幼馴染みの少女、ドワーフにからかわれる。
「お宝狙いなら、俺たちと組もうとするのはお門違いじゃないかな?」
ノイルは、オブリガードの発言に疑問を覚えた。
彼女は特に表情も変えずに腕組みをしたまま、軽く首をかしげる。
「何で?」
「ソプラが勇者の適性を持つことを見抜いているなら、簡単な話じゃない。俺たちは使うために聖剣を狙ってるんだから、売りもしないし換金もしない」
つまりノイルたちに近づいて、一緒に聖剣を狙ったところで『山分け』という話にはならないのだ。
「聖剣を手にする直前に出し抜く、っていうのも、ここで目論見を喋ってしまったら、あまり現実的な話じゃなくなるよね。俺たちも警戒するから」
ノイルには、オブリガードの狙いが読めなかった。
別の理由でもでっち上げて、黙ってついてくる方が確実性は上がるのだ。
しかし彼女は、こちらの疑問に意外そうな顔をした。
「ああ、そういうこと? ……そっか、普通に考えればそうなるんだよね……」
初めて言い淀んで独り言を漏らすと、オブリガードはこちらの顔を見回した。
「あんま説得力のある話じゃないかもしれないけど。アタシは『聖剣を奪うことそのもの』が目的で、別にそのあとはどうでもいいんだよね」
「ほぉ、そいつは妙な話だな」
オブリガードの言葉に、反応したのはソーだった。
「利益がねーのに、それでいいってのか?」
「ソーに言われたくないと思うけどなぁ」
「そいつはどういう意味だ? オレは得にならねーことはしねーぞ」
思わず口にしたノイルに、ギロリと目を向けてくるソーだが、逆にその顔を指差してやる。
「誰だっけ? 魔剣の試験会場で、弱くて狙われそうだからって俺にわざわざ声をかけてきたの」
ウッ、と呻いたソーだったが、すぐに言い訳するように唸るような声を出す。
「……ありゃ、オレにとっちゃ弱いものイジメがうっとうしいから……」
「なら、オブリガードの利益もそういうもんなんじゃない?」
ノイルが言うと、ソーは目をパチクリさせた。
「どういう意味だ?」
「聖剣を奪うことが目的、ってことはさ」
何となく、ソーに好意的な目を向けているようなオブリガードに、ノイルは片目を閉じてみせる。
「ミシーダの、聖剣管理してる連中に一泡吹かせるのが目的、っていう風にも取れるよね?」
「アハハ、正解! キミは話が分かる男だね!」
明るく手を叩くオブリガードだが、もう一人彼女の理由に納得いってなさそうな少女がいた。
ソプラだ。
「そんなことの為に、私たちを襲うよーな連中を手引きして、近づいてきたってわけ!?」
プクゥ、と頬を膨らませて文句をつけているが、ノイルは知っている。
―――この顔をしてる時は、理由はなんでもいいから文句つけたい時だな。
多分、話の流れ的に彼女を仲間に加えることになる可能性が高い、と察したのだろう。
実際、オブリガードは今まで一切嘘をついている様子を見せなかったので、ノイルはそういう気持ちになっていたのだが。
「代わりに、逃げる手助けもしたじゃない。ここをどこだと思ってるのさ?」
「そんなの、あなたのせいなんだったら当たり前でしょ!?」
「別にアタシが協力しなくても、遅かれ早かれ見つかったと思うけど。逆に引き受けたのがアタシで良かったじゃない」
「結果論よ、結果論!」
ジタバタするソプラに、何か全てを察した様子を見せていたアルトが、くいくいと彼女の服の裾を引っ張る。
「ソプラ。そろそろやめたら?」
「だってアヤシイじゃない! コイツアヤシイ!!」
「子どもじゃないんだから。何がアヤシイの?」
「ノイルに色目使っ……違う! その! まず初対面だし!」
そんなことだろうと思った、とでも言いたそうにため息を吐いたアルトが、こちらに目配せしてくる。
話を続けて、ということだろう。
ノイルはうなずいて、なぜか真っ赤になってまだ喚いているソプラからオブリガードに目を移した。
「まぁ、総合的に見て、オブリガードは信用できると俺は思うよ?」
「そう? ていうかあの子、なんか面白いね」
ソプラが全身で『気に食わない!』と主張している様子を見て、逆に彼女は好感を抱いたようだった。
「気に入った?」
「うん、ちょっと」
「オブリガードは変わってるね」
あれだけ噛み付かれてそう思えるのは、正直すごい。
そんな含意を込めてつぶやいた言葉だったが、まるで話を聞いてなさそうだったラピンチがボソッとソーに言う。
「それ言うならノイルもじゃね? ナァ?」
「ニンゲン、自分のことは見えてねーんだよ。色々とな」
「俺はちゃんと見えてるよ?」
先ほどやり込められたのが気に食わなかったのか、どこか皮肉そうな口調で言い返すソーに軽く手を上げてから、ノイルはずっと黙っているバスに問いかけた。
「バスさんはどう思います?」
「オメーが決めたんならどうでもいい。好きにしろ」
「そうじゃなくて、彼女についてどう思います?」
連れて行くのは、そもそも抜け穴から敵に見つからないようにミシーダに案内してもらわないといけないので決定しているのだ。
バスは、ジロリとオブリガードを見た後にポンポン、と腰の【ミョルニル】を叩いた。
「宿で会ってからこっち、あのべっぴんさんはコイツに一度も興味を向けてねぇ。カネ目当てじゃねーのはほぼほぼ確実だな」
そう言った後、今度は一転ニヤニヤと笑みを浮かべて、ノイルの背中を叩きながらソプラに目を向けて。
「―――ま、男狙いってぇ可能性はあるがな!」
聞こえよがしに大きな声で、そう言った。
「んにゃ!?」
「バスさん……」
落ち着きかけていたソプラがまたヒートアップし、話していたアルトが恨みがましそうな目をバスに向ける。
カッカッカ、とバスが笑うと、オブリガードはニコニコしながら礼を述べる。
「べっぴんさんてアタシのこと? そう言われると嬉しいな」
「そうかい?」
「うん」
そして色気のある流し目で男連中を見回した彼女は、チロリと舌先で形のいい唇を舐める。
「―――ここにいる男の人は、皆イイオトコだと思うよ? アタシは」




