幼馴染の少女は血相を変える。
ノイルが闇のパーティーを結成して、数日が経過した。
「よし、こんなもんかな?」
冒険の準備を整えつつ、魔王城の一室で引っ越しの荷物をある程度片付け終わったノイルは、手をはたきながら部屋を見回した。
別に大した荷物があったわけではないのだが、とりあえず使いやすいように整理していたのだ。
部屋は広かった。
部屋の右角にあるドアから見て、左手側の位置にドアが二つついていて、水洗トイレと風呂がある。
そして短い廊下を抜けて奥の部屋に向かうと、左手側にキッチンと魔導冷蔵庫、その奥に木製のしっかりしたベッドと棚があり、右奥に机。
広々とした1DKという、一人暮らしには最適な部屋だった。
「ていうかこれをタダで使っていい、ってやっぱりおかしいよね……」
そもそも個人で入れる風呂が部屋に存在しているなどという話は、貴族出身の相手からしか聞いたことがない。
水道とトイレは生活魔石をセットするだけでまかなえるので浸透しているが、湯を沸かすには水と火の魔石を組み合わせて魔法陣に組み込む必要があるからだ。
「やっぱ魔王ってのは羽振りの良さが違うなぁ」
うんうん、と一人納得してうなずいたノイルは、改めて部屋の外へ目を向けた。
そろそろ昼食の時間だ。
「後は、非常食の買い出しかー。今日の夕飯くらいは、新鮮な野菜とお肉にしようかな」
引越し作業が終わったはいいものの、明日からは冒険に出るのだ。
しばらくはこの近隣で低級の依頼をこなすつもりだが、もしダンジョンなどに足を伸ばすことになれば、しばらく食べられなくなる可能性もあった。
金は多少持っているものの、現状は無駄遣いできるほどではない。
戸締りをして出ようとしたら、【賢者の板】が震えて『アルト・ラプソディから魔力を受信したぞよ』と渋い声で伝えてくれた。
「? なんだろ」
取り出して相互通話を許可すると、いきなりアルトの困ったような声が聞こえた。
『あ、ノイル? 今大丈夫?』
「別に平気だけど、どうしたの?」
『それがその、ソプラのことなんだけど』
「うん。なんかやらかした?」
ソプラは賢いし強いのだが、わりと短気で猪突猛進なのでたまーにやらかすのである。
するとアルトは、言いづらそうに少し黙った後にこう告げた。
『その……どうしたらいいのかよく分からなくて』
という申し訳なさそうなアルトの言葉に、ノイルはとりあえず事情を聞いた。
※※※
「ああ、アルト! アルトアルトォ!!」
バァン! と血相を変えたソプラが、泊まっている宿部屋のドアを大きく開け放った。
「ど、どうしたの?」
アルトは目をパチクリさせながら、丸メガネを押し上げた。
彼女とは一昨日、二人で冒険に出たばかりだ。
王都の一つ先にあるこの街で、軽くギルドの講座なんかを受けて、情報収集しながら動き方を決めようとしていた矢先のことである。
するとソプラは、飛び込んできた時の勢いはどうしたのか、ちょっと泣きそうな顔のままもじもじと指先をこすり合わせた。
じわっと目尻に涙を浮かべて肩を落としている。
「その……お金、取られちゃった……」




