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第30話 ヨーネス大森林

 ヨーネス大森林は、リドリスファーレ王国の西側、バネストリア帝国との間を隔てる緩衝地帯となっている。

 その大きさは最も広い所で南北に約1000km、東西に約500km。面積にすれば日本列島よりも広い。

 その植生は緯度的に高緯度から中緯度地域に(またが)る位置にある為、場所にもよるが、イメージ的には南米や東南アジアの密林(ジャングル)ではなく、ブナやカシノキの生い茂るヨーロッパの森林や、シベリアの針葉樹の森を思い浮かべると近いかも知れない。

 地形は起伏に富んでおり、最も高い部分と低い部分の標高差は1000m以上にもなっていて、その点からすると、富士の樹海や大台ケ原などの原生林に似た部分もある。


 ヨーネス大森林の東、リドリスファーレ王国に面した地域は、その距離の長さから複数の王国貴族が統治する領地となっており、その内の一つ、タイネンザール侯爵領から徒歩で5日ほどヨーネス大森林に踏み入った場所にニイロの姿があった。


「あ、2匹そっち行ったぞ!」


 トラッドC60自動小銃を油断なく前方に向けて構えながら、右手の方に向けて鋭く警告を発する。

 その声に応えて、ニイロの右側、10mほど離れた立木の陰から焦げ茶色の塊が飛び出した。


「やーっとかよっ! そりゃっ!!」


 焦げ茶色の塊――ハイ・オークの傭兵ダグが、短く持った得物のハルバートを横薙ぎに一閃させて、飛び掛ってきた小鬼(ゴブリン)1匹の胴体を一刀の元に両断し、そのまま体ごとクルリと回転すると、今度は下段から跳ね上げる要領で飛び掛ってきた2匹目の小鬼(ゴブリン)を下腹部から頭部にかけて縦に切り裂いた。

 死人のような青黒い肌と、痩せた手足、ぽっこりと突き出た腹が特徴の小鬼(ゴブリン)の姿は、ニイロの感覚からするとファンタジー物に出てくる『ゴブリン』と言うよりも、どちらかと言うと仏教の地獄を描いた昔の絵草子に出てくる『餓鬼』に近い。

 ただ、この辺は現地語の小鬼を意味する『プレッタ』という単語の発音に、『ゴブリン』を当てた翻訳の問題でもあるので、あまり細かく気にするのは止めた。

 そういえば、ニイロが初めて出会ったアルファ・アース人であるバレットの知人が、アルファ・アースに現れたゴブリンの被害に会ったと言っていたのを思い出す程度だ。

 デンゼル・ワシントン似の黒人男の顔を思い出し、少し懐かしく感じる。


「取りあえず、今ので近くにいるのは終わりだな」


 最後まで残った一匹に銃弾を叩き込んで片付け、ニイロが上空のクラブから送られて来るデータで確認してから、そう宣言する。

 それを合図に、ニイロの左右で警戒していたコズノーとダグ、後方の警戒に当っていたタイネンザール侯爵領軍の兵士、フランドがニイロの元に集まってきた。


 フランドはニイロがヨーネス大森林へ侵入するに当り、そのお目付け役として同道している年配の老兵士だ。

 タイネンザール侯爵自身は現在王都詰めということで、タイネンザール領の領都テラスボンに挨拶に寄った際に会った留守居の重臣から、『(ついで)で良いので』ということで、ヨーネス大森林内の害獣の間引きを依頼され、その検証役として領軍の中から退役間近のフランドが同行する運びとなった。


「23、24・・・・・・これで小鬼(ゴブリン)が合わせて120と2匹目ですな」


 フランドが成果を記した帳面を懐に収めながら、やや呆れたような口調で言う。

 ファンタジー物であれば、討伐の証として耳などの屍体の一部を切り取って持ち帰る場面なのだろうが、行き帰りに何日も掛かる道程でそんなものを抱えていては荷物になるし、途中で腐ってしまって悪臭を放ち、堪ったのもじゃない。

