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頑張って継続していきたい。
「おい"ボーイ"!早く酒持ってこねぇか!」
こんなにも周りは喧々としているのに、自分の名前だけははっきりと耳まで届く。こんな耳嫌いだ、と思ったところで、僕を読んだ声の主は待ってくれない。
「わかってるよ!今行くから待ってろ!」
バタバタとカウンターへ急ぐ。あの客は待たせると面倒なのはもう身に染みて分かっている。洗浄されたグラスを取り、"ライト"と呼ばれる酒を注ぐ。あの客はこの酒しか飲まない。大柄な癖に酒精の低い酒を好むギャップに、一度にやけて殴られている。
溢さないよう、かつ迅速に酒をテーブルに運ぶ。これがプロの仕事だ。なんてね。
コト、と小さく音を立て、グラスに並々と注がれた酒に満足した客は
「お、やっときたか。遅いぞ"ボーイ"!」
と言い僕にデコピンをした。これでも急いだのに、なぜだ。それに怒りを覚えるよりも、指摘しなければならないことがある。
「ボーイって言うなよって、何度言ったらわかるんだこの丸太!再三注意しただろ!」
「あぁ!?なよなよしてるてめぇが悪いって言ってんだろ!名前も"ボーシャ・イルキナ"だろ?おあつらえ向きじゃねぇか!」
周りはガハハとはやし立てる。別になよなよしてるつもりはないし、名前で弄られる謂れもない。この丸太に対して何度目かも忘れた怒りを拳に乗せて、憎たらしい顔面に1発入れようと考えている時に丸太が動いた。
「そーいやてめぇ、俺様のことまた丸太って言ったよなぁ!」
「あっやべ」
丸太は凶悪な拳を僕に振るった。次の瞬間、僕は盛大に吹き飛んだ。他のテーブルにつっこみ、置いてあったグラスやつまみ、それからほのテーブルの客も巻き添えにしてだ。
この酒場での労働で多少なりとも鍛えられている筈だが、それでも丸太の豪腕には耐えられない。
次に見る光景は薄汚い木の天井だろうと予想して、僕は意識を手放した。
目を開けると、視線の先には薄汚い木の天井があった。予想は的中した。やったね。
体が痛い、雑な治療と、全然気持ちよくないベッドに寝かせられていれば当然のことだ。それは違うか。
「おーボーイ、目ぇ覚ましたか」
右側から聞こえた声に反応して、視線をそちらへ向ける。そこには多少の傷を負った丸太がいた。
「全くてめぇはめんどくせぇよな。"二重人格"ってのも含めなくてもよ。 」
「うるせ丸太、お前が仕掛けてきたんだろ」
「てめ、また丸太って…後で覚えてろよ」
そう言って丸太は眠りに入る。完全に寝付いたのを確認し、捨てゼリフを吐いておく。聞こえないように。
「こっちのセリフだ丸太。お前もいまボーイっつったろ。」
今のやりとりからわかる通り、僕は二重人格者だ。しかも"あいつ"はタチが悪い。なぜならみんなはあいつのことを、ちゃんと"ボーシャ"と呼ぶからだ。僕もボーシャだっての。
僕は認めたくないが、威勢だけがいい弱いやつだ。認めたくないが。
それに対してあいつは違う、好戦的だし、強い。一言で言えば野蛮だ。同じ身体なのにどこが違うって言うんだ。
しかし僕はあいつを嫌いになれない。好きなところが似ているからだ。うざいけど。
そんなあいつ…いや、「イルキナ」も"起きた"ので、丸太との一戦について聞いてみることにした。
長かったのでここで切ります。




