闇勇者は酒場に向かう。
ノイルたちは、街までもう少しの場所まで来ていた。
「しかし、あんな方法で本当に集まってくるとは思わなかったな」
ピクシーを集めるために使った方法に、バスは感心しているようだった。
しかし、特に難しいことをしたわけではない。
単に火を焚いて肉を焼く匂いを漂わせ、楽しげなお祭りの囃子とともに木の枝を叩き合わせたりしただけである。
そして皆と世間話のような談笑をしていたら寄ってきたので、肉をあげて仲良くなった。
しかしノイルは、肩をすくめて種明かしをする。
「一応座学で習うんですよ。延々とかんしゃく玉を鳴らして遊ぶ、とかでも集まって来ます」
後は簡単だった。
話を聞き出し、ソプラから金を奪った一人を脅して吊し上げて全員反省させた後に、金を取り戻して方法を学んだ場所を教えてもらったのだ。
そこで、ソーが半信半疑の様子で首をかしげる。
「だが、ちょっとおかしな話じゃねーか。あいつらがウソをついてるって可能性はねーのか?」
「さすがにそれはないと思うけどねー」
ピクシーたちは吊し上げの後は明らかに怯えていた。
その上、迫力満点のドワーフと巨大な獣人二人がいたらウソをつく余裕などないだろう。
「たしかに妙な話ではあると思うよ」
ノイルは肩をすくめて、ピクシーの言葉を繰り返す。
「『街の人が、皆で嘘をついているのを見た』……と言われたら、さすがに気になるよね」
どうすればそんな状況になるのかは分からなかったが、何か大がかりな秘密はありそうな感じがする。
そのまま街についたノイルたちは、まず情報を集めることにした。
大体、一番情報が集まるのは冒険者ギルドと、酒場を備えた宿屋である。
「どっちに行くんだ? ナァ?」
「おめぇは酒場に行きたそうだな、竜ヅラ」
「そりゃ飲み食いも出来ねーギルドよりは酒場だろ……」
そこらのチンピラみたいなことを言うソーとラピンチに、バスが呆れた顔をしてノイルのほうを見たが。
「酒場で良いと思うよ。街中の状況に関する話だし」
噂話や街の内情についても、得られる情報には場所によって差がある。
貴族や魔物、冒険者や旅人の動向などは当然権力者や依頼主、冒険者と繋がりの深いギルドのほうが詳しい。
だが、街中の噂話や実際の生活に関する情報、上に対する不満などは酒場や市場などのほうが情報を得やすいのだ。
「……それにギルド行くと、お金かかるしね」
ギルドは慈善事業じゃないので、正確な情報はタダではない。
下手をすると噂話程度でも金を取られたりする。
「なんだ、ボウズは金がねーのか」
「いやあのね、俺は冒険者になったばっかりですよ?」
実家暮らしで学校を出たばかりなのに、そんな金があるわけがない。
するとラピンチが、指先をこすり合わせながらゲスい顔をしながら口を挟んでくる。
「んなこと言って、魔王様からたんまり支度金いただいてんじゃねーのか? ナァ?」
ラピンチの楽観的な言葉に、ノイルはアハハと笑う。
「あの人がそんな甘いわけないじゃん」
すると、ソーはアゴを撫でながら片眉を上げた。
「闇の勇者様に対する扱いとは思えねーな……」
「自力で上がってこない奴に用はないんだと思うけどねー」
正直魔王軍に属して給料もらいながら生活する予定だったので、アテが外れた感はあるが。
「ま、それは今から手に入れれば良いかなって」
「どういう意味だ?」
ソーがこちらを見下ろしながら首を傾げたので、ノイルは片目を閉じた。
「もし本当に領主が悪徳なら、退治するついでにちょっとくらい溜め込んだお金をいただいてもバチは当たらないかなって」
「ふん」
バスが、鼻を鳴らしながら太い笑みを浮かべる。
「ワルいこと考えるじゃねーか、ボウズ」
「〝闇の勇者〟らしくて良いでしょ? というわけで、まずは情報収集だね」
そうしてノイルたちは、連れ立って酒場に入った。




