強いドワーフと倒した数を競い合う。
「あーあ……」
いきなり始まった乱闘を見ながら、ノイルはペシン、と額に手を当てた。
「おい、オレらはどうする? しばらく逃げとくか?」
「ここでノイルを殴り倒してみるのも面白いかなって思うけどな、ナァ?」
あんまり緊張感のないソーとラピンチが軽口を叩くのに、バスが背中から斧を手に取りながらため息を吐く。
「別に構いやしねーが、それやった瞬間コイツでぶっ叩くぞ」
ごつん、と重い音を立てて床を斧で叩くドワーフに、ノイルは笑いかける。
「あはは。別にそんな気にしなくて大丈夫だよー」
「そのヒョロい体で、どっからその自信が出てくるんだ、おめぇ」
「自信っていうかさ」
ノイルは軽く手を上げて、ぽん、とラピンチの背中を叩いた。
「多分ここにいる中で一番強いの、ここの四人だと思うから」
「「「あん?」」」
ノイルの言葉にそろって三人が声を上げたところでーーーポン! と音を立ててラピンチの姿が消えた。
「「「え?」」」
今度はノイル自身を含む三人が声を上げる。
「ウソぉ……あれでアウト?」
軽く体に触れただけでアウト、っていうのは判定がシビア過ぎないだろうか。
よく見たら、参加者がポンポンポンポン消えていき、それをメゾが手を叩きながら笑って見ていた。
ーーーいい性格してるなぁ、さすが魔王。
そんな事を考えていると、ソーがジトッとした目で睨みつけて来た。
「……おい、ノイル」
「ご、ごめん。わざとじゃな……あ」
思わずノイルは頭を下げかけて、彼の後ろから乱闘に参加していた一人が駆けてくるのを見つける。
「ちょっとゴメン」
「は? おい!」
するりと近づいて軽く左手でソーの胸を押したノイルは、右手で鞘ごと片手剣を引き抜いた。
「うらぁ!」
そのまま突っ込んで来た参加者の頭を、スパン!と横薙ぎに鞘の腹で叩く。
「グハッと!」
「テメェ覚えと……」
グラッと揺れた参加者と、覚えとけ、と最後まで言い切れなかったソーが、同時にポン! と音を立てて消える。
「ほぉ、いい動きじゃねぇか」
「バスさん。一時休戦でこいつら始末しとかない?」
感心したようにこちらを見るバスに取り引きを持ちかけると、彼はヒゲモジャの口もとをニィ、と釣り上げてうなずいた。
「おっしゃ。どっちが何人潰せるか勝負するか?」
「良いよ。今俺3人ね」
「あの二人も人数に含めんのかよ! ちゃっかりしてんなおめぇ!」
バスは、どうやらパーティーらしき三人組が横から突っ込んで来るのも見もしないまま巨大な斧を振るった。
三人同時に凄まじい膂力で薙ぎ払われた相手は、やはり音を立てて消える。
「これでオラも3人だ」
「あはは、やるなぁ!」
力比べじゃ絶対に勝てないだろう……そう思いながら、呪文を口にする。
「ーーー〝加速特化〟」
強襲形態と違い膂力は強化されないが、脚力と感覚を強化することに特化した派生スキルである。
別に倒さなくて良い上に、ダメージを与える必要すらないのなら速さが命だ。
ノイルが床を蹴るのと同時に、バスも別の方向に向けてノシノシと歩き始める。
それ以上彼のほうを見ずに、ノイルは敵を倒すことに集中した。
戦っている者同士の片割れに背中から近づいて鞘で叩き、その間に襲ってきた相手に対しては他の参加者を盾に使うように動き回る。
ほんの数分で、屋内訓練場の中にいるのはバスとノイルだけになった。
「35人。そっちは?」
「同じ数だな。つまりおめぇを倒せば、オラの勝ちだ」
ちょうど訓練場の真ん中あたりで、ノイルはドワーフと対峙する。
戦意の圧が、やっぱり他の連中の比ではなかった。
ーーー凄い人といきなり知り合いになれて、ラッキーだなぁ。
そんな風に思いながら、ノイルは半身になり、鞘を被せたままの片手剣を前に突き出して構えた。




