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闇の勇者は推理する。

 

「行かせちまって良かったのか?」


 バスの問いかけに、ノイルは肩をすくめた。


「ああなったら、ソプラは俺の言葉聞かないですからね。アルトの話ならちょっとは聞くから大丈夫だと思いますけど」

「いや、危なくねーのかって話をしてんだけどな」


 ソプラの怒鳴り声で酒場の注目を集めたことを、彼は気にしているようだった。


 それをいうなら、そもそも獣人二人とドワーフを連れている時点で注目は集めていたのだが。

 ノイルは、バスに向かって軽く手を合わせる。


「じゃ、バスさんが影から付いてってもらえませんか? 他の二人と違って、板持ってるから連絡もつけやすいですし。向こうの街中に無事入ったら連絡ください」

「ふん。報酬は弾むんだろうな?」


 ガタリと椅子から立ち上がったバスに、ノイルはにっこりとうなずいた。


「山分けの時に、多めに渡しますよ。上手く行かないと無報酬になりますが……その時はまぁ、ギルド依頼をこなした時の取り分を心持ち上乗せする、ってところで」

「よし、その言葉忘れるなよ」


 バスの背中を見送った後、ソーがぼそりと言葉を投げかけてくる。


「おい、バスのおっさんに多めに渡すってそれ、オレらの取り分も減るんじゃねーのか?」

「それなら、ソーが行く? 二手に分かれても連絡手段ないでしょ?」


 【通信の宝珠】という、特定の相手と連絡を取れる魔導具もあるのだが、そもそも魔法関係の品が苦手だというソーは持っていないだろう。

 案の定黙りこくって唸った虎の獣人に、ノイルは立ち上がりながら笑みを向ける。


「ま、心配しなくても俺の取り分を半分にするだけだから、二人は普通の取り分でいいよ」


 どの程度の金を稼げるのかは分からないが、少なくとも現状では装備には困っていない。


 武器は最高級で、他の装備は新規のものだが元々養成学校を出た者は最弱クラスのFランクの魔物であれば一人で、Eランクの魔物でも三人がかりなら倒せる程度の修練は積んでいる。


 そして聞くところによると、ソーとラピンチはBランクの、バスに至ってはAランクの冒険者らしいので、より稼ぐのに危険は少ないはずだ。


 備蓄も多少あるし、今回の分け前が少なくてものいるは特に生活には困らないのである。


「じゃ、俺たちも行こうか。今から出て、少しでも早く街に着きたいからね」

「今日は野宿かよ。笑えねーな。ナァ?」


 渋るようなことを口にしながらも、二人は拒否しなかった。

 ノイルが酒場を出て歩き出すとソーがさらに気になっているらしいことを問いかけてきた。


「いや、それよりもまず、大丈夫なのか? 領主をしばく証拠がねーって話をしてたが」

「うん、それに関しては大丈夫だよ」


 ノイルはにっこりと笑って、ソーの心配を取り除く。


「この領地のカラクリ、なんとなく見えてるから」

「……は?」


 目を剥くソーに、ノイルは指を立てて説明する。


「そもそもここの男爵領は、先代の時に功績を上げてる。話を聞いたら領民の評判も悪くなかったらしいし、口から出てくるのは今の領主の悪口ばかり。税は倍も重いしワガママで遊び回ってるってね」


 でも、とノイルは続けた。


「それにしては、領民っぽい人たちの食事の質が落ちてなかった」

「食事の質?」

「そう。普通に腹が膨れるくらいの食事と酒を、酒場で頼めるくらいの生活が出来てるんだよ」


 もしカツカツの暮らしをしているのなら、そんな風に飲むのは無理だし、悪口を言いながらもストレスを発散している以上の様子はなかった。


 飲んでいる態度に、深刻さがないのだ。


「それに痩せてる人も少ない。大体、この領地は農業と鉱業の土地なんだから、いくら体が資本っていっても食べずに働いていたら痩せるよ」

「……まぁ、言われてみればガタイのいい奴もそうでない奴も、ごく普通の連中っぽかったな」

「そう。税が倍になってるのに、生活が苦しくなっている様子がない……ってことはつまり、実際は倍になって(・・・・・)ても問題ない(・・・・・・)ってことだよね」


 そこにカラクリがあるんじゃないか、とノイルは思っていた。


「その上で『領主はクソだが、その子どもは賢い』っていう話もいくつか聞いた」


 領主には文句が向かっているが、領主一家に向かっているわけではないのだ。


「てなると、街ぐるみで嘘をついている、という話も加味して見ると、全体像が見えてくる」

「全然ちっとも見えてこねーけどな。ナァ?」


 話を聞いていたラピンチがぐにゃりと首を傾げてはっきりいうのに、ノイルは苦笑した。


「ソーは?」

「あー、まぁ多分なんとなく言いたいことは分かった。……つまりその、領主んとこのガキの手引きで税金をごまかしてる、みてーな感じだってことだろ?」

「そうだね、多分それが正解に近いかなー」


 ノイルは、自信がなさそうなソーの答えを肯定するが、彼はさらに疑問を重ねた。


「んでもよ、そいつが分かったからってどうするんだよ? 誰も素直に認めねーだろ、そんなこと」

「そうかもね。でもまぁ、手はないこともないんだよ」


 そのために、領主の街に向かおうとしているのである。

 

「税をごまかしてるのは街一つじゃなくて領地全体だと思うからーーーその元締めを探したら、話を聞ける気がするからね」

 


 


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