雨のち曇り編(6)
第6話「過去の話・後編」
知られたくない事を、こんなに早く周りの人に伝わってしまった。
特に友人には知られたくなかった少し前の話。
自分がそれだけ目立ってたってなると尚恥さえ思う。
だから僕は、走って逃げる事が精一杯であった。
今ここに穴があったらそこに潜りたい一心だ。
建 :「逃げんな!バカ野郎!」
建は物凄いスピードで僕を後ろから追いかけ、僕も
抵抗してスピードを上げるその光景はかなり目立っていた。
悠斗:「僕の事はほっといてくれよ」
走りながら僕は建に言葉をぶつけた。
建 :「困っているダチを放っておけるわけねぇだろ!」
そう言って僕に追いつき手をグッと掴んで、捕まえられたのだ。
お互い全力で走っていたから、かなり息が上がっていた。
悠斗:「だ、ダメ・・・・はぁはぁ・・死にそう・・
はぁはぁ・建足速いよ」
建 :「やっと捕まえた」
建は真剣な目つきをして僕を見た。
建 :「お前に昔何があったのかは、実際良く
分かんねぇけど・・・これだけは信用しろ」
そして親指を突き上げグッドのポーズを僕に向けたて
ニコっと笑った。
建 :「俺はダチを裏切ったりしねぇって事だ」
悠斗:「建・・・・本当にごめん。僕どうしたら
良いのか分からなくなって、咄嗟に逃げ出してしまって」
建 :「うん・・・でも、そうなるのは俺も良く分かるから」
僕はその言葉にムッとなり
悠斗:「良く分かる?建に分かる訳ないじゃん!」
建は眉をグッと真ん中に引き寄せた顔で
建 :「事情は分かんねぇよ、だけど・・こう行った騒動
になった経験は俺もあるから・・・だからパニくるのは
良く分かるっつーんだ。」
悠斗:「え?」
建が咄嗟にそんな話をするから、僕は少し黙って考えた。
建の過去・・・毎日元気いっぱいで笑顔振りまいてる奴なのに
何か嫌な過去が建にもあるのかなっと一瞬考えた。
建 :「取り敢えず、話してみろよ・・・少しは気も楽に
なるってもんだぜ。」
僕は諦めて静かにこくりと頷いた。
僕はポケットから実はずっとしまっていた写真を一枚
取り出した。
そこに写っているのは野球をしている少年で
僕に良く似た姿、いや、僕本人だったのだ。
とても笑顔でキラキラしていた一枚だった。
建 :「野球やってたのか?」
僕はまた、こくりと首を前後した。
偶々、床に落ちていた新聞部の記事の一枚を拾い、持っていた写真から
全く違った光景であった。
状況は明るく試合をして、勝利を勝ち取ったといった内容とは懸け離れた者で、
その姿はまるで何かに脅え悲しむ顔をした自分が映っていた。
記事に書き込まれていたのは
「天才野球小学生、突然試合放棄」
大きな字を見詰めて僕は語り始めた。
悠斗:「もう半年ぐらい前の話だよ」
建 :「天才少年っていうのは、悠斗の事か」
悠斗:「そうだよ、僕は稀にいないセンスを持ってるって監督から
期待されていたんだ。でも、僕にはその才能があるのか無いのかなんて
良く分かってなかった。僕はただ、楽しく野球をしたかっただけで、
只管追っかたかった・・・それだけなんだ。」
悠斗:「選手が磨き上げても中々手に入れる事ができない、見極めの能力
自分にその能力がある事に気付いたのは、だいぶ経ってからの話」
建 :「それで、いじめられてとか?」
僕は素直に答えた。
悠斗:「そうだよ・・・丁度この記事試合の時に、何人かが僕を悪く言ってた人が
いたのを偶々聞いてしまったんだ。」
別に聞く必要もない言葉でもあった、聞かなかったら何もなかったんだ。
悠斗:「僕がいなくなればいいのにって」
建 :「ひでぇな・・・」
悠斗:「だからマウンドを見たら、凄く強くなってしまったんだ。
誰も信用できなくなって、クラクラして」
悠斗:「だから、僕はそのまま逃げたんだよ」
悠斗:「はは・・・・。呆れたよね。たったそんなことで逃げるビビりだから。
この記事の通り、僕は試合放棄。失敗者って訳だよ。情けないよね・・・チームの
全員に迷惑かけて。結局チームは敗退僕のせいで負けたんだよ。」
苦笑いをしながら僕は全て撃ち話した。
建 :「でも、戻れる事は出来たはずだぞ」
悠斗:「だけど世間は、そんな風には見てくれてなかったよ。
いじめがあった事を僕達が本当の事を説明をしても、記者側はどんどん嘘の話、でっち上げて
面白く書き上げるんだ。だから最終的には僕はチームから外された。
今まで一生懸命チームとして頑張っても、一度欠落したらそれで終わりなんだよ。
世間はそんなに甘くないて、さらに記事が出回って、前にいた中学で皆んなが嘘の事象を
知ってるから、今度は皆んなが僕を咎めるようになったんだ。
学校の皆にも無視されて、見捨てられたんだ。」
悠斗:「野球なんて、・・・・今は大嫌いだ。」
悠斗は地面を見てたけるから目線を逸らした。
建 :「そっか・・・そんな事があったのか」
そう建は話してからしばらく沈黙が続いていた。
しかし、これから悠斗たちに一人の男が接近しようとしてる事は、
まだこの時気づいてなかったのだ。。