第5話 第一異世界人(に)発見(される)
『ガンマとのリンク切断!』
『全目標ロスト!』
「何があったの!?」
管制室に管制官達の怒声が響き渡る。
ガンマ・アースへの転送は順調に進んでいるはずだった。
計画では最初に護衛の汎用歩兵を3体と、支援型飛行機械1機、メディカルAMを任務用にカスタムしたサポートAM、サクラコを転送し、転送地点の安全を確保してから、パッケージされた装備品、最後にニイロ本人という手順だ。
「今回のリンクはまだ後一時間以上余裕があったはずよ! 何か事前の兆候は観測されてなかったの!?」
今転送作戦の責任者であり、シンシア・マッキントッシュの直属の上司でもあるアデル・オーティスが、眉間に皺を寄せて必死に状況の把握に努めている。
小柄で身長は150センチほど、ややくすんで緩いウェーブの掛かった金髪は短く切り揃えられ、に瞳の色はブルー、年齢は50歳半ばといったところか。
『事前の兆候は全く見当たりませんでした。完全にいきなりの出来事で、まだ原因も分か『ガンマとのリンク復旧しました!』』
(突然切れたと思ったら、また突然繋がる……何なの! こんなこと一度も)
アデルは心の中では状況を呪いつつも、状況の確認を優先させる。
「Mr.ニイロの反応は!? サクラコとポーン達とのリンケージも再度チェック! ヒラヤマ先生に連絡、意見が聞きたいと伝えて。アルファにも連絡して、協力を要請。向こうでモニター出来てたか確認して!」
矢継ぎ早に指示が飛ぶ。今は大事なのは〝何故こうなったか〟 ではなく〝これからどうするか〟 だ。
『サクラコとポーン、クインの再リンケージを確認。オールグリーン!』管制官が答える。
「サクラコ聞こえる? オーティスです! そちらの状況を報告して!」
『え? こちらは何も異常ありません。装備パッケージも無事到着して、今、チェックを行っています。周囲の警戒はファージとクラブ達が引き続き続行中で、ニーロの到着を待っています……何かあったんですか?』
アデルの切羽詰まったような問いに、やや驚いたようにサクラコが返事をする。彼女の方では一切、異常を感知出来ていなかったようだ。
「さっき、一時的にガンマとこちらの接続が切れたの。Mr.ニイロの転送直後で、彼の反応もロスト。今探してるわ」
『それは……』サクラコの息を呑むような雰囲気が伝わってくる。
(ほんと、人間と一緒よね)
アデルの内心には、やや場違いな感想だとは思いつつも、サクラコの人間と全く同じような反応に、感嘆とも呆れとも取れる感想が浮かぶ。
「大丈夫、必ず見つけるわ。今、そっちにいる動ける探査機も全部動かして捜索するから。早くしないと、あなた達も動けなくなっちゃうものね。兎に角、今は装備のチェックを続けて。終わったら周囲を警戒しつつ待機よ。」
『……了解しました』
そう、サクラコやポーン、クインの動力は電気であって、内臓のバッテリーから供給されており、当然、バッテリーが切れれば動けなくなる。
バッテリーの交換作業については、色々な意味での安全面からAM同士での作業は禁止されており、必ず人間の手を介して行われなければならないという規則になっているのだ。これは完全自律型であるサクラコであっても例外ではない。
更に転送されたばかりの今の状況では、転送に伴う衝撃等による事故を避ける為、バッテリーの残量は数日の活動で消費してしまう程度の量に制限されており、ニイロと接触できなければ早々に活動停止に追い込まれることが確定している。
また、武装についても同様で、サクラコこそ腰部のベルトに取り付けられたポーチに小型のオートマチック拳銃を一丁持っているものの、ポーンについては固定装備の圧縮空気で打ち出されるランチャーに、総弾数5発のワイヤレス・スタンガンユニットを装備しているだけであり、クインに至っては完全に非武装状態だ。
一応、事前に周囲の安全を確認した上で送り出されてはいるが、万一の場合は自壊覚悟の格闘戦でニイロの安全を確保することになっている。
「付近にいて動かせる探査機は何機いる?」
『……1機だけです』
