闇の勇者パーティー結成。
「というわけで、これからよろしくお願いしますね」
律儀に待っていた三人を集めて話をすると、バスは頭を掻いた。
「オラぁ、人とツルむ気はなかったんだが……」
そんなドワーフの言葉に、ラピンチとソーも口々に声を上げる。
「俺っちたちも、魔剣を手に入れて小銭稼ぎがしたかっただけだしなー。ナァ?」
「……さすがに魔王陛下本人の前で、その通りだ、とは言えねーだろ」
正直すぎる竜人に、虎の獣人は顔を引きつらせる。
しかしノイルはそんなこと絶対に気にするような人じゃないけどなー、と心の中で思った。
案の定、メゾは横で小さく笑いながら軽く手を振る。
「いや、たくましくていいじゃないか。ノイルに取られなきゃうちの軍にスカウトしたかったくらいだよ」
「そいつぁ光栄ですね」
「光栄だと感じてくれるなら、少しワガママを聞いてくれてもいいんじゃないか? ボクとしてもノイルに死なれるのは困るんだよね」
ノイルが一緒なら今まで通りに自由に放浪していてもいいし、月極めで給料もあげるよ、とメゾが提案すると、ソーとラピンチは心が動いたようだった。
「幾らぐらいっすか? ナァ?」
「安くないなら、悪くない取引ですね」
ソーたちは、メゾが先ほど経歴を教えてくれたが、そもそもが雇われ冒険者、というか用心棒や傭兵に近い仕事をしていたらしい。
普段は村や店と短期間滞在の契約を結んで、飲み食い宿をタダにする代わりに報酬を安くし、護衛業をしているのだそうだ。
だが、メゾが笑顔のまま口にした金額に、二人は目を剥いた。
「そ、そんなに貰えるんですか!?」
「ヤベーな、ノイル、ヤベーな! おめー、一体ナニモンだ!? ナァ!?」
「何者でもないんだけど。ただの冒険者養成学校の卒業生ってだけで」
しかも卒業したのは今日も今日、さっきの昼ごろだ。
それがもうこの段階で、闇の勇者とか呼ばれているのである。
ーーーよくよく考えてみると、とんでもない状況だなぁ。
そんな風に思いながら、ノイルは淡々と二人に事情を説明する。
「いや実は、幼馴染のソプラが勇者の資質もちだって言うから、メゾさんを殺しに来たんだけど」
魔王軍の中で訓練を積み、強くなってからの予定ではあったが。
「事情が変わって冒険者をしないといけないみたいだから、力を貸して欲しいんだよね」
その説明で何を思ったのか、ソーがため息を吐く。
「なぁ、ノイル」
「何?」
「テメェ、今の話だけで十分すぎるくらい規格外だわ。関わったのが運の始まりか運の尽きかは分かんねーが」
ぽん、と肩を叩いた虎の獣人は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「地獄の沙汰も金次第だ」
「つまりやるってことだね」
一つうなずいたノイルは、メゾの提示した金額を聞いても全く動じていない隻眼のドワーフに声をかける。
「ねぇ、バスさん」
「なんだ、ボウズ」
俺は金では動かねーぞ、と言わんばかりのドワーフに、ノイルは頭を下げた。
「バスさんは、俺が訓練場の中で見た人たちの中で、一番強い人です。出来れば一緒に来て、俺に稽古つけて欲しいんですが」
ダメでしょうか、と頭を上げると、バスはしばらく黙りこくった後、唐突に笑みを浮かべた。
「ガハハ! おめぇは本当に腹の中身が読めねーボウズだな!」
「?」
言っている意味がよく分からなかった。
ーーー別に何も考えてないんだけどなー。
ただバスに来て欲しいと思い、その気持ちを伝えただけである。
でも、彼はどうやら機嫌良さそうな顔で親指を立てた。
「確かに少しばかり未熟だが、おめぇは頭がキレるし驕らねぇ。オラに頭を下げたかと思えば、陛下を殺すと大言壮語も吐く。読めねーんだよなぁ。ーーーだが、読めねーヤツは面白ぇ」
「えっと、つまり?」
「しばらく付き合ってやるって言ってんだよ、ボウズ」
なら分かりづらい言い回しをせずに、普通にそう言ってくれればいいのだが。
そんな風に思いつつも、オーケーしてくれたなら何も問題はなかった。
多分ひねくれてるのだろう、と納得して、ノイルはバスに手を差し出す。
「なら、改めてこれからよろしくお願いします」
「おう」
ガシッと握手を交わして、ノイルは無事にパーティーメンバーを確保したのだった。