 もちろん、本当に貴重な素材となるなら、荷物になろうとそれなりの防腐処理をして持ち帰るが、小鬼(ゴブリン)では何の価値も無い。

 そこで、間引きを依頼したタイネンザール侯爵の領軍から同行したフランドが、成果を確認して記録する役目を負っている。

 ベータ・アースで言えば、戦場で武士の戦果を確認する役目である軍目付(いくさめつけ)軍監(ぐんかん)のようなものだが、あくまでも(ついで)の依頼ということで、準貴族でもある騎士ではなく、平民扱いの兵士であるフランドが同行することになった。


「もう少し奥に開けた土地があるみたいだから、そこまで行ったら休憩にしよう」


 クラブから送られて来るデータで地形を確認しつつ、皆に提案する。

 同行者達からは特に異論もなく、そこらじゅうに散らばる小鬼(ゴブリン)の死骸を全員で手分けして始末し終えると、ダグを先頭にニイロ、フランド、コズノーの順で黙々と先に進むこととなった。


 今回、ニイロには一つ目的があってこの地にやって来ている。

 それは、ニイロがガンマ・アースにやって来る以前に複数送り込まれた調査用の探査機(プローブ)の回収だ。

 それらの探査機(プローブ)は、様々なデータの収集を行った後、バッテリーの消耗によって行動不能になる前に、いくつかの人跡未踏と思われるポイントで休止(スリープ)状態となって回収されるのを待っていた。

 その内の一ヶ所が、現在向かっているヨーネス大森林の奥地にある。


 元々、ニイロが使役するクラブ達は、探査機(プローブ)から探査に関する機能を大幅に削除(オミット)して汎用に改造したものであり、大部分が共通のコンポーネントを使用していることから、回収した探査機(プローブ)の部品をクラブの補修部品として再利用することができる。

 特に、人間の居住地域近くに派遣された探査機(プローブ)には、より接近しての調査の為に、昆虫型の超小型情報収集ユニット、通称ピーピング・ビートルが搭載されているものがあり、今回、ニイロが回収に向かっている探査機(プローブ)にも、それが搭載されていた。

 目立たずに音声と映像を拾えるピーピング・ビートルがあれば、帝国に潜入しての調査にも役立つだろう。

 残念ながら、あくまで学術探査用の探査機(プローブ)本体にはクラブのような戦闘に対応したAIが搭載されていない為、航空戦力の増強とはいかないが、ピーピング・ビートルのユニットだけクラブに移植して使うことも出来る。少なくとも情報収集力がアップすることは間違いない。


 実は、まだサクラコがフィーゼの看護でドマイセンから動けない為、具体的な行動を起こせず暇を持て余したニイロが、この目的の為にヨーネス大森林に向かうことを、『黙って行くのも何だし・・・・・・』と、あまり深く考えずに軽くダスターツ伯爵に断りを入れたところ、サクラコも連れずに単身出掛けるというニイロに、護衛の騎士団を付けると伯爵が言い張って揉める一幕があった。

 ニイロとしては護衛ならファージもクラブもいるし、ちょっと行って片付けてくるという感覚だったのだが、伯爵からすればニイロの身柄は王国のみならず、共同で鉱山の浄化設備建設推進を行っているビンガインやドマイセンにとっても重要なものであり、ここでニイロの単独行動を許して万が一の事態が起これば、その責任はダスターツ伯爵個人だけでは済まされない。

 どうしても保険を掛けておきたいダスターツ伯爵と、騎士団をぞろぞろ引き連れての行動など勘弁してもらいたいニイロが、互いに妥協点を探って話し合った結果、ヨーネス大森林に詳しい傭兵を道案内兼護衛として同行させるということで妥協することになり、折りしもノレーゲン山脈方面への斥候業務を終えたダグとコズノーに白羽の矢が立った次第である。

 ダグに言わせれば「あいつに護衛って必要か?」といった具合だったが、領内における活動実績から伯爵の信頼も有り、ニイロとしても見知った顔の方がやりやすいので妥協しやすかったのだ。

