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真っ白な空間に、椅子が用意されているイメージを持つ。そのイメージに入り込み、その空間の住人のように自分を形作る。出来上がった僕は、椅子に座る。すると何処からともなく僕のそっくりさん、イルキナが現れて、その椅子に座る。対話の準備は完了だ。
僕は普通の二重人格者とは違い、こうした形でだが話し合いができる。何故か知らないけども。それは置いといて、僕はイルキナに話を切り出す。
(おいイルキナ、どうだった?)
どう、というのは丸太との喧嘩の結果だ。丸太も医務室にいるということは、僕が気を失っているうちに、イルキナが出てきて丸太と喧嘩になった、ということだろう。
(どうだったもクソとねぇよボーイ、結果はみりゃわかんだろ。相打ちだ相打ち。てめぇがいいの貰ってなきゃ勝てたわ)
(うるせぇな!仕方ないだろ!僕だって殴ろうと考えてたんだ!)
(考える前に殴れや!)
(僕はイルキナと違って知性があるからね、そんな野蛮な真似はしないのさ)
(ぶっ飛ばされたら意味ないだろ、それ)
うっ、と言葉に詰まった。痛いところをついてくる。何も言い返す言葉がない。イルキナにそれを知られたら面倒なので、とっとと退散することにしよう。しかし下手な理由だと絡まれるしなぁ…
そう思っていた僕に良い知らせが降りてきた。ガラッと扉を開ける音がして、その音の主は院長だ。意識は白い世界にあり、本来は聞こえないはずなのに、なぜか気付けるのだ。それはさておき、これならいい口実が作れる。
(…もういい、戻るぞ)
(まーた逃げるのかボーイちゃんはよぉ!全く、俺を見習って欲しいぜ)
(逃げるわけじゃねぇよ!"院長"がきたんだよ!)
(チッ、ならしゃあねぇな。またくるわ)
(もうくんな!)
その言葉を最後に、真っ白な空間が崩壊していく。イメージを完全にやめて、すぐに意識を戻すと、目の前に院長がいた。
白髪まじりのやつれた顔。天辺のハゲ隠しのささやかな帽子。帽子があるなら杖を持って紳士ぶりたい、ということで杖も持っている。こんなただの痛いおっさんが、この酒場のマスター兼孤児院長だ。
そんな院長が、僕の意識が戻るのをみて、開口一番…の前に拳が飛んできた。ブン、と音が聞こえるほど速い拳は、見事に傷口に吸われていった。
「いったぁぁぁ!!こいつ思いっきり傷口に叩き込んできやがった!」
「おまえがぶっ倒れたせいで店の周りが悪くなってんだ、こんくらいで許してやるだけ感謝しろやボーイ」
「まぁそりゃそうだけど、殴るこたぁねぇだろ…」
「あ?なんかいったか?」
「なんもいってねぇから杖でつつくのやめろ!」
「ったく、ケガなんてするもんじゃねぇぞ。今日はもう休んでいい。明日までには治しな」
全く、このおっさんは…すぐ手が出るし、わがまま。だけどやるときにはやるし、責任感だってある。孤児仲間のみんなも、荒くれ者どもも、そこらへんに惹かれてんだな、と改めて思う。
院長に言われた通り、今日はゆっくり休むことにした。途中、孤児仲間達や荒くれ者がお見舞いに、冷やかしにやってくる。冷やかしは帰れ。医務室なのにバカみたいな笑い声を上げる奴もいるし、酒を持ってくる奴もいた。孤児も荒くれ者どもも一緒になってバカ騒ぎをしている。それを察知したのか丸太も目を覚まし、傷はなんでなかったかのようにバカ騒ぎに加わる。
決して微笑ましい絵面ではないが、こんな空間は好きだ。院長に拾われる前はやるがやられるか、騙すか騙されるかの毎日だったからかな。平和は僕の心を満たしてくれている。
この平穏で喧しい毎日が、ずっと続けばいいと思っていた。
酒場と孤児院?妙な組み合わせに納得できない奴もいるよな。意外と成り立ってるんだぜ。
酒場と孤児院、一見全く似合わない組み合わせだが、この酒場には荒くれ者が多くいる。だから孤児を誘拐する、などといった行為がしづらいのだ。ここの荒くれ者どもはなかなか強いからな。
さらに、荒くれ者が孤児に暴力を振るう心配もない。そんなことしたら出禁になるからだ。ここは町に一つしかない酒場。そんな荒くれ者どもの憩いの地を出禁されちゃ溜まったもんじゃないからな。荒くれ者どもは手を出さない。
あと、院長はめっちゃ強いからもあるな。丸太をワンパンするくらいだ…っていってもわかんねぇか。とにかく強い。
それとなぜ意識を向けているのに気付ける…というのは、ちゃんと納得できる理由があるから、安心して説明できる時を待ってくれ。
あとは…俺のことだな。いきなりの展開でよくわからんだろ。俺に関してもおいおい掘り下げるから待っててくれ。