「今はそれでも有り難いわ。転送予定ポイントから5キロづつ円周状に区切ってニイロの反応を拾って」
ニイロの体内に外科的に埋め込まれたチップから出る信号の到達距離は約二キロ。そこでエリアを五キロ幅のドーナツ状に区切りながら捜索範囲を広げていく。
『到着予定地点から半径5キロのスイープ完了。反応無し』
『了解。到着予定地点から半径10キロのスイープ開始します』
『到着予定地点から半径10キロのスイープ完了。駄目です、反応無し』
淡々と無情な結果が読み上げられる。
芳しくない状況に内心苛立ちながらも、アデルとしては立場上苛立ちを周囲に見せる訳にはいかない。
そんな中、ふと自分を見つめる目に気づいた。
「シンシア……」
彼女はずっと此処にいた。ニイロの担当オペレーターとして。
本当は泣き叫びたい。誰彼なく取りすがって助けを求めたい。
しかし、それをしても事態が改善することは絶対に無いし、むしろ妨げになると理解しているから、ただ黙ってアデルを見つめていた。
彼女の顔面は蒼白で、目に涙を溜めてギュッと両の拳を握りしめ震えている。
そんなシンシアに気づき、アデルは一瞬、『大丈夫』と声を掛けようとしたが止めた。
彼女の気持ちは知っている。あのドラゴン襲来で両親と兄夫婦と甥を一気に目の前で亡くし、決意を胸にベータ・アースへやって来た彼女は、ニイロに兄の面影を見ていた。
そしてそのニイロを、また目の前で失ったかも知れないのだ。安易に大丈夫などと、誰が言えよう。
本来であれば、彼女の仕事は転送後のニイロのサポート業務であって、今回の転送作戦について彼女の居場所は無いはずだった。
しかし、それを勘案しても彼女の同席を許可して見送らせることで、その後の業務の発奮材料にでもなれば、と温情を掛けたのが裏目に出た形だ。
『到着予定地点から半径20キロのスイープ完了。反応ありません』
『了解。到着予定地点から半径25キロのスイープ開始』
絶望が濃くなっていく。
捜索範囲が広がるにつれ、報告の上がる間隔も長くなり、沈黙と微かな機械音だけが支配する時間が延びる。
当初の転送座標から、あまりにも遠すぎる。
これでは仮に転送が成功していたとしても、転送エネルギーの総量とのバランスからして、発見されるのはニイロの体の一部だけという可能性すらある。現実的にこれ以上の範囲に飛ばされたとは考え難い。
アデルとしても、延々とこのまま見込み無く、感情で捜索を続けさせる訳にはいかない。どこかで決断しなければならず、その時はすぐそこまで迫っていた。
『到着予定地点から半径25キロのスイープ完了……反応無し』
『了解。到着予定地点から半径30キロのスイープ開始』
(ダメか……)
アデルはチラリとシンシアを見る。
その目は真っ赤で涙を溜めているが、表情は変わりなく、ただ必死にアデルを見つめている
『……30キロで捜索を打ち切る! ……これ以上は……無駄よ。 ……シンシア、すまない』
最後は呟くようにシンシアへの謝罪を口にする。と、その時、オペレーターの歓喜の絶叫が響いた。
『Mr.ニイロの反応ゲット! 捉えました!! 転送予定地点から南西約28キロ、信じられない! 街道らしきものの脇です! 生体反応オールグリーン! 無事ですちゃんと生きてます!!』
管制室に歓喜の輪が渦巻いた。
◇ ◇ ◇
ガタゴトガラガラと揺れる感覚と音、それに何やら話している男の声が、ニイロの意識を覚醒させる。
と、同時に現在自分の置かれている状況に思いが至ってハッとするが、そのままの状態で周囲の様子を窺うだけの余裕は残っていた。
どうやら今、ニイロは屋根の無い馬車の荷台に、粗末な毛布に包まれた状態で他の荷物と一緒に寝かされており、御者台に一人の男の後ろ姿が見える。
さらに、寝ている状態のニイロからはやや死角になり、座った状態で投げ出したブーツを履いた足だけが見える位置に、恐らく男が一人がいるようだった。
話し声は、御者をしている男と荷台に座る男の会話で、近くの街で用事を済ませたこと、現在は自分たちの村に戻る途中で、何事も無ければ暗くなるまでには余裕で着くだろうことがわかった。