 ちなみに、紅一点のニーアーレイは、なんでも実家から緊急の呼び出しが掛かったとかで今回は不参加となっている。


 獣道に沿って、木々の下生えをニイロから借りたマチェットで、ダグが先頭になってパワフルに払いながら進んでいく。

 その後姿を見ると、ニイロも彼等を雇ったのは正解だったと思えてくる。

 もし1人だったら、ここまで行軍速度は稼げなかっただろう。ファージに先行させることは出来たが、足場が不安定なこともあって、速度的にはここまでスムースに進めたか、やや疑問だ。

 ヨーネス大森林内での注意事項や、遭遇(エンカウント)する害獣の特性、始末した害獣の死骸処理の知恵など、アドバイスも的確で助かっている。


 やがて一行は休憩地点と目算した、すこし開けた空き地(とは言っても他より木々の密度が低い程度の違いだが)へと到着した。

 さすがに5日目ともなると全員慣れたもので、見張りを上空のクラブに任せ、暗黙の内に手分けして下生えを払ったり、邪魔な木を切ったり抜いたりして全員がゆったり座れるだけのスペースを確保する。


「ここからだと、目的地までは後3時間ってとこだし、少し早いけど昼飯にして、残りを一気に詰めようと思うんだけど、それでもいいか?」


 ニイロが確認を取ると、めいめいに了解の返事があったので、大型用亜空間ポーチから、キャンプ用の簡易テーブルセットを取り出して手早く組み立てた。

 コルエバンでも使った、ホームセンターなどでも買える御馴染みのやつだ。今回の行程でも既に何度か使用している。

 同様にカセットコンロやプラスチック製の食器など、必要な物も取り出して昼食の準備を進める。


 今回のメニューはパック入り白飯にレトルトの中華丼と親子丼を各1食づつ、合計2人前。

 なにしろ朝からずっと行軍と戦闘の繰り返しで、1食分だけでは量的に少々物足りないのだ。

 コンロ2つに大き目の鍋で湯煎して温める。電子レンジが欲しいが無いものは仕方が無い。

 食器には洗う手間を省く為にラップを張り、温めた白飯を盛ってレトルトの具をかければ出来上がり。湯煎に使ったお湯は捨てずに飲み物に流用する。

 衛生がどうのと、そんなことを気にするような野郎(おとこ)はここにはいない。

 付け合せは秋刀魚の蒲焼とポテトサラダの缶詰、デザートはナッツとドライフルーツ入りのヌガーバーとパック入りフルーツゼリー、飲み物は粉末のインスタントコーヒーと、同じく粉末の炭酸オレンジジュースである。

 亜空間ポーチという大量に物資を運べるチートな手段はあるものの、時間の経過による生鮮品の劣化は防げない。

 よって、内容は長期保存の利く軍用の携帯口糧(レーション)に近いものになってしまうのは仕方が無いことだった。

 それでも味は悪く無いし、ダグ達ガンマ・アースの住人からすれば初めて口にするものも多く、基本的に評判は良い。

 もちろん、個人によって好みの差はあるので、異世界物にありがちな日本産だから絶賛されるということは無く、例えばダグなどは日本人の国民食カレーライスは苦手で、その代わり日本人には馴染みの薄いチリコンカーン(チリビーンズとも言う、西部劇などでカウボーイが食べてる豆料理)が気に入ったらしい。

 また、コズノーには日本茶が、『枯草の煮汁飲んでるみたいだ』と不評だったが、インスタントコーヒーは大いに気に入ったそうで、今回の報酬に現物を1ケース(紙コップ付き10食入り1パックが6個入って60食分だ)追加することを約束させられた。


「もう少しで折り返しか。フランドさんよ、けっこう間引いたと思うが、今んとこの成果はどれくらいだ?」


 ダグが缶詰のポテトサラダをフォークでパクつきながらフランドに聞く。

 一口ごとになぜか顔を(しか)めるのだが、別に嫌いというわけでも無いらしい。聞けば「美味い」と言うし、むしろ好きな味なのだそうだ。

 きっと人間にはわからない、ハイ・オーク的な何かなのだろう。

 フランドは懐から帳面を取り出し、中身を確認しながらダグに応えた。


「ええとですな、ゴブリンがさっきので122匹に、ヨーネスポイズンボアが6匹、ヨーネス土蜘蛛が27匹、ヨーネス森林狼が33頭、森林牙猫が11頭、森林赤冠走竜が43頭、ヨーネス背赤(ヒグマ)が8頭に、ヨーネス赤鼻トロルが12匹・・・・・・もう笑ってしまいますな。

