従者の正体はもしかして有名人?
「こちらが、試験会場になります」
部屋に荷物を置いた後、すぐに案内されたのは魔王城の横にある訓練場の中。
兵舎の近くにある建物だった。
老人によると、屋内訓練場らしい。
見ると、サキュバスのおねーさんと筋骨隆々の竜人兵士が受付をしており、ぞろぞろと入っていくのも同じような外見の獣人などだ。
当然、人族に近い姿をしていてもツノや尾を生やしている。
ノイルに気づいた亜人族の人々は、ひそひそとこちらを見て何かを言い合っている。
あまり良い雰囲気はしない。
「人族は俺だけですかね?」
ノイルが老人に問いかけると、彼は小さくうなずいた。
「おそらくは。魔の国に永住する人族の方はさほど多くありませんので」
「ですよね。案内してくれてありがとうございました」
ペコリと頭を下げると、老人は特に表情も姿勢も変えないまま淡々と言う。
「仕事でございますから。試験が終わった時に、また迎えに参ります」
「ありがとうございます。後すいません。お名前だけ教えてもらっても良いですか?」
流石にメゾのように爺やとは呼びにくいので尋ねると、老人はやはり無表情のまま淡々と答えた。
「デュラム、と申します。では、失礼いたします」
ピシリと背筋を伸ばしたまま綺麗なお辞儀をしたデュラムは、音もなくその場を後にした。
「……なんか聞き覚えのある名前なよーな?」
確か、〝魔王軍三魔将〟と呼ばれる最強格の一人がそんな名前ではなかっただろうか。
しかしそんな高名な人物が、まるで執事か従者のように振る舞うのも考えづらい気がしたが。
「ま、いっかー」
別にどっちだったところであまりノイルには関係ない。
手続きを済ませて会場に入ると、部屋の隅に立ってぼんやりと中を眺めた。
特に何も用意されておらず、中はがらんとしている。
その中に受付を済ませた者たちがそれなりの人数おり、遠くに見える壇上には『闇の勇者選抜試験』という達筆の垂れ幕がかかっていた。
受付で聞いたところによると、始まるまではまだ少し間がある。
やっぱりちょっとヒソヒソされている中であくびをしていると、屈強な二人組がこちらに近づいてきた。
竜の頭を持つ竜人と、虎の頭をした獣人の二人組である。
「よぉ、テメェ」
「何ですか?」
目の前に立った二人のうち、虎頭の方が声を上げるので顔を向けると、彼はジロジロと前傾姿勢でノイルの眺め回して言った。
「テメェ、人族だろ? なんでこんなところにいるんだァ?」
すると竜人の方もアゴを撫でながら口を開き、それに乗っかる。
「予選の時はいなかった気がしたが、どうやって紛れ込んだ?」
「来いって言われたからですけど」
一応初対面なので敬語を使ったが、あんまり礼儀を知らない連中らしいので少し口調がおざなりになる。
「スカウトされたってことか? テメェみてーなのが?」
「まぁ、俺もそう思ってますけど」
メゾの考えはイマイチよく分からない上に、ここで何をするのかも知らない。
なんで絡まれたのかなー、とぼんやり考えていると。
「緊張してるからって、小坊主に絡むようなマネすんなよ……」
横でボソリと、低い声で誰かがつぶやいた。