女魔王は武器を贈ってくれる。
一足飛びの、先の先。
最適な動作で、最短距離で、必要最小限の小手打ち狙い。
〝加速特化〟のスキルと合わせて、自分に放てる最速の一撃を放ったノイルだが、バスはやはり甘くなかった。
「ーーー《揺》」
重厚な一歩を踏み出したドワーフの呪文に合わせて、ゆらりと斧の先端が揺らぐ。
まるで蜃気楼のように二つに分かれた打撃には、どちらも実体であるかのような戦意が宿っている。
ーーー小さな動きじゃ、避けきれないかな。
小手打ちを外せば、今度こそ押し切られる、が……ノイルは斧の射程範囲に入る直前で急制動し、そのまま刃先を振り下ろした。
ーーーパチリ、と鍔元にある鞘の止め金を外しながら。
振り下ろす勢いに合わせて、鞘がバスに向かって飛んでいく。
威力も何もない、フェイントに近い搦め手の飛び道具だ。
まっすぐ飛んで行くことすらなく、宙でクルリと回った鞘は、タイミングを外されて思わず腕で弾いたバスに当たった。
「あ」
やっちまった、という顔をしたバスが、斧をそのまま床に叩きつけながら、ニヤリと笑う。
「ちきしょう、やってくれたなボウズ! このイタズラ小僧が!」
「当てたらいい、ってルールだったからね。ごめん」
正々堂々とは程遠い手段だったが、他に勝つ手段が思い浮かばなかったのだ。
得物が当たっても外に飛ばされるなら、これもアウト。
フゥ、と息を吐いたノイルに、バスは気にするな、と言わんばかりに手を振りながら外に飛ばされた。
「勝者、ノイル!」
ヒャッホー! と、メゾの声がノイル以外誰もいなくなった屋内闘技場の中に響き渡り、無表情なデュラムがドラムソロで祝福してくれる。
おそらくは外まで響いただろうその音が、終了の合図だった。
「なんとか勝ったよ。ちょっとズルいですか?」
鞘を拾いながらメゾに問いかけると、彼女は首を横に振った。
「いいや。どんなに汚くても勝てばいいんだよ。君は闇の勇者にふさわしい! やはりボクの目に間違いはなかったね!」
あはは、と笑った魔王は、手の中の布包みをするりと解いた。
現れたのは、漆黒の剣。
赤い装飾の嵌った……禍々しさすら感じるその剣は、その色合いも含めて、メゾ自身の化身のようにノイルには感じられた。
「さぁ、こっちへ」
呼びかけられてノイルが壇上に上がると、メゾはニコニコと剣を差し出してくる。
柄を握ると、どこかしっくりと来た。
ぼや、と赤い光を放った魔剣は、すぐに色を収めて青々とした刃紋を光にきらめかせた。
「なんか、俺のためにあつらえたような長さですね……」
自分の剣……柄を少し長くした特注の片手剣とほぼ同寸のそれにノイルが不思議さを覚えていると、メゾは種明かしをしてくれた。
「その魔剣は、主人と認めた者に合わせて姿を変える。君は認められたのさ」
おめでとう、とメゾは拍手をする。
そんな彼女に、ノイルは問いかけた。
「この魔剣の名前は?」
「よくぞ聞いてくれた!」
ふふん、とどこか得意げに胸を逸らした魔王は、その赤い瞳をキラキラときらめかせて、まるで子どもが宝物を披露するかのように名前を口にする。
「この子は〝成長する十三武器〟の一つーーー双極の剣【イクスキャリバー】さ」




