幼馴染パーティー、魔獣を倒す。
ソプラのケガも、回復魔法との併用で完治して数日。
ミシーダの街へ向かう道中で現れた魔獣相手に、ノイルたちは戦っていた。
「教練7番FT、フロント、右」
ノイルの指示に、パッと前衛を務めていたソプラが右に飛んだ。
「バックス、コール」
ノイルが前衛の彼女と逆に向けて走り出すと、背後に隠れていたアルトが指鉄砲の形から極小の弾丸を撃ち出す。
「〝炎弾〟!」
キュン、と音を立ててクマに似た姿の巨大なDランクの魔獣……ウッドマンズ・ベアの額に突き刺さった。
ボウ! と着弾した瞬間に炎が燃え広がって、魔獣の視界を塞ぐ。
教練7番……対魔獣戦陣形の基本である。
ソプラが前衛、ノイルが遊撃、アルトが後衛のワントップ陣形で戦い始めたのだが、ウッドマンズ・ベアが想像以上に硬かった。
現状のソプラの装備では魔獣の分厚い毛皮を突破出来ないと判断したため、陣形をツートップ陣形に変更したのだ。
視界を塞がれたウッドマンズ・ベアが立ち上がって、炎を消そうと掻きむしる。
その間に魔獣に肉薄したソプラが、毛皮に覆われた敵の足の甲、曲がった膝、のけぞった胸元を蹴り上がってその頭上に跳ねた。
魔獣の顔を覆っていた炎が消えると、袈裟斬りの形に腕を振り上げた彼女が呪文を口にしながら剣を振るう。
「〝剣閃〟!」
遠距離型のカマイタチを発生させる剣士スキルの一つである。
狙い違わずウッドマンズ・ベアの両眼を引き裂いた。
「グゥルォオオオオオオッッ!!」
視界を完全に奪われ、魔獣は苦痛に絶叫を上げる。
トン、とその額を蹴って背後に落下し始めたソプラは、ちらりとこちらに目を向けた。
「ノイル!」
「ああ。ーーー〝穿孔〟」
完全に頭に意識を向けられたウッドマンズ・ベアのガラ空きの胸元に向けて、ノイルはトン、と地面を蹴る。
魔剣で螺旋の威力を纏う刺突を放つと、鋭い先端が硬い毛皮を突き破って心臓を貫いた。
※※※
「ふん、ボウズもだが、お嬢ちゃん二人も素人上がりたぁ思えねー動きだな」
見学していた隻眼隻腕のドワーフ、バスが感心したようにうなずくのに、ノイルは軽く肩をすくめた。
「養成学校では基本的にパーティーで動くことを想定して訓練を積むからね。一応複数人でEランクの魔物が倒せる練度になってないと、卒業させて貰えないし」
ね、とソプラを振り向くと、彼女はふふん、と得意そうに胸を逸らした。
「私たち、これでも養成学校のトップ3なのよ! 一番は私!」
「ノイルに手加減されてね……」
「っ……そ、それでも一番は一番よ!」
「そうだねー」
アルトに指摘されて言葉に詰まった後、真っ赤になったソプラにノイルは軽くうなずいて仲間たちに視線を戻した。
バスとソー、ラピンチの三人には手を出さないようにお願いしていたのだ。
自分を含む学校上がり三人に実戦経験が足りないので、少しでもそれを積むのが目的だった。
冒険者と魔獣にはランクがあり、AからFまで設定されている。
なったばかりの冒険者はFランクスタートで、一対一で最弱の魔物であるスライムを倒せるくらいになると資格が認定されるようになっていた。
また、自身の冒険者ランクの一つ上にいる魔獣を二人以下の連携で倒せるようになると、技量の面ではランク昇格の目安になる。
もう一つの指針は功績で、技量があってもそちらが一定以上にならないと試験そのものは受けられないのだが。
「コイツはDランクだから、そこそこ功績も溜まるね。もう1、2匹始末したいところだけど」
運良くミシーダに着くまでに出会えるとも限らない。
とりあえず【賢者の札】をかざしてギルドに記録を送信したノイルは、続いてもう一つ冒険者御用達の魔導具を取り出した。
【捕獲球】と呼ばれるもので、殺した魔獣を手のひらサイズに収納できる優れものである。