 過去にタイネンザール侯爵領軍で間引きに入って、数的にはこれ以上の成果を上げたこともありますが、その時は期間も長かったし犠牲者も多く出ました。それがたったの5日でこれとは・・・・・・今から心配なのは、帰って報告しても信じてもらえるかどうか・・・・・・」


 フランドは()る瀬無い表情で首を振りながらニイロを見つめる。

 森林牙猫というのは灰色の毛皮を持つ、豹かチータのような動物で、サーベルタイガーのような大きな牙を持ち、樹上から下を通る獲物に飛び掛って仕留める猛獣だ。

 森林赤冠走竜は集団で狩りをする2足歩行の蜥蜴で、体高は1m少し。その姿はジュラシックな映画で有名なラプトルを想像してもらうと近いと思うが、体は茶色い羽毛で覆われ、頭頂部には鶏のような赤い鶏冠(トサカ)がついていた。

 ヨーネス赤鼻トロルは、身の丈2mを軽く越す巨人で、ニイロが見たところ類人猿に近い原人といった感じで天狗のような赤い鼻が特徴だった。トロルと翻訳されてはいるが、その名の元になったファンタジーな生き物のように、再生するというような能力は無い。


「まあなあ。普通は見通しの利かない森ん中で不意打ちを食らうのが一番(こえ)えんだが、軒並みこっちが有り得ねえ遠くから見つけて、有り得ねえ距離から不意打ち食らわしてるからなあ・・・・・・」


 そしてダグまでもジトリと責めるかのような眼差しをニイロに向ける。

 実に理不尽である。


「なっ、何だよ、俺が何か悪いことでもしたか?」


 ニイロが抗議するが、ダグはニヤニヤしながら柳に風と受け流してしまう。


「いーや、なーんも悪くねえよ? 悪く無いからこそ、お前さんの護衛って意味あんのかなーと。

 なにしろ噂じゃリュドーの街を襲った100を越すギガントライを一晩で殲滅して、コルエバンに押し寄せたドマイセンとビンガインの万を越す軍を殺戮して、今や配下の空飛ぶ悪魔を従えて、両国を裏で操る魔王サマだしー。

 まあ、俺たちゃ楽な上に美味いもん食わせてもらってるから、何の不満も無いしな」


 そう言いながら、秋刀魚の蒲焼の最後の一切れをパクリと口の中に放り込む。


「なにが『だしー』だ、そのツラで・・・・・・。しかも数はインフレしてるし、また何か後付けの設定増えてるし。だいたい否定しろよ! お前俺のこと知ってんだから事実じゃ無いってわかってるだろ。何だよその『おお、今気付いた』みたいな顔は!

 だいたい、護衛にしても本当は1人で来るつもりだったんだよ! でも、そうしないと伯爵が騎士団連れてけなんて言うし、そんなゾロゾロ着いて来られても面倒だし、サクラコも『ダグさん達なら安心です』なんて言うから・・・・・・」


 自分でも何で言い訳してるんだろうと思いつつも、支離滅裂にボヤくニイロ。

 その横では、一人コズノーが、我関せずとコーヒーを啜っていた。


「はー、コオヒイうめえ・・・・・・」




 昼食を兼ねた休憩を終え、一行は目的地近くまで辿(たど)り着いていた。

 この辺りはこれまでと植生が変わっており、人の腰程度の高さの低木の藪となっていて、その分見通しは良くなっている。

 前方には、また高木(こうぼく)の林が帯のように行く手と視界を遮っており、その先に目的地でもある一辺が30mほどの池が存在しているはずだ。

 この池は周囲に生息する動物達の水場にもなっており、当然のように水を求めてやってくる動物と、それを狙う肉食獣達とのエンカウントの確率も上がることになる。


 実際に、今しもニイロの目の前では、体長7~8mにもなろうかという1頭のアン○ラスに襲い掛かる2頭のゴ○ラの怪獣大決戦が繰り広げられていた。

 その足元近くには、2m越すくらいの小(と言っても大きいが)ア○ギラスの姿も見えるので親子かも知れない。

 前者は恐らくアンキロサウルス系統と思われる曲竜類(鎧竜)で、後者は体格的に体長5mほどのT・レックスに代表される獣脚類の一種と思われるが、T・レックスにしては小さい。

