幼馴染の少女との再会は喧嘩別れ。
「少し待て、ですって?」
しかし合流したノイルは、今すぐにでも乗り込んでいきそうなソプラを手で制した。
「うん。だって、証拠ないし」
「ほら、同じこと言ってる」
アルトはノイルに賛同しながら、彼の後ろにいる人たちにチラチラと目を向けた。
とんでもない傷を負っている迫力のあるドワーフと、小柄なアルトより頭三つくらい背の高い虎の獣人と竜人が二人のやり取りを見つめていた。
正直ものすごい迫力で、名前を紹介されただけでソプラとノイルがやり取りを始めてしまったので、話を伺う機会を失ったのだが。
ーーーこ、これがノイルのパーティーなのかしら?
正直めちゃくちゃ強そうである。
そんな三人に全く意識が向かないのか、ソプラはバン! とテーブルを叩いてノイルに噛み付く。
「私が行くって言ってるのよ!? ノイルのくせに逆らうわけ!?」
ーーーああ、またそういう言い方して。
アルトは、もう、と額に手を当てる。
許せないと思うからどうにかしたい、と素直に言えばいいのに、なぜこの子はノイルを前にするとこうなのか。
「逆らうっていうか、情報集めは大事でしょ。だいたい、真正面から乗り込んでどうする気?」
「決まってるでしょ! 領主をしばき倒して税を撤回させるのよ!」
「そんな力が俺たちにあるわけないじゃない。殺されるのがオチだよ」
ノイルが肩を竦めるのに、内心でコクコクとアルトはうなずくが、ソプラは納得しなかった。
「腰抜け!」
「いやだから、ちょっと待ってって言ってるんだけどなぁ」
少し困ったような顔で、ノイルは頬を掻く。
「別に証拠が揃ってからでも遅くないじゃない?」
「遅いわよ!」
もう完全に聞き分けのない子どもである。
大体ノイルとソプラのやり取りはこんな感じで、最終的にノイルが折れて終わる。
ソプラは多分甘えているだけなんだけど……と思っていると、竜人のラピンチが虎の獣人、ソーにボソリと耳打ちする。
「めちゃくちゃ美人だけど、めちゃくちゃワガママな嬢ちゃんだな……」
「ああ、ノイル怒りもしねーぜ。スゲェな……ナァ?」
するとそんな二人に、バスがふん、と鼻を鳴らす。
「ありゃボウズ、じゃれられてなんとも思ってねーだけだろ」
ーーーバスさんって、すごい人を見る目あるわね。
アルトは感心した。
実際二人の関係はソプラが上からノイルに接しているように見えるが、実は彼の方が手のひらの上でコロコロと転がしているだけなのである。
今はもう、精神的な面だけでなく腕前もノイルの方が上だと分かっているので、余計にそう見える。
「もういいわよ! じゃ、一人でやるわ!!」
ソプラはついに怒り出して、ノイルに背を向けた。
彼は頭を掻きながら、ドアに向かう幼馴染みに声をかける。
「一応、領主の街はここじゃなくて二つ先の街だからねー。間違わないようにねー」
「分かっているわよ!!!!」
肩をすくめたノイルは、微笑んだままこちらに目を向けてきた。
「アルト。頼める?」
「どうすればいいの?」
「えっと、とりあえずなるべく、何か理由をつけて街に向かうのを遅らせといて。もう一個先の街に向かうにはちょっともう遅いし、ここで宿を取ってほしい」
ノイルの早口の指示に、アルトは素直にうなずいた。
「うん。それで?」
「俺たちは今日中に領主の街に向かうから、ま、その頃にはソプラの頭も冷えてるだろうし……冷えてなくてもいいんだけど」
と言いながら、ノイルは最後にこう締めた。
「着いたら連絡して。そこでまたどうするか決めるから」
「分かった」
アルトはヒラヒラと手を振るノイルにうなずいて、ソプラを追って駆け出した。




