幼馴染の少女に別れを告げた。
魔物退治の専門家を育成する冒険者養成学校。
その学校の卒業式である今日、首席で卒業を決めた幼馴染の少女が、得意げな嘲り顔で一枚の紙を見せびらかして来た。
「ほら、見なさい! 私、勇者に選ばれたのよ!」
「へぇ、おめでとう」
そんな彼女に逆らわず、万年二位、首席の腰巾着、永遠の敗北者、強気に出れないヘタレ野郎などなど、在学中に様々なあだ名で呼ばれた少年……ノイルは、彼女に祝福の言葉を投げた。
心がこもっていようがいまいが関係ない、と言わんばかりに紙切れを下ろした少女は、両手を腰に当ててふんぞり返る。
冒険者養成学校では、卒業生に対して『神託の儀式』をさせる。
そこで冒険者としての適性を見るのだが、稀に真の英雄の資質を持つ者は特別な適性を告げられるものがいるのだ。
目の前の幼馴染が、まさにそれだった。
『神託の儀式』で勇者の適性を告げられたのである。
学校始まって以来の快挙だと、生徒から教師、国の偉いさんまでが湧きに湧いた。
そうしてこれ以上ないくらい増長した、純白の髪をポニーテールに結った勝気な美少女……ソプラは、赤い瞳を細めて恩着せがましい口調でノイルに言った。
「これから冒険に出るわけだけど。その時にあなたをパーティーメンバーに加えるわ。感謝しなさいよね、万年二位のあなたをここまで買ってあげてるのは私だけ……」
「あ、ごめん」
ノイルは彼女の話をさえぎって、先に謝った。
「何よ?」
今までされたことのない行為に面食らったのか、彼女はパチクリとまばたきをした後にキッと不愉快そうな顔で睨みつけてくる。
しかし、ノイルはそんな彼女に微笑みとともに告げてやった。
「ーーー俺、魔王軍に入るから。君とは一緒に行けないよ」
「……え?」
何を言われたのか理解できない表情で、ソプラは固まる。
今まで彼女の言うことに逆らったことがなかったが、それも今日までの話だった。
今日、これから魔の国に向けて旅立つのだ。
「勇者に選ばれたのは本当におめでとう。俺は剣の適性があるって言われたから、魔の国で素直に剣士になるよ。これからお互い頑張ろうね〜」
「ま、待ちなさいよ!!! そんな話聞いてないわよ!? 断りなさいよ!」
「なんで?」
首をかしげて見せると、ソプラはなぜかうろたえた様子で言い返してくる。
「な、なんでって……わ、私が言ってるのよ!?」
「うん、そうだね。でももうそれは決まったことだから」
ノイルは、スパッとその言葉を切り捨てた。
「今さら変えれないし、諦めてね」
「……!!!!」
普段の罵詈雑言はどこへやら。
パクパクと口を開閉させるソプラの口から、それ以上の言葉が漏れることはなかった。
「もうおしまいでいい? じゃ、俺、旅立ちの準備があるから。……あ、そうそう」
ノイルは、最後に彼女に一つだけ助言をしてあげた。
「旅に出た後、あまりそういう態度は取らない方がいいよ? 勇者が仲間に見捨てられたら格好つかないだろうから」
それじゃーねー、と呆然として固まっている少女に一方的に告げてひらひらと手を振ると、ノイルはその場を後にする。
角を曲がる時に振り向くと、ソプラはまだ呆然としていた。