幼馴染の少女の親友に会った。
ーーー魔の国って、どんなところかなー。
ノイルは、旅支度をしながらそんなことを考えた。
魔族、と呼ばれる人々が住んでいる場所だとは聞いているが、ずっと人族の国の王都で生活していたので、まだ一人しかその姿を見たことがない。
それがスカウトに来た女魔王だったのだが、ツノが生えていること以外は普通の人だった。
他の人も似たようなものなのかな、と思いつつノイルはすぐに寮を出る支度を終えた。
もともと大して荷物を持つ方ではないので、あまりまとめるものもないのである。
ノイルは、とりあえず実家に寄って両親に挨拶しようと部屋を出た。
卒業式が終わって二日間は引越しの猶予があるので、他の皆はのんびりしたものだ。
声をかけてくる連中に挨拶しながら廊下を歩いていると、ローブ姿の一人の少女に声をかけられた。
「あら、ノイル。もう寮を出るの?」
「うん。卒業したらすぐに来て欲しい、って言われてるから〜」
陰口を叩かない友達の一人であるメガネの少女、アルトの質問にノイルはうなずいた。
「すぐに……? って、ソプラのところに?」
「ううん。あの子には会ってもう言ったけど、俺、今から魔の国に行くからさ」
「魔の国!?」
「そう。先月の卒業試験の後にスカウトされたんだ」
ノイルの通っていた冒険者養成学校の卒業試験は実戦形式で、他国の人間の観戦も認められているのである。
「あ〜……なるほどねぇ……まぁノイル、才能あるもんね……」
納得したようにうなずいたアルトは、自分を真っ当に評価してくれる人の一人だった。
そんな彼女が、困ったような顔で言葉を続ける。
「じゃ、ソプラとはパーティー組まないのね?」
「そうだね。あの子は勇者だし」
もし勇者でなくとも、彼女とパーティーは組めなかったが。
「……さっき張り切って誘うって出て行ったから、じゃ、今頃……」
何かブツブツと言い始めたが、後半は聞こえなかった。
「アルトは魔導師なんだっけ?」
「あ、うん。魔法は好きだからちょっと嬉しかったよ」
「君はソプラと一緒に冒険に出るの?」
アルトは誰とでも分け隔てなく接するので、ソプラとも仲が良かった。
あの口の悪い幼馴染も、彼女にはそうした態度を取らない。
「うん、そのつもりだよ。でも、ノイルいないのか……不安だなぁ」
「何か心配なことがあるの?」
「あー、まぁちょっとね」
やっぱり困った顔をするアルトに、もしかして彼女もソプラに何か言われていたのだろうか、と思う。
ソプラが横暴な振る舞いをするのはノイルにだけだと思っていたのだが。
というか、そのせいなのかどうかは知らないが、なぜかこの学校では『お前の方に問題がある』と認識されている節がある。
そのことを話すと、アルトは頭が痛くなったようにこめかみを右手で押さえた。
「まぁ、そうね。あなたに問題があるのは確実なんだけど」
「え、ウソ」
「鈍かn……あ、何でもないわ。うん、まぁノイルが心配してるようなことは何もないわよ」
アルトはため息を吐きながら、歯切れ悪くそう言った。
「で、他の子たちに陰口叩かれてたのは、多分ただの嫉妬だと思う」
「嫉妬って?」
普段から面と向かって悪口ばかり言われている状況がうらやましい、とでも言うのだろうか。
確かにソプラは顔も成績も良く、ノイル以外には人当たりもいい。
「もしかして、皆ドMなのかな」
「だからそうじゃなくて……もういいわ」
私も用事が出来たから、と手を振るアルトにうなずきかけて、ノイルも自分が両親のところに向かおうとしていたのを思い出す。
グズグズしていたら、夕方には迎えが来てしまうのだ。