赤髪の少女の正体を暴く。
ノイルが裏路地に飛び出すと、左の方向に仲間たちが向かっていくのが見えた。
ついでに右の路地から殺気を感じて頭を伏せると、ヒュッ! と音を立てて頭上を投げナイフが突き抜けて宿の壁に突き刺さった。
「やっぱり待ち伏せアリだったね」
向かう側と逆方向にいてくれてラッキーだった。
相手にせずに走り出すと、気配が追ってくる。
ソーの尻尾を追って路地を曲がると、彼はそのまま壁に張り付いていた。
手を振られたのでその前を走っていたラピンチを追いながら振り向くと、追っ手がス、と顔を出した瞬間にソーがゴツい拳で相手の頬を殴り飛ばした。
吹き飛んでいく黒い服を身につけた待ち伏せ相手に、そのまま目もくれずにソーもついてくる。
ーーー頼りになるなぁ。
待ち伏せが他にいるのかどうかは分からなかったが、そのままバスの真後ろにいるオブリガードの案内で建物の一つについた。
何の変哲もない飲み屋通りの一角で、少し裏路地に入った辺りにあるひっそりとしたドアにはバーの看板がかかっている。
中に入ると地下に続く階段があり、その先にもドアが見えた。すぐ脇にある狭い受付にいる顔を隠した男に、オブリガードが何か話しかけている。
相手は小さくうなずいて手を差し出した。
オブリガードがカネを支払い、さっさとドアを開けて奥に行った。
一列になったまま入った先は小さな部屋になっていたが何もなく、明らかにバーには見えない。
そして奥に、土をくり抜いた穴に木の補強を施しただけの穴があった。
「あの穴は壁の下を抜けて街の外に続いてるんだけど、どっちに行く?」
「どっちっていうのは?」
「外に出た後だよ。ミシーダの方向か、男爵の街の方向か」
言われて、ノイルは少し考えた。
ついた先で安全なのは、確実にターテナーとハモニのいる男爵の街である。
だが、この程度のことで逃げ帰っていてはいつまで経っても聖剣は手に入らなそうだし、何よりこの街をもう通れなくなる可能性もあった。
しかし、オブリガードがこの小部屋で話しかけてきた、ということは、もう安全なのだろう。
ーーーなら、今のうちに話を聞いとこうかな。
「えっと、行き先を決める前に君に一つ聞いときたいことがあるんだけど、いいかな?」
「何?」
「あの襲撃者なんだけど」
「うん」
ノイルは、特に何か疑っている様子もないオブリガードに問いかけた。
「ーーー君、何のためにあいつらに俺たちを襲わせたの?」
その言葉に、ソプラとアルトがピシッと固まり、 ラピンチは相変わらず何を考えているのか分からず、バスは静かな目で少女を見つめている。
彼女を疑う理由は二つあった。
まず、襲撃があったことに驚いていないこと。
そして初対面の自分たちを助けるために協力してくれる理由が、彼女自身に見当たらないこと、だ。
なにせ初対面である。
そこで、最後に入ってきたソーがコリコリとアゴを掻いた。
「何だ、もう聞いちまうのか」
「不安の種はなるべく潰しとくべきでしょ?」
ノイルが片目を閉じてからオブリガードを見ると、彼女は感心したような顔をしていた。
「凄いね、気づいたんだ」
「どういう事よ!?」
我に返ったソプラが噛み付くと、赤髪の少女はニヤニヤと笑った。
「落ち着いてよ。別にハメようとしたわけじゃないからね」
「じゃ、その理由を話してくれるかな?」
「そもそも襲撃しようとしたのはアタシじゃない。連中がしようとしてたのを、カネで雇われてキミたちを探すのを手伝っただけ」
「なるほど」
冒険者の風体、それも斥候職となれば、そういうこともあるだろう。
「でも、それだけじゃ信用は出来ないよね」
「もちろんそうだろうね。でも、本当にそれだけだよ。キミたちを見つけ出して、囮として接触しろと言われた。接触したら、後ろから撃たれた」
だったらそれ以上義理立てする必要ないでしょ? とオブリガードは悪びれもせずに言い、ノイルは彼女の瞳をジッと覗き込んだ。
嘘を言っているようには見えないが、裏切られたにしては悲壮感も怒りもないように感じられる。
「本当にそれだけ?」
「逃げなきゃ一緒に殺される可能性もあったしね。でもまぁ、キミが気に入ったってのが理由としては大きいかも」
それは、まるで猫のように気まぐれな様子の彼女が告げた理由で一番納得のいくものだった。
「光栄な話だね」
「納得してくれたなら、行き先を決めてくれない? アタシとしてはミシーダが良いんだけど」
「その理由は?」
ノイルの問いかけに、オブリガードはいまだに警戒している……というか、初対面からどこか彼女のことを気に入らなそうな様子だった……ソプラを、チラリと見た。
「そこの子と、キミ。勇者の適性持ちでしょ?」
「!?」
「俺は正確には違うけど、魔剣使いではあるよ」
なんで分かったの!? と驚きを顔に浮かべる幼馴染の少女が口を開く前に、ノイルはオブリガードに答えた。
すると彼女は、ますます面白そうに腕を組んで人懐っこい笑みを浮かべる。
「だよね。だったら、狙いはミシーダの聖剣っぽいじゃない?」
彼女の洞察力も相当なものだ。
そう思いながら、ノイルはこちらも笑みと共に問い返した。
「もしそうなら、君にどんな関係があるのかな?」
「すごく簡単な話だよ」
オブリガードはノイルの方に指を向けると、トントン、とつま先で床を叩く。
「アタシも、ミシーダの聖剣を盗るのが狙いで、それが出来そうなヒトたちを探してたんだよね」