内容に剣呑なところも無く、取り敢えずは危険が無さそうな事が確認できたこと、さらに、ニイロが身に着けた現地語の知識が十分に通用することが確認できたのは良い傾向だ。
そして、次にニイロ自身の状態だが、毛布に包まれてはいるものの、その下は転送時の全裸のまま、というのはサクラコ達との接触が上手くいっていないということであり、最悪だ。
現在、文字通り裸一貫で異世界に放り込まれた状態ということなのだから。
(まーいったなァ、こりゃあ……)
ニイロとしてはいきなりファーストミッションで躓いた形だが、まず第一に行うべきがサクラコ達とのコンタクトであることは変わっていない。
幸い、順番的に最後の転送だったお陰で、サクラコ達が無事に先着していることもわかっている。
後はニイロの到着したポイントが、先行したサクラコ達とどれだけの距離離れているかだが、ニイロの転送時にトラブルがあったのは間違い無いにしても、こうして転送自体は成功している以上、ポイントのズレはそこまで大きくない〝はず〟で、こうしていれば直にサクラコ達の方が接触してくる〝はず〟であった。
……そう考えてから、既に30分ほど経過したが、一向に接触の気配は無い。
それもそのはずで、ニイロの計算では目覚めた時の太陽の位置から、気を失っていたのはせいぜい1~2時間程度、転送ポイントのズレは最大でも直線距離で2~3キロ程度と見積もっていたのだが、実際には30キロ近い距離があることまでは気づいていなかったのだ。
そうなって来ると、今度は不安が首を擡げてくる。
(サクラコ達の方でも何かトラブルがあったのか? だとすればベータの方から何か動きがあると思うんだが…… こういう時に連絡手段が無いのはキツい…… 要改善だな)
一応、こういった非常事態についても想定はしていたが、このパターンだとベータから追加の人員…… は、無理なので、追加のサポートAMが転送される手筈にはなっているものの、今のところその気配も無い。
(こうなると、この第一村人達とのファーストコンタクトを無事に済ませておくか…… 危険は無さそうだし…… あ、もしかして……)
一つの可能性に思い当って、ニイロは行動することにした。
同行者に余計な疑念は与えないよう、さも今気が付いた風を装ってゆっくりと体を起こす。
すると、それに気づいた荷台の男が声を掛けてきた。
「おっ、お目覚めかい?」
野太いダミ声に、ニイロは改めて荷台に座る男を見て、演技ではなく本気でギクリと体を強張らせる。
今まで体勢のせいで足先しか見えていなかった為、会話の様子から普通の村人くらいにしか思っていなかったのだが、実際に見ると普通の村人どころか、人間ですらなかったからだ。
「おー……く?」 思わず声が漏れる。
「いやいや、あんな下等な連中と一緒にせんでくれ。お前達人族も、猿人族共と一緒にされたら気持ちいいもんじゃねえだろ?
これでもれっきとした誇り高き北方のハイ・オークの一族、傭兵をしている。リュドーのダグだ。ダグでいいよ。
そんで、そっちにいるのが、カジユ村のトビンな」
そう言って男(?)は(多分)フレンドリーに話し掛けて来た。
紹介された御者台にいる男の方は普通の人間で、口髭を生やした人の好さそうな年配の男は、ちらりと振り返って笑顔を見せると、ペコリと頭を下げてから、再び前を見て手綱を操っている。
言われてみればダグと名乗るハイ・オークは、確かにイメージにあるオークとは違う。オークのイメージは、鈍器を振り回す頭の悪い半裸で二足歩行の豚、というのが一般的だと思うが、目の前のそれは頭に焦げ茶色の鬣を生やし下顎から覗く牙が目立つ。古いがきちんと手入れのされた皮鎧を着こんだ二足歩行の精悍な猪人といった感じだ。何より目に知性を感じる。
「あ、ああ、すまん、気を悪くしたなら謝るよ。見慣れてないもんで…… ていうか、いるんだ、猿人族…… あと、良かったら状況を説明してもらえると有難い」
謝るべき時は素直に謝るべきだ。ニイロは素直に頭を下げた。
