女魔王は唐突過ぎる。
「よろしく……ってのはどういう意味だ?」
よく分からない、と言いたそうな顔をしたソーは、首をかしげながらも握手に応じてくれた。
「んー、まぁ試験が終わったら分かるよー」
ノイルが言い返したところで、壇上にメゾが姿を見せた。
ざわり、と喧騒が少し大きくなった後に、屋内訓練場が静まり返る。
そんな空気の中、ニコニコと上機嫌な笑みを浮かべているメゾが、相変わらず黒い布袋を手にしたまま声を上げた。
「はーい、皆さんこんにちは! 皆のおねーさん、魔王を務めているメゾでーす!」
ブンブン、と手を振る彼女に、試験を受けにきた魔族達が戸惑ったような空気を出した。
ーーー挨拶に威厳のカケラもないなー。
そんな風にノイルが思っている間に、腕を下ろしたメゾが話を続ける。
「今日お集まりいただいたことを感謝します! 趣旨は皆様理解されてるかと思いますので、ボクからは簡単な説明だけさせてもらおうかと思います! 今回の試験の報酬とルールについてです!」
魔王は、手に持った黒い布包みを掲げる。
「報酬はこれ! いわゆる魔剣ですね! 選ばれるかどーかは最後に勝ち残った人次第ですが、選ばれた暁にはこれに適合するかどうかの試験を受けてもらい、剣に認められれば副賞とします!」
そして布包みを下ろしたメゾは、次にピ、と指を立てた。
「もし認められなければ、認められるまで修行しましょう! それを踏まえた上で、本当の報酬は今後魔の国も参加することになった〝勇者の祭典〟への出場資格になりまーす!」
さらに! と魔王は二本目の指を立てた。
「もし魔剣に認められなくても、他の魔剣聖剣を手に入れていればその人が出場者になりまーす! ……で、ここからが重要なのですが!」
ニィ、とそれまでの温和なものから笑みの種類を変えたメゾは、声のトーンは変えないままにとんでもないことを言い出した。
「この権利は、出場が確定する時期まで奪い合い可能でーす! 私に許可を取り、正々堂々真正面から資格者を叩き潰せばOK! ここまではいいですかー!?」
誰も返事はしないが、質問はなかった。
バスは少し呆れたような顔でメゾを見ており、ソーは頭を掻いて、ラピンチはポカンと大きな口を開けている。
「えらく軽ぃな、オイ」
「メゾ様ってあんな人だったのか……? ナァ?」
「まぁ、驚きではあるな。つーか奪い合い可能って、それ試験の意味あんのか……?」
ボソボソと三人が言い合うのを聞いて、ノイルは『皆思うことは同じだな……』と深くうなずいた。
「では、質問がないのでルール説明でーす! この、映えある〝闇の勇者〟になる権利を得る、その試験の内容は!」
そこで、ダラララララ……となぜかドラムロールが鳴り響き始める。
見ると魔王の後ろ……舞台袖に当たる位置に打楽器が置いてあり、迎えにきて道案内をしてくれたデュラムがスネアと叩いていた。
ーーーあの人何でも出来るな。
ノイルが感心していると、ダン! と一際大きな音と共にドラムロールが止み、メゾが手を掲げて声を張り上げる。
「ーーー試験者同士で殴り合え! です!」
「うわぁ……シンプル……」
要はこの中でバトルロイヤルをしろ、という意味だ。
「武器は使ってもいいけど斬っちゃダメ! もし殺したらボクがそいつを殺すので、よろしく頼むよ! 一発殴られた奴はボクの魔力で試験場の外に飛ばすから、そうなったら失格!」
メゾがパチン! と指を鳴らすと、屋内訓練場の扉がバタン! と閉まり、室内が魔力の気配に包まれた。
「失格になった人も、しばらく入り口の前で待っててね! 終わったら挨拶して解散! それじゃ、始め!」
「え、早!」
ノイルが声を上げると、皆も唐突過ぎたのか思わず顔を見合わせて……その直後、全員がギラリと目を輝かせて一斉に得物を引き抜いた。