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3人娘

 

 丸いテーブルを囲むように僕たちは座る。

 僕の正面に雅が座っていて、左右に安西さんと金子さんがいる。


 僕らは無言でドリンクを飲む。

 微妙に気まずい雰囲気だ……


 雅は僕の顔をチラチラ見て、顔を赤くしていた。

 恐ろしく挙動不審だ……



 安西さんが沈黙を破った。


「み、雅さん、時間も勿体無いし話しをしましょう?」


 あれ? この3人は仲悪かったよね?


 安西さんは雅を待ったが、中々話し出さない。


「仕方ないわね……少し話す順番変わりますね。大樹君、この前は私と金子さんを助けてくれてありがとうございます」


「あ、ありがと! 大学生に絡まれて本当に恐かったから助かったよ!」


 席から立った二人は僕に頭を下げながらお礼を言った。


 ――大学生……………………あ!? 速大生に絡まれてた女の子!


 二人だったんだ……全く気が付かなかったよ。


「あ、うん。気にしないで。目の前で誰かが責められているのは気分良くないからね」


 3人は僕の言葉で暗い顔になってしまった。


 俯いていた雅が小声でブツブツ言っている。


「……どうすれば……取り返しの……最善……リセット……」


 雅はなにかを決意したかのように、顔を上げた。

 涙を必死に堪えている?


「……泣くなんて卑怯……絶対泣かない」


 なにか自分に言い聞かせているみたいだ。


 雅は突然立ち上がった。








「……あ、う、だ……ご…………ふぅ、大樹…………今まで…………ごめんなさい…………」


 雅の手は強く握りしめていた。

 力が強すぎて爪が食い込んでいる。

 うっすら血がにじみ出ていた。

 歯を食いしばり、僕の目を真っ直ぐ見ていた。


 安西さんと金子さんも再び立ち上がって、僕に謝ってきた。


「大樹くん、大変申し訳ありませんでした……」


「ほんとゴメン! すっごく反省してるよ!」


 3人は机に頭が着くくらいの勢いで頭を下げていた。



 ……僕は困惑してしまった。

 なんて言ったらいいかわからない。


 一先ず目立つから席に座らせた。


 みんな目が潤んでいるけど、泣いている娘はいない。


 少し落ち着いてから、僕は僕の素直な気持ちを喋り出した。


「……僕の事、嫌いだよね? 3人とも?」


 3人は口を挟まず僕の言葉を待っている。


「だって、いつも命令したり、暴言吐かれたり、無理やり運動させたり……挙句、奴隷君って呼ばれていたよ?」


 ……あ、奴隷君っていていたのは雅の周りの生徒だけだったか?


「正直、今でも君たちの顔を見るのがつらい。理不尽な言葉の暴力を思い出してしまう。……もう関わらないでほしいと思ってる」


 雅は般若の様な形相になって、僕に迫った。


「……大樹……本当にごめんなさい。……今は謝る事しかできない。……大樹が嫌だったら私たちは二度と関わらない。この場で大樹と話すのは最後にする」


 まだ手を強く握りしめている。


「だって……私たちが馬鹿だったから……ぐす……ずず……泣かないよ? 女が泣いたら卑怯だもん」


 雅は手を胸に持っていき、洋服がしわくちゃになるくらい握っていた。


「……私たちは後悔しているの。大樹に……素直に接する事が出来なかった事を、大樹のいじめを止められなかった事を……大樹の事が嫌いなはずなんてない! 私は大樹が大好きだからどうしていいかわからなかったのよ!」


「え!? 嫌われていたんじゃないんだ!?」



「小学校の頃から大好きよ! ついでにこの2人も大樹の事が好きだから照れ隠しでからかっていたのよ!」


「は、はい……申し訳ないです」

「う、うう……そうだよ」


 雅は続けた。


「私たちが大樹に言いたかった事は、今までの謝罪……どうやって償えばいいかわからないけど、絶対償う。……そして大樹が私たちを許さないんだったら、二度と近づかない……」


 ――ああ、この子たちは本当に僕に謝罪をしに来たんだ。てっきり、後ろから同級生が来て僕をいじめようとするのかと思ってたよ。







 僕は目を瞑った。


 3人がやった事ははざまに比べてそこまでひどいわけじゃない。

 雅はきつかったけどね。


 許す。

 許さない。


 ……僕は自分の心に従えばいいと思う。


 この夏休みで色々な人と出会った。

 人は大人になっても完璧じゃない。

 どんな優れた人間でもミスはする。


 ……桜に甘いって言われちゃうかな? でも、この娘たちは真剣に謝りに来た。自分のしてきた事を理解して反省してこれから変わろうとしている。






 なんだ、僕と一緒じゃないか?





 なら一緒に変わればいいと思う。




 僕は目を開けた。

 目の前の雅はどんな答えも受け入れるという表情をしている。

 久しぶりにちゃんと見る雅はやっぱり綺麗だね。

 もちろん桜が一番だけどね。



 僕はそんな雅を見ながらゆっくりと喋り始めた。





「……一から」



「一から友達になろっか?」





 雅たちは僕の言葉を認識できないでいた。

 どうやら絶対拒絶されると思っていたようだ。


 雅はおそるおそる僕に聞いてきた。


「へ……一から友達?」


「うん、そうだよ? だって人は変われるからね」


「ふ……ぇ……」


 雅は小刻みに震え出した。


 今までこらえていた涙が頬に伝った。


「あ、泣かないって……決めたのに……大樹に迷惑……」


「大丈夫。もう卑怯なんて思わないよ。好きに泣いていいよ」



 安西さんと金子さんが泣きながら雅に抱きついてきた。


「雅さん!」

「雅~!」


「う、うん、ぐすん……わぁぁぁぁ……ひぐっ、ひっぐ……だいき、が……ひっぐ……みこと……かねこ……うわぁぁん!!」





 周りの人に奇異の目で見られたけど、僕は存外気分が晴れやかだ。




 だって、学校で初めて友達が出来たかも知れない。




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