幼馴染の少女が泣いた。
「あ、いたいた」
ノイルを見送ったアルトは、ソプラの姿を見つけて声をかけた。
今の今まで固まっていたのか、肩に手を置くとハッと彼女は我に返る。
「あ、アルト……!」
「うん」
「い、今、今、ノイルが……」
「さっき会って話聞いたよ。その……残念だったわね?」
アルトがそう声をかけると、ソプラはくちびるを震わせて目尻に涙を溜めた。
「な、何で!? 何でノイルは勝手にそんなこと決めちゃうの!?」
「えーっと……そういうタイプだからじゃないかな……」
答えに困ったアルトは、肩を掴んでくるソプラを落ち着かせようとその頬を撫でる。
だが逆効果だったようで、一気にボロボロボロ、と彼女は涙をあふれさせた。
ソプラとノイルは、実家が隣同士でよく一緒に遊んでいたらしい。
学校に入ってきた当初、いつもニコニコしているノイルに対してキツく当たる彼女に、最初はアルトも面食らったものだ。
ソプラは入学当初、今まで見たこともない美少女がいる、と噂になり、その明るい性格と才能からあっという間に人気者になっていたから余計にだった。
そして他の誰にもそんな態度は取らないのに。
ノイルに対してだけは、事あるごとに自分が成績が上である事でマウントを取り、憎まれ口を叩き、バカにする。
ーーー学校中の全員がそれが照れ隠しだと気付くのに、さほど時間は掛からなかった。
ソプラは、ノイルにベタ惚れだったのである。
「の、ノイルに凄いねって褒めて欲しくて頑張ったのに!! 勇者の神託ももらって、こ、これから、ずっと一緒に、冒険できるって思ったのにぃ……!!!」
「そうね」
うぇえ……と泣きながら抱きついてくる可愛い親友の頭をアルトはよしよしと撫でた。ながら、アルトは思案する。
まさか、ノイルが『魔の国に行く』という選択をするとは思っていなかった。
何となく、このまま二人はくっつくのかな、というくらい、仲が良さそうに見えていたのだが。
ノイルが思った以上に鈍感であること、にもっと注意を払うべきだったのかもしれない。
ーーー今さらやめよう、って言っても聞かないわよね、彼は。
そんなこんなで、アルトは困ったのである。
すると、グズグズと鼻を鳴らしながら、ソプラが言う。
「わ、私、嫌われた? 嫌われてた!? の、ノイルに何か嫌われるようなこと、した……?」
「うーんと……」
まぁ、嫌われるようなことは散々していた。
間違いなく確実に、普通の男なら近づきたくないくらい嫌われているだろう態度を取っているように、何も知らなかった頃は見えていた。
だが。
ーーー彼は、その辺多分気にしてないのよね……。
ソプラは普通なら嫌われるような態度を取っていたが。
それ以上に、ノイルが異常に鈍感かつ変人過ぎたために、はっきりと嫌われていないと言える。
むしろ、恋愛感情を抜きにすればソプラの性格を理解していて好意的なくらいだ。
それ以上にマイペース過ぎるだけで。
ゆえに。
「多分だけど、本当に先に魔の国から誘われたからあっちに行った、ってだけじゃないかな……」
と、アルトはそんな風に、少し控えめに親友に告げてみるが。
もう自分の殻に鬱々とこもり切って泣き続けるソプラの耳には、届いていないようだった。