冒険者認定の際、一人一つ支給される。
それでウッドマンズ・ベアを収納してから、ノイルは改めて集まったメンバーに提案した。
「ミシーダに着いたら、それぞれのパーティーに一人、専属の回復役を探そう。補助魔法を使える人だとなお良いから、治癒士とか」
冒険者ギルドで募集をかければ、一応見つかるだろう。
金で雇われてとりあえず加入、という臨時の傭兵系統の冒険者でもいい。
今回は上手くいったが、いつも怪我せずに済むとも限らないし、魔導士であるアルトに担わせるには負担も大きく効果も微妙だからだ。
ソプラも勇者の適性があるので使えるようになるはずだが、元々剣士としての修練を積んでいたので今のところ練習もしていない。
ノイル側にはそもそも回復魔法を使える者がいないし……と思っていると、ラピンチがあっさりと言った。
「なら、俺っちは『聖騎士』に転職しようかねぇ。ナァ?」
「俺も『武闘士』になるか」
拳闘士であるソーと、槍術士であるラピンチの言葉に、ノイルは問いかけた。
「二人はもう転職出来るの?」
冒険者はCランク以上に上がる時に転職が可能になる。
下位職、中位職、上位職の間にそれぞれ派生職があり、上に行けば行くほど職の種類は増えるのだ。
二人が口にしたのは、それぞれ上位職の一つである職種だった。
「功績はBランクに上がれるくらい溜まってんだけど、何になるか決めてなくてな」
「回復がいたほうがいいなら、自前で持ってるほうがいいだろ? ナァ?」
ラピンチの聖騎士は範囲防御と回復が出来るので、今後このパーティーで行くつもりのノイル的にはありがたい。
武闘士のほうが習得するスキルは自身にしか効果を及ぼさないが、上位の強化と回復が使えるようになる。
「なら、治癒士を探すのはソプラたちの方だけでいいか」
ノイル自身は、Cランクに上がる時に攻撃と同時に体力と魔力の回復を行える剣技……【暗黒剣】が習得できる暗黒騎士に転職するつもりだったので、そのままでいい。
「そういえばバスさんは?」
「オラぁ元々Aランクだ。職は『豪傑』だな。もっとも、腕を無くしたからBランクに落としてもらってるがな」
「へぇ」
冒険者は、事情がない限り自身のランク以下の依頼を受けられないのである。
稼ぎそのものも高位のランクになるほど跳ね上がるので、あえて受けようとする者もいないのだが。
中でも『豪傑』の職は、長ランクと呼ばれる魔物を複数体倒していないとなれないもので、派生職の中でも一種の勲章的な意味合いもある職だった。
「俺、運が良かったかも」
最初に得られた仲間がそれぞれ才能ありまくる人々だったのは、非常にいいことだ。
「おめぇと敵対しなくて済んでるオラたちのがよっぽど運がいいと思うがな」
「「違いない」」
そんな風にお互いに頷きあっていると、なぜかソプラがあんぐりと口を開き、アルトが呆れたように頬に手を当てていた。
「どうしたの?」
「聖騎士に、武闘士に、豪傑よ!? それが冒険者なりたてのあんたのパーティーっておかしいじゃない!」
「いえ……なんかノイルはノイルだなって……」
それぞれの返答に、ノイルはんー、とアゴを指で挟んで考えたが。
ーーーやっぱり運が良かっただけだと思うけどな。
そう内心で結論づけて、話題をそらした。
「でも、改めてそうやって職を並べるとさ」
「何よ!?」
どこか不愉快そうな顔をしているソプラに、ノイルはニコニコと告げた。
「なんか、闇の勇者パーティーってより、聖なるパーティーっぽいよね」
「気にするところ、そこなの!?」
「? 他に何を気にするのさ」
ビシィ! と指を突きつけて不思議なことを言うソプラに言い返して、ノイルはくるりと背を向ける。
「さ、野宿は嫌だし、とりあえず次の街に向かおうか」




