幼馴染の少女は怒っている。
「一つ向こうの街の領主? ああ……まぁ、あんまり良い噂は聞かねーな」
ゆっくり来ていいよ、というノイルの言葉に従い、アルトとソプラは昼食がてらに街の食堂にいた。
食は体の基本、というのは冒険者養成学校で散々習ったので、食べれる時は携帯食ではなくきちんとした食事を取るのだ。
ランチをつつきながらアルトが気さくに話しかけて来た店主に尋ねると、彼は腕組みをした。
「ずいぶんと税が重い、とよく仕入れに来る連中が言ってる」
「重いって……どのくらいですか?」
美味しそうに豚のソテーを頬張っていたソプラが、口の端についたソースを舐めながら尋ねると、店主はあっさりと答えを口にした。
「八割だそうだ」
「はちっ……!?」
ありえないほど高い税にソプラは目を剥いたが、同じようにアルトも驚いた。
ーーー王都で、一番取られている時でも六割だったわよね、確か。
今は確か四割くらいだったはずである。
単純計算で倍、という簡単な話ではなく、それだけ取られたら飢えるのではないだろうか。
「暴動、とかは起こらないんですか……?」
「それは俺に聞かれてもな。少なくともやせ細ってガリガリ、ってわけでも疲れた顔をしてる、ってわけでもねーし、それなりに食えてはいるんじゃねーのか」
「なるほど……」
丸メガネのふちを手のひらで軽く押し上げながら、アルトはうなずいたが。
「ゆ、許せないわ……」
ブルブルと肩を震わせたソプラが、ガタッと椅子の音を立てて立ち上がった。
その頬が、怒りで赤く染まっている。
「すぐに行くわよ、アルト!」
「そ、ソプラ?」
ビシィ! と目指す街のある方向を指差した後、彼女は『ご馳走さま!』と律儀に手を合わせた後に食堂を出て行こうとする。
「あ、えっと、ご馳走さまでした」
「ああ……だがあのべっぴんのお嬢ちゃん、いきなりどうしたんだ?」
あわててアルトも立ち上がり、店主に頭を下げる。
すると彼が少しあぜんとしながら問いかけてきたので、曖昧に笑みを浮かべて答える。
「えーっと……そういう性格なんです……失礼します」
もう一度頭を下げてソプラを追いかけたアルトは、足早に歩いていく彼女の腕を掴む。
「ちょっと、どうしたのいきなり?」
「だってアルト、税金八割よ!? 銅貨10枚稼いだら8枚も持っていかれるなんてありえないでしょ!?」
「それはそうかもしれないけど……」
自分たちと関係のない土地の、それも別に飢えてもいないらしい場所の話だ。
確かに暴利だとは思うが。
なんでそんなに怒っているのか、と考えて、アルトは気づいた。
ーーーもしかして『お金を取られてる』ってところに反応したのかしら?
昨日まさに、お金を騙し取られたソプラである。
街の人たちの気持ちに自分の気持ちを過剰に重ねた可能性はあった。
なにせソプラは猪突猛進の女な上に、正義感が強くお人好しで……涼しげで凛々しい外見に似合わず、単純なのだ。
「すぐにノイルと合流するのよ! そんな領主はやっつけてやるわ!」
「証拠もなしに貴族に危害を加えたら、私たちの方が捕まると思うけど……」
「だからノイルと会うんじゃない! あいつならなんか上手いこと考えるはずよ!」
「そこは人任せなんだ……」
ノイルと会うつもりはあるようなので、彼がいるのならひどいことにはならないだろう。
少し呆れながらも、アルトはソプラの煮えた頭を冷やすのを諦めた。
ーーーてゆーか、私まだご飯半分しか食べてなかったんだけどなぁ。




