の全力だが、まだ、浮遊魔法の効果が生きている。

 ゆっくりとした落下の間に体勢を立て直して、状況を見て踵を返したソーとバスの背中を追った。


「穴は狭ぇぞ! 一人ずつ来いよ!? ナァ!?」


 どうやら女性陣を先に行かせたらしいラピンチが、こちらを見て穴に飛び込んだ。


 割れた床に赤い光を遮られて薄暗い場所にある横穴は、確かに一人ずつしか通れないくらいに狭い。


 ーーーでも、好都合だよね。


 むしろ、スライムたちが一気に入ってこれないので時間が稼げる。


 軽く傾斜のついた道を登っている間に、少しずつ洞窟の中が背後から少しずつ明るくなってくる。


 擬似スライムたちが穴を登ってきているのだ。

 さらに穴の中にはいくつか水晶球のようなものが嵌っており、それが徐々に明るく輝き出している。


 ーーーなるほど。


 採光窓のようなものなのだろう。

 おそらくはあの大きな空間に擬似スライムの光が満ちると、何らかの方法でそれを取り込んで輝くような作りにしてあるのだ。


 ーーー血濡れの手。


 最初の石板に刻まれていたその言葉が、ノイルには気になっていた。


 一応今の段階までで、自分が斬った一体以外は殺していないが……。


 そう思っていると、傾斜のついた登りから洞窟の作りが変わったようだった。


 目の前に土壁が現れ、そこに足や手をかけられそうな刻みがある。


「上よ!」

「見たら分かるよ」


 ソプラの声に、すでに手をかけていたノイルは軽口で答えながらひょいひょいと登る。


 すると、少し広い棚段のような場所に出た。

 だが、中には先程までの採光水晶がないようで、最初に入った部屋並みに暗い。


 スライムを固めた棒は、ラピンチが手にしている一本しかないようだった。


 ソーは戦闘の時に放り出しており、バスはぶら下がった時に失ったのだろう……隻腕であり、とっさにぶら下がったのだから無理もない。

  

「どんな感じの場所?」


 多分見えているだろうバスに問いかけると、彼はぼそりと答える。


「階段の踊り場に似た感じだな。上に続く穴が奥にあるが、さっきみてぇなハシゴの刻みがねぇ」

「つまり登れない、と」


 ノイルは、軽く指でアゴを撫でた。


「これが次の謎かけかな……しかも、時間制限つき」

「時間制限?」

「うん」


 ソプラが首をかしげるのに、ノイルはうなずく。


 先ほどのスライムたちは、明らかにこちらの動きに反応していた。

 入る前にチラリと見えたが、うじゃうじゃと洞穴の方に向かって回り込んできていたのだ。

 

「多分この穴を登る方法を考えないと、さっきのスライムたちに追いつかれるね」

「でも、ハシゴは登れないんじゃない?」

「穴は狭かったでしょ? その状態で、次々にスライムが入り込んできたら、ひしめき合って最初は詰まるだろうけど」


 だんだんと、積み重なって上がってくるはずだ。

 ノイルの予測に、ソーがうんざりしたような声を上げる。


「だが、多分この穴長ぇぞ? 壁に刻みを打ちながら登るにしても、どんくらい上まで行くのか分かんねー」

「そうだね」


 正確な予測だ。

 だからこそ、ノイルは石板の言葉を気にしたのだ。


「血濡れの手、の文言は、ここの事だったのかも」

「どういう意味だ?」

「つまり」


 ノイルは、上がってきたハシゴの下を指差した。


「ここで一匹ずつスライムを突き刺していけば、あの溶解液に触れないまま時間は稼げるよね?」


 この棚段の下で抑え続ければ、粘液は下に向かって流れていく。

 安全なまま倒せるが、刻みを作るまでの間『血の色をブチまけるように、手を汚す』ことになるのだ。


「試練を受ける人間が聖剣を求める人間一人なら、スライムに追いつかれない速さで穴を登るか、あるいはスライムが登ってこれなくなるまで殺す必要がある」


 二者択一、と呼ぶに相応しい状況だが。


「……あの大司教は、そういうことを分かってなかったのか? それならなんで、オラたちを全員で来させた?」


 バスの疑問に、ノイルは肩をすくめる。


「流石にそこまでは分からないかな」


 ーーー推測するに、口封じだとは思うけどね。


 心の中で、そう呟く。

 聖剣の試練を一人で受けさせたら、当然のことながら、出てこなければ仲間には行方不明になったことが分かるのだ。


 ーーー試練の内容を知ってればこそ、全員を入れた、ってこともあり得る。


 パーティーで固まれば、うじゃうじゃのスライムを超えてこの場所まで来れない、と思っていた可能性もなくはないのである。


「ま、でも良かったよね」


 今更大司教の思惑に関しての話をしても仕方がないので、ノイルは話を先に進めた。


「幸い、刻みを作る人手と、スライムを殺す人手がちゃんとある。今から振り分けるけど、ソプラは一応、刻みの方ね」

「なんで?」

「そりゃもちろん」


 ノイルは、多分見えないだろうと思いつつも、にっこりと彼女に微笑みかけた。


「聖剣の試練を受けるのに、手を血で濡らさないのが条件だと、君しかそれを満たせないからだよ」

 


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