「おうおう。まあ、たまにあるんでな、気にしちゃいねえが、謝罪は受け取ったよ。そんで、説明って言っても簡単だ。
俺達が偶々この街道を通ってたら、お前さんが道の横に素っ裸で倒れてるのを見つけた。見つけちまったもんはしょうがねえから拾って、ここまで運んだ。そんだけだ。
死んでたんなら放っておくが、生きてたんなら助けにゃあ、後味悪いだろ?」
ダグはそう言って豪快にガハガハと笑って見せた。
「それにしても、追剥にでも遭ったのか? 普通、下着までは取られねえもんだが、命があっただけめっけもんだわな。見れば何も持ってないことくらいわかってるし、別に見返りが欲しくて拾ったわけでもねえ。単なる気紛れだから礼なんていらねえよう」
ぶっきらぼうな口調だが、この猪人の人柄(猪柄?)は見た目によらず善良と言って良さそうだった。
ガンマ・アースに対して、もっと殺伐とした世界を想像していたニイロとしては、ちょっと衝撃的な出会いだ。
「ありがとう。ちょっと事情があってこんな様だが、後でちゃんと礼はするよ」
ニイロは改めて頭を下げて礼を言いう。
「俺はニイロ・カオル。ニイロが姓でカオルが名だ。俺の国では姓で呼び合うことが一般的なんで、ニイロと呼んでもらえると嬉しい」
ニイロが名乗ると、何故か空気が一変した。
「ちょっ、貴族様かよ……」
ダグが顔を顰めて呻く様に呟く。御者台のコビンも、名前を聞いた途端に身を硬くしたのがわかった。
「えっ? いや、貴族なんかじゃないよ。普通の平民だ」
「しかし、苗字持ちって言ったら普通は貴族様では……?」
ダグの口調が微妙に変わっている。トビンは前を向いたままだが、全神経がニイロの言動に注がれているのがわかる。
「いやいや、この辺じゃそれが常識なのかも知れないが、俺のいた国じゃ農民だろうが商人だろうが、皆苗字は持ってるんだよ。俺も先祖代々、由緒正しい普通の平民さ」
ダグ達を安心させるように、最後は少しふざけた様子で笑いながら誤解を解いておく。せっかく良好な関係を築けそうな相手との間に、変な垣根は必要無い。
「そうかい、なら良かったぜ。貴族様なんて関わり合いになって得することなんざ、これっぽっちもありゃしねえからなあ」
どうやら誤解は解けたようで、ダグの口調は元に戻っているし、トビンの後ろ姿からも緊張が解けているように見えた。
(それにしても、この国の貴族って随分と嫌われてるっぽいな。ていうか、いるんだ貴族……)
ニイロとしては、もし、今後貴族と接触する機会があるならば要注意だな、と心のメモに書き留めておく。
そして、こうしてダグ達との一応の友好関係を築けた以上、行動に出る前に一つ思い当っていた可能性を確認することにした。
「トビンさん、時間は取らせないから、ちょっとだけ馬車を止めてもらっていいかな?」
御者台のトビンに声を掛ける。
「えっ? 少しくらいならいいけど、小用かい?」
突然声を掛けられたトビンは、少し驚きながらも手綱を操って馬車を止めてくれた。
「いや、実は、俺の部下というか、仲間というか…… うん、そんな感じのやつを呼べるかどうか確かめたいんだ。
ちょっとトラブルで逸れちゃったんだけど、もしかしたら二人を驚かせたくなくて隠れてるかも知れないと思ってね。
驚かせるかも知れないけど、二人に危険が無いことは保証するから安心してくれ」
そう言ってニイロは周囲を見渡した。
特に視界を塞ぐような物も無く、街道は右手奥にに森、左には草原というロケーションの中を、森の縁に沿うように緩く右にカーブしながら続いている。
「呼ぶ? 召喚魔法ってやつがあるとは聞いたことがあるが……」
ダグは不思議そうに首を捻っている。彼からすれば、会話をしながらでも周囲の警戒は怠ってないつもりだ。
これまでの経験に基づいて言えば、周囲に人や大型動物の気配は無い。
(さーて、俺の考えが正しいならば…… でも、ハズレてたらけっこう恥ずかしいぞ、コレ)
ニイロの目にもサクラコ達の姿はやはり見えない。が、行動しなければ確認も出来ない。
「クラブ・ワン、ステルスモード解除」
