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赤を避ける人
夕日を眺めながら歌を歌う人がいた。ルシオラの歌とは違って、宗教的な香りを感じさせる歌だ。
陽の光で肌を真っ赤に染める人は僧侶で、その横顔はどこか悲し気で、遠くを見つめる瞳から光の粒が零れそうだった。
エアルの手記より。
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迷惑な客がやって来たのは数か月前。田畑しかない田舎町にその男たちは大股で靴音を高らかにやって来た。
夏野菜の出来を心配して、ある農家を訪れていた私を呼びに来た少女は泣きながらこう叫んだ。
「法師様、助けてください。みんな神様に殺される!」
二十年近く神に仕えてきたが、こんな言葉を耳にしたのは初めてだった。
来客が暴れているという町の中央広場に向かうと、そこには目を背けたくなる光景が広がっていた。
「貴方たち、ここで何をしているんですか」
私の目の前には武装した男が二人。
「何って、神の裁きを実行していただけだが、何か問題でもあるのか?法師様」
彼らの身につけている防具はグッタの僧兵しか着ることを許されない神聖なものだ。
「己の罪を神のせいにしてはいけません」
私の言葉に反応して男たちは腹を抱えて笑い始めた。
「俺たちは神の盾であり剣なんだから、神への不敬に裁きを下したところで誰も文句は言えない。そうだろう?」
初めに男たちを検問した関所の男を不敬として切りつけた。
次に目の前を横切った子どもに道を遮ったと言って蹴り飛ばした。
食料を持ってこいと怒鳴り散らし、痩せた野菜を持ってきた女性を殴打した。不味い水を出したからと食器を投げつけ、泣く赤子を五月蝿いと言って地に叩きつけ、勇敢に立ち向かおうとした男性をめった刺しにし、救護に駆け付けた看護師の胸に刃物を突き立てた。
「法師様、不敬は罪だろう?」
神の名を語り人の命で遊んだこの獣たちを必ず殺してやろうと心に決めた。
「そうです。不敬は罪です」
「流石は法師様。俺たちの行為を理解してくれると思ってたよ」
男たちは名乗り、しばらくここで滞在すると私に告げた。
「法師様、名前は何て言うの?」
「ニトーシェ」
「へえ、じゃあニトーシェ様よろしく」
一人の男が馴れ馴れしい態度で私の肩に手をまわしてきた。先ほど名を聞いたばかりだったが、覚える気もないので思い出しようもなかった。別に問題は無い。決して名など呼ぶことはないのだから。