 頭の大きさも頭身が小さく見えるので、アロサウルス系か、ディノニクス(ラプトル)系かとも思うが、ディノニクス(ラプトル)系にしては生えていたとされる羽毛らしきものは見当たらず、代わりにヤマカガシのような、くすんだオレンジ色と黒の文様が体表を覆っている。


「うわあ・・・・・・」


 特撮ではない。本物の生死を賭けた弱肉強食の戦いだ。

 ニイロ達は怪獣達の争いからやや距離を取った藪に潜んで、戦いの行方を見守る。


「どうするよ?」


 ニイロの背後から、ダグが小声で(ささや)いた。

 その隣からコズノーもニイロにアドバイスを送る。


「あの様子だと、待っててもあそこでメラダウス共の食事の時間が始まるだけだ。やれるんだったら、あの2頭を片付けた方が早い。ガルカーンの方は放っておけば、勝手に何処かにいくだろう。

 図体はでかいが、草食で大人しく臆病な動物だし害も無い。この辺りが縄張りならば人里に出てくる心配も無いだろう。あいつの革は鎧のいい材料になるが、この人数じゃ解体するのに時間が掛かるし、持って帰るのも大変だ。今回は諦めよう」


 どうやらゴジ○の方はメラダウス、ア○ギラスはガルカーンというらしい。

 そのアドバイスを受けて、ニイロはすぐに決断する。


「んじゃ○ジラはやっつけよう。猫まっしぐらの方は放置で」


「「「?」」」


 単にCMのキャッチコピーみたいな名前だなと思っただけの軽口だが、当然ガンマ・アースの住人に通じるわけがない。

 ニイロの意味不明な言葉に、ダグ、コズノー、フランドは一瞬キョトンとした表情になるが、すぐに深く考えても無意味と悟ったのか何も言わなかった。

 そんな3人をよそに、トラッドC60自動小銃を亜空間ポーチに仕舞い、代わりにチェスカー・ズブロAFSを取り出す。

 アルファ・アース製の自動小銃の散弾銃版で、ベータ・アースにもAA-12という同じような銃が実在するが、これに限らず銃器に於いては、単に入手の容易さからアルファ・アース製のチェスカー・ズブロAFSを使うに過ぎない。

 サリアの救出時には、同じ散弾銃でも狭い室内での戦闘を考慮して、全長の短いソードオフ仕様の散弾銃を使ったが、今回のように屋外であれば、命中率も良く連射の利くこちらの方が使いやすい。

 使用する弾は大型獣用のスラッグ弾(一粒弾)で、これをセットした8発入りの弾倉(マガジン)を取り付け、予備の弾倉(マガジン)も用意したら準備完了だ。

 ギガントライの時に使った重火器だと、アンギ○スもどきまで巻き込む可能性大なので自重した。


「じゃあ、やるよ。基本、クラブに任せるから、そのまま伏せて待機で宜しく」


 ニイロはそう3人に告げると、上空のクラブへ指示を出しながら、腰を落としたままの姿勢で数歩前に進む。

 そこで片膝を地面に付け、もう片方を立てた膝撃ちの姿勢を取って銃を構える。

 狙撃してメラダウスの注意を引き、ガルカーンから離れた所で上空からクラブが12.7mm機銃を浴びせて倒す作戦だ。

 (いま)だに()んず(ほぐ)れつの格闘を続ける怪獣達までの距離は約50m。 命中率に難のあるスラッグ弾でも、この程度の距離であれば特に問題は無い。


 バン!


