スローライフなのにチート使ったらスローテンポじゃないじゃん!
最近のチーレムスローライフに物申したくなったので書きました。
「…今、なんと?」
ニコニコしながらも目の奥は笑ってない気がする。
今俺の目の前にいるのは自称女神様。
なんでも俺の死亡は手違いだったとかなんとか。
まぁ、エロゲーやってて鼻血出しただけで失血死とかあり得ないからな。いくら俺が童貞でも。
だから、異世界テンプレ宜しく俺はチート付きで異世界に行ってもらうってことで。
でも、俺としてはハーレム勇者ライフなんていうハイスピードライフは望んでないわけで。
だって、前世は確かに居心地良い世界だったけど、やりたくもない仕事をこなしていつの間にか日々が過ぎるって言う無駄にハイスピードな社畜ライフだったんだぜ?
チートがあるだけでハイスピード確定じゃん。いらんいらん。スローテンポが良いの。たまにスローライフってタイトルで確かにチートもないけど、何故かハーレム作ってる話とかあるけど信じられん。複数の女の御機嫌取りなんてしたら過労死してまう。
だから、俺は望んだんだ。
「チートなんていらない。ハーレムも嫌だ。そんなことになったら女と世間を気にしながら、いつの間にか日々が過ぎていくなんて言うハイスピードライフになってしまう」
「でも、大抵の人が望む人生ですよ?」
「なら、俺は特殊な部類なんだろう」
何故かこの女神様は俺にハーレムを作らせようとする節がある。謎すぎる。天上界から俺を見下ろしてハーレム物を読むオタクのようにハァハァしたいのだろうか。キモ。
「はぁ…分かりました。私も最近の異世界ではやりの転生チーレムを見たかったんですが」
ビンゴかよ。
「それで、チートがいらないなら何を望むんですか?チート用のリソースを割いてたので大抵のことは実現できますが」
「嫁が一人欲しいな」
「…そこは他力本願なんですね」
だって女の子とのコミュニケーションなんて分からないし。本当にハーレム主人公のメンタル強すぎだろ。中にはコミュ障やらニートだったのにハーレム作ってる奴までいるし。絶対精神いじられてる。
「スローライフと言っても流石に一生ボッチのままだと狂う自信がある」
「分かりました…。貴方の好みのお嫁さんを創っておきましょう。他には?」
「開拓し易い土地。あと家と農具諸々の生活必需品」
「そんなの聖剣用リソースの10分の1にも満たないです。他には?」
「あ、嫁さんをNTRとかされたら俺自殺する自信がある」
「自己防衛能力は最大限まで上げておきましょう。他には?」
「えぇ…もういいよ…」
「では残りを貴方の肉体改造に使いましょう。生涯健康でそこそこの強さであればチートでもなく、野生生物に対抗できる程度の能力は必要でしょう?」
「あーそうだな。あと農業のちょっとした知識が欲しい」
「分かりました。残りのリソースで種族が選べますが」
「キャラクリしてる気分だな…やっぱり長く若い人生を送りたいな」
「であればエルフですね。森に囲まれた中で農業するのであれば他者から見ても違和感がないでしょう」
「じゃあそれで。あ、嫁も…」
「貴方の種族に合わせておきますよ」
「ありがとう」
「いいえ、それでは良い人生を」
目の前に浮かぶのは広大な土地、そして森の中にポツンとある一軒家。俺の家だと分かっててもノックから入ってしまうのは最早現代病と言えるのではないか。
誰の返事も無いことを期待していたのに、俺の家は俺を裏切った。
「はーい」
新築なのだから当たり前だが、軋む音はない。少しだけ蝶番が擦れる程度で、スムーズにドアが開く。
「…」
なんとそこには俺好みの美女がいた。外見は皆の好みの外見を思い浮かべればいい。俺の語彙じゃ伝わらない。それくらいのドストライク。
「あっ!旦那様お帰りなさい!」
そういって両手をガバっと広げて『さぁこい!』と言わんばかりの受け入れ態勢。俺はその腕の中に彼女をしまい、彼女も俺をしまい込んだ。
「おお…俺の嫁」
馬鹿みたいなことを呟いてしまった。呆れただろうか。
「はーい、貴方のお嫁さんですよー」
そんなことを言いながら嬉しそうに俺の頭をなでくりする嫁。可愛い。好き。愛してる。荒んだ俺の心が浄化されていく。何だこの生物。嫁の為には何でも出来る、そう本気で思えた。
「取り合えず女神様から頂いた食材でご飯作ってあるから、食べちゃいましょー」
「うん」
幼児退行したかのようだ。俺はここまで甘えただったのか。見知らぬ自分に驚いた。
食事を済ませて嫁としばしイチャイチャする。しかしこのままだと完全にダメな男になりそうだったので、名残惜しくもその温もりから遠ざかり、早速開拓を始めることにする。嫁の為に好い男になろうという思いから動き始めた。愛する人がいるというのはここまで人を変えるのか。少しだけ物語の主人公の強さに納得した。
ここでチートが入ると無駄にスパスパ木を伐採して、畑が秒で出来上がって、収穫が3日後なんて言う事になるが、そんな救世主じみたことは必要ない。食材は女神さまの粋な計らいで1年分はある。腐らないかとも思ったがそこは少しだけご都合主義でおなしゃす。要するに時間停止的な何か。
要するに焦る必要はどこにもない。のんびりと開拓をしながら、嫁が探してきてくれた種を畑に植える。
いじられた肉体はチートではないとはいえ結構なもので、1月で小さいながらも畑と言える物は出来上がった。
「芽が出るのが楽しみですねー」
「そうだな」
のんびりと、このスローテンポな雰囲気を楽しんでくれる嫁。この子が居なかったらきっと俺は今頃スローライフを放り出して街へと移り住んでいたかもしれない。そこに待っているのは結局社畜ハイスピードライフ。嫁がいてくれて本当によかった。
畑から芽が出て喜び、無事にすくすく成長していく様を見て抱き合い、そして収穫の時期になった。
「うぅぅー」
「やったな」
嫁とうれし泣きしながら、これまでの苦労が報われる瞬間を分かち合う。やはり農業は素晴らしい。前世での『いただきます』の本当の意味が分かった気がした。
「ひっひっふー」
「頑張れ…頑張れ!」
嫁と出会って5年。俺達はついに自分たちの子供と対面する日が来た。
街から産婆さんを連れてきて、俺は隣で応援するしか出来ないのがあまりにも心苦しい。こんなにも嫁は苦しみながら新しい命を生み出そうとしているのに、俺はその苦しみを知ることが出来ない。それでも嫁は俺達の子供を懸命に生み出そうとしている。その手を握り、さすりながら、まだかまだかとその瞬間を待ち望む。
そして。
誕生した喜びを精一杯の鳴き声で表現する赤ん坊が生まれた。
「頑張ったね…ありがとう…!」
自然とそんな言葉が出てくる。産婆が赤子の対処をする横で、俺は涙ながらに嫁を労う。
「旦那様に手を握ってもらって、応援してくれたからね…ありがとうー」
とてつもない疲労を隠すことも出来ない笑顔を見せながら、それでも嫁は俺にありがとうと言ってくれる。子供が可愛いのもさることながら、やはり俺が世界で一番好きなのは嫁なのだと再認識する。
あぁ、世界はこんなにも美しい。
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