やや緊張した面持ちで、コマンドを声に出す。大声は必要無い。目論見通りなら、クラブ・ワンのセンサーはニイロの声を拾える距離にいるはずだ。
実際、ニイロがコマンドを口にするのと同時に、ブーンというローターの発する音が聞こえた。
音のする方を見ると、ニイロ達のいる場所から10mほどの距離、高度約30mの、何も無かった空中に、支援型飛行機械が、まるで魔法のようにその姿を現す。
「なっ!? 召喚魔法か!」
「やっぱりいたか……」
思いもよらぬ位置に突然現れた、薄いグレーの異形に、思わず得物のハルバートを構えて警戒するダグを手で制して、ニイロは少しホッとした口調で呟く。
(十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない、だっけか? ダグの反応を見たら、頷けるねえ。アジモフ博士だったっけ……)
そんな関係のないことを考えられるくらいには、余裕が出てきたようだ。ただし、アジモフ博士ではなく、クラークが正解だが。
最初は考えうる双方の距離的にも、待っていればサクラコ達が接触してくるのに時間は掛からないと思っていた。
しかし、一向にその気配が無いことから、考えられる可能性として、1、サクラコ達もトラブルで動けない 2、予想以上に距離があって遅れている 3、実は来ているが、現地人が傍にいる為に接触を控えている この三つが考えられた。
この内、1か2だった場合については、例え1が正解であっても、アルファ及びベータからの追加の支援は必ずあると考えられるので、どちらにせよ時間が解決するはずだ。
そして、3が正解だった場合、ニイロの方から行動を起こせば反応があるはずだと考えたのだ。
最初にクラブ・ワンを選んだのは、この土地のロケーション的に、最も近くにいそうなのが、いれば上空にいるであろうクラブ・ワンだったから。
「よーし、それじゃあ、次。 ……サクラコ達はいるか? いたらステルスモード解除して、こちらに来てくれ」
そう言って周囲を見渡すが、サクラコ達が現れる様子は無かった。
代わりに、ローターの巻き起こす風で周囲の土埃を舞い上げても影響の少ない位置で、上空から降りて来たクラブ・ワンが、「ブッ、ブー」とブザー音を鳴らして否定してきた。
元が探査機だったクラブ・ワンには、元が医療用AMだったサクラコのような会話機能は無く、代わりに電子音で簡単な意思表示を行うようになっている。
「近くにはいないのか……向こうもトラブルがあったのか?」
「ブー」
「無事か。なら良かった。向こうと連絡はつくか?」
「ピンポーン!」
「そうか、この音声は向こうも拾ってる?」
「ピンポーン!」
「じゃあ、向こうの音声を中継できるか?」
「ピッ」
「サクラコ、聞こえるか? そちらの状況は?」
クラブ・ワンを通信機代わりにして、サクラコ達との連絡を試みると、クラブ・ワンに搭載されたスピーカーから、サクラコの焦ったような日本語が聞こえて来た。
『ニーロ! ニーロ! 無事ですか!?』
その、あまりに人間味豊かな反応と声に、思わず苦笑しながら、ニイロは現地語で答える。
「ああ、こっちは無事だよ。無事序でに現地の人達との友好的な接触にも成功したし、そちらの状況を教えてくれ」
『……では、このニーロの傍の反応2つは心配いらないのですね? ……流石はニーロです……こちらは現在、ニーロのいる場所から北に見える森を西に迂回して向かっています。
装備コンテナも運んでますので、森を突っ切るのは難しかったものですから……。それでも、あと30分ほどで追いつけると思います』
最初、やや間があったが、察したのであろうサクラコも現地語で答えてきた。
「そうか、それでいいよ。何が流石かわからないけど、こちらは心配無い。しかし、随分と離れてたんだな……。まあ、そっちも無事ならいい。こちらは馬車で同行者と一緒に進むから、とにかく安全第一で合流してくれ」
『わかりました。では後ほど』
ようやくサクラコ達とコンタクトが取れたし、状況も把握できた。
ニイロは通信を打ち切ると、未だに固まって動かないダグとトビンに向かって言った。
「お待たせ。んじゃ行こうか」