 2頭のメラダウスの内、心持ち大きな方の個体を狙って発射した1発は、側面から肩の辺りに命中する。


「ギャァアアオゥ!!」


 メラダウスは苦悶の叫びを上げ、自分に苦痛を与えた不届き者を視界に捉えた。

 爬虫類独特の感情の無い眼がニイロを睨む。


(さすがに1発じゃ倒れないか)


 こちらに気付いたからには突進してくるであろうと予測して、自然と銃把(じゅうは)を握る手に力が(こも)る。

 しかし、その予想に反して、ニイロの狙撃を受けた個体は「ギャオウ!」と一鳴きすると、くるりと反転して遁走にかかった。


「ありゃ」


 思わず脱力して声が出る。

 しかし考えてみれば、自分に傷を負わせる敵がいれば、まず逃走にかかるのは野生動物ならば当たり前だ。

 反撃するのは逃げ場が無い、追い詰められたと判断した時がほとんどだろう。

 そして、あの個体は本能に従って逃げ出すことを選択しただけのことだったが、今回は相手が悪かった。


 ダダダダッ!ダダダダッ!!


 襲っていたガルカーンから少し離れた地点で、上空からのクラブの二連射が、逃げ出したメラダウスに降りそそぐ。

 50口径(キャリバー)(12.7mm)の雨に打たれたメラダウスは、血と肉片を周囲に撒き散らして倒れ伏した。

 もう1体のメラダウスも、仲間が倒れるのを見て危険を察知したのか、すぐに逃走を図るが、やはりクラブの銃撃を浴びて1体目の後を追うことになった。

 襲われていたガルカーンの親子からすれば結果として助かったのだが、それがわかるはずもなく、のそのそと2体揃って逃げ出していった。


「もう捕まるんじゃないぞー。竜宮城へご招待なんて考えなくていいからなー」


 逃げていくガルカーンの親子に声を掛けながらニイロは立ち上がる。

 背中に棘状の突起を持つアルマジロみたいなシルエットは、無理矢理見れば亀に見えないこともない。

 後ろの3人からすれば謎発言だが、そこは華麗にスルーされた。

 邪魔を排除すれば、目的地まではあと一息。

 一行は一気に残りの距離を詰め、目的地の池の(ほとり)に到着する。


 一辺が30mほどの池の水は澄んでおり、小さな魚が泳ぐ姿が見て取れる。

 水際に生えた草は、水を飲みに来た動物がついでに食べたのだろう、刈り揃えたように短くなっていた。

 実際、今もニイロ達のいる場所の対岸には、大型犬ほどの大きさの馬とも牛ともつかない四足歩行の動物が10頭ほど、のんびりと水を飲んだり草を食んでいる様子が見える。

 ニイロ達を見ても逃げ出す様子が無いのは、池を挟んでいるからだろうが、群れのリーダーらしき個体は用心深くニイロ達の様子を伺っていた。


「よし、すぐに済ませるけど、一応周囲の警戒を頼む」


 ニイロは3人に頼むと、自分は腰の亜空間ポーチからタブレット端末を取り出すと、暗証番号(パスワード)を入力して池の水底で休止(スリープ)しているはずの探査機(プローブ)指令(コマンド)を送信した。

 その反応はすぐに現れる。

 静かだった水面がにわかに波立ったかと思うと、薄いグレーのロービジで塗装された探査機(プローブ)が、しぶきをあげて空中に飛び出した。

 対岸を見ると、さっきまでいた群れは早くも姿を消している。

 水面から飛び立った探査機(プローブ)は、そのままニイロの元に来ると着陸して指示を待つ。

 この機体がどれだけの年月、この水底にいたのかは聞いていないが、見た限りでは多少汚れてはいるものの目立った損傷も無く、塗装の剥げや(さび)も見当たらない。

 ポーチからチェック用の回路計(テスター)を取り出し、特に今回の最重要目的であるピーピング・ビートルを収めたユニットを手早くチェックした。


(よし、これならすぐクラブに積み替えての実戦投入もOKだ)


 ニイロはチェックの結果に満足げな表情を浮かべると、取りあえず大型用の亜空間ポーチを展開して探査機(プローブ)を収容する。

 後始末を終えて、周囲の警戒に当っていた3人に宣言した。


「んじゃ、帰るぞー! 無事帰るまでが遠足だからな!!」


 やっぱりスルーされた。

次の更新予定は3月1日です。

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