幼馴染の少女も鍛えないといけない。
「成長する武器、ですか」
「そうだよ。遣い手次第でいくらでも強くなり、聖にも魔にも染まる最高の武器さ。ボク自身は、遣い手の技量に左右される他の聖剣魔剣に勝る、この剣の可能性が好きなんだ」
可能性が好き、という言葉に、ノイルは納得した。
勇者や魔人の適性を持つ者ではなく自分を選んだ理由はそれなのだろう。
素質を見込まれた、ということだ。
「さぁ、試験は終わった。何も質問がなければ、残りの候補生を集めて魔王軍に引き抜く相手を決めようと思うけど」
どう? と首をかしげるメゾに、ノイルはうなずいた。
「三つ質問があります」
「どうぞ」
「この剣と闇の勇者の資格を狙ってくる奴が、メゾさんを通せばいいですけど、そうではなく暗殺などをしに来た場合ですが」
「うん」
ノイルはにっこりと笑って首をかしげる。
「当然、殺してもいいですよね?」
「もちろんだ」
「では、二つ目の質問です。魔王と勇者が対ではない、という話については?」
「ああ、そのことかい?」
メゾは腕を組んで、自分の頬筋を指でなぞる。
「それも簡単な話だよ。もともと、魔王っていうのは魔族だけに与えられる〝魔人の適性〟を持つ者が成り上がっただけの存在なんだ。ま、そこまで上がるにはボクくらい強くならないといけないけどね!」
こういう、事あるごとに自分の凄さを誇るあたりはソプラに似てるな、と思いつつ、ノイルがうなずくと、彼女は話を進めた。
「ぶっちゃけただそれだけ。魔王を勇者が倒さなきゃいけない、なんて話はただ魔族と人族が長いこと敵対してたから生まれた幻想だよ。魔王に対抗できるくらい強いのは」
そこで、メゾはノイルに流し目をくれる。
「ーーー覚醒した勇者と、修羅くらいのものだからね」
「なるほど」
そこについては疑問が氷解すれば特に興味はなかった。
しかし、メゾの話には続きがあった。
「でも、〝封印された邪神〟に関しては、ある意味で勇者は対であると言えるから、そこらへんの話も影響してるんじゃないかな」
「邪神っていうのは?」
「古文書に記された神への敵対者だね。勇者も魔人も、そして修羅も。どれも言うなれば神から与えられる適性なんだ。つまり」
「本来はどれもその邪神に対抗するための神のコマだった、って事ですか?」
「君は理解が早くて素晴らしいね!」
話の先を読んだノイルに、メゾは満足そうにうなずいた。
「で、最近封印が緩んでそいつ復活しそうなんだよ」
「そんな軽く言うような話ではない気がしますが」
かなりとんでもないことを彼女は今、口にしたのである。
「だから早急に人族と仲良くなる必要があったんじゃないか。流石にボク一人じゃ対抗するの無理だし。勇者がいて、魔王がいて、修羅がいて。最低でも古文書にはその三人じゃないと対抗できないって記されてたから」
自分を育てようとしている理由まで口にしたメゾに、流石にノイルは訝しさを覚える。
「いいんですか、そんなことまでぶっちゃけて」
ノイルはあくまでもまだ素質もちである。
覚醒なんて気配のかけらもないのだが。
そう思ったが、メゾは首を横に振った。
「いいんだよ。君は絶対覚醒するし、させるし」
もししなかったら、とメゾは赤い目をちらりと遠くに向けるようなジェスチャーを見せた。
「君の大切な勇者を、ボク、殺しに行くからね」
「……目標をありがとうございます」
そんな事態は確実に防がなければならない。
つまりノイルは、絶対に覚醒しなければならなくなった、ということだ。
「で、一つだけそれに関して言いたいんですが」
「何か?」
「ーーーもしソプラに手を出すんなら、邪神は放っといてあなたを殺すので、それだけは覚えといてください」
まっすぐ彼女の目を見ながら、ノイルも笑みを消さないままに告げると……。
……魔王は、三日月のように目を細める笑みを浮かべて言い返してきた。
「いい気概だね。ボクは、そうならないために君が幼馴染の勇者ちゃんも覚醒させてくれるのを、期待してるよ」
時間はないからね、と締めた魔王に、ノイルは軽く頷く。
「それが一番ですね。あいつが死なないように強くなること自体は、俺も賛成なんで。じゃ、最後の質問です」
「どうぞ」
「バスさんと、ソー・コラーノさんと、ラピンチさん。……あの人たちを、俺のパーティーメンバーにして欲しいんですが」
見た限り、参加者の中でもずば抜けた三人で、かつ性格もいい。
そう思って提案すると、メゾは満足そうにうなずいた。
「闇の勇者パーティー、と言うわけだね。私も目をつけていた三人だしーーー君の人を見る目は、確かだね」
「ありがとうございます」
ノイルがペコリ、と頭を下げると、メゾがパンパン、と手を叩き、デュラムが屋内修練場の入り口を開けた。




