幼馴染みはお揃い装備。
ノイルたちは賭博場を出たその足で、専門店を巡った。
ミョルニルを手に入れて他の装備も一通り揃えた結果、残ったお金はしばらく宿に困らない程度まで減ってしまったが、無駄にギルドの預金口座に預けておくよりは有意義である。
さすがに夕方になって閉門時間が近すぎたので、その日は街で宿を取ることにした。
食事はいつもより豪華で、肉が塊で入ったビーフシチューやピザ、ステーキやサラダ、バケットなどがテーブルを埋め尽くしている。
もっとも、高級食材の味などカケラも分からないパーティーなので、豪華なのは量だけだ。
それでも全員がリーズナブルな舌なので、十分美味い。
「受け渡しの時の支配人の顔はちょっと面白かったねー」
「どこがよ!? 寿命が縮んだわよ!」
レモンがかかった唐揚げを頬張りながらノイルが言うと、骨付き肉にかじりついていたソプラが目を吊り上げた。
正直あれだけの金額で飾っていたものなので、手放す気のないコレクション系の景品だったのだろう。
受け渡す時の、まるで氷のような視線はその事実を裏付けているように見えた。
「ていうか、結局あんなに目立って良かったの……?」
魚のムニエルを慎ましやかにフォークで食しながら口を挟んでくるアルトに、ノイルは片目を閉じる。
「別に悪いことしたわけじゃないでしょ?」
「だが、やっかみってのは怖ぇぜ?」
シチューをまるで飲み物のようにゴクゴクと飲み干したソーが、口元を拭いながら言う。
彼の腰には真新しい爪装備が下がっていた。
ノイルとソプラそれぞれの【風の鎧】とラピンチの【守護の鎧】がまとめ買いで思ったより安く買えたので、彼にも【猛虎の爪】を買ったのだ。
「Bランク以上の装備なんて、出たての冒険者が持ってる装備じゃねーし、ましてテメェの魔剣とバスのおっさんのは……」
神器、と呼ばれる、ランクで言えばAランク以上のものである。
「そうだね。でも欲しかったし」
「違ぇねーな」
ロブスターの身を口いっぱいに頬張るバスも、ニヤリと笑って頷く。
「コイツは、仮に厄介ごとが起こってもお釣りが来るぜ」
そんな中、ラピンチは全く会話に参加せずに片っ端から口に放り込んで皿を空にしていっていた。
彼の身を包む鎧は青い合金製で、その効果に対してかなり薄い。
一応全身鎧ではあるのだが、関節部を覆うのは肩当てくらいだ。
代わりに、戦闘時には着用者の魔力を消費して全身を包む結界を発生させると説明されていた。
ちなみに付属品としてついてくる盾は二種類あり、腕に嵌めれるタイプの小盾と両手で構える大盾が選べた。
ラピンチは棍棒や剣ではなく槍使いだから、と小盾を選んでいたが。
多分そういう理由よりも、単に持って歩くのが重いから嫌なだけだ、とソーが言っていた。
食事を終えて雑談の時間になったので、ノイルはアルトに声をかける」
「そのローブ似合ってるね」
「そう? ありがと」
アルトは、薄紫の【緩和のローブ】に着替えていた。
黒のダボッとした服装から、シルクローブのように腰紐で結ぶタイプの薄いものに変わっていたので、ボディラインが浮き出ている。
そういう服装だと彼女の胸元が非常に豊満なのが分かるのだが、口にして嬉しいことでもないだろうと思うので特に何も言わない。
ノイルとソプラは、それぞれに体型に合わせた緑の【風の鎧】だ。
利き手ではないほうに、腕を覆う小手が付くタイプの軽装鎧で、胸元を覆う部分の形状は革で出来た【冒険者の鎧】と大差はない。
が、金属製にも関わらず革の鎧よりも軽く防御力も高い、Cランク装備の中では優れものである。
しかし新しい装備を身につけたソプラは、ブスッとした顔でこちらを見ていた。
「ちょっとノイル」
「どうしたの? ソプラ」
「アルトだけ褒めて、私は?」
その言葉にテーブルに頬杖をつく彼女の美しい容姿と全身を一度眺めて、ノイルはにっこりと笑みを浮かべた。
そして、トントン、と自分の鎧を叩いて言ってやる。
「俺とお揃いだね」
その瞬間、ソプラは頬を紅潮させて唇を震わせる。
「き、気にしないようにしてたのに!」
「あれ? 気に入らない?」
「お、お金を出したのがあんただから、文句言わなかっただけよ! じゃ、じゃなきゃ誰がノイルとおおお、お揃いの装備なんか!」
プイッと顔を背けるソプラに、ノイルがポリポリと頬を掻くと、アルトとソーが深いため息を吐いて、バスがニヤニヤする。
「ソプラ……」
「コイツらめっちゃイチャつくじゃねーか」
「若ぇなぁ」
三者三様の声に、ソプラが何かを言い返そうとしたところで。
「お兄さん、ずいぶん羽振りが良さそうだね」
そう言いながら、誰かがポン、と肩を叩いた。




