第24話 戦場のお茶会
予定の29日まで、たった2時間弱ではありますが前倒しに成功。
でも、やっぱり年内に第二章まで終わらせる目標は未達成・・・・・・。
「ニイロ殿!」
ニイロが自分を呼ぶ声に振り向くと、背後のコルエバンの街の南門から、赤毛の女兵士が駆けて来るところだった。
予め事情の説明と情報収集の為にコルエバンの街に遣わせていたフィーゼである。
「フィーゼさん、メリーチェ様は?」
「お嬢様は代官のエザクート様の所においでです。私はお嬢様から、ニイロ殿のお手伝いをするようにと申し付かりました」
そう申し出るフィーゼに、メリーチェの護衛は大丈夫なのかと一瞬思うが、考えてみればコルエバンはダスターツ伯領なので、代官と共にいるなら心配は無用かと思い直す。
「街の様子は?」
「はい、まだ門が落とされる前だったので、街中には大きな被害も無いようでした。ただ、ドマイセンの新兵器で兵士に負傷者が多いようです。エザクート殿も、あと2日以上はもたせる自信が無かったと仰ってました」
「そうですか、わかりました。ただ、俺が今やってる作業は、俺かサクラコにしか出来ない作業なんで、とりあえず特殊輸送車両の中で休んで待機してて下さい」
ニイロがそう言うと、フィーゼは「わかりました」と、少しだけ残念そうな表情で特殊輸送車両に乗り込んでいく。
サリアが嬉しそうな顔でフィーゼを迎えていたのは、1人で心細かったのかも知れない。
今、ニイロはコルエバンの南門前に陣取って、ファージ・フォーに手伝わせながらクラブの装備を変更する作業を行っていた。
前方を見れば、戦友達の遺体を回収してまわるドマイセン軍の兵士達が、忙しく立ち回っている。
時折、作業の手を止めて、恐る恐るこちらの様子を伺う兵士の視線を感じるが、甘んじて受け止めた。
敵前での整備補給は、その危険性も多少考えたが、むしろ堂々とやった方が何をしているかまでは理解できないだろうという判断だった。
そして、今のところその思惑は成功しているようだ。
ニイロの両脇では、手早く銃身の交換と弾薬の補給を済ませた7.7mm機銃装備のファージ・ツーとスリーが、油断無く警戒に当っている。
クラブ・フォーに装着していた40mmグレネードランチャーユニットを取り外し、代わりに19発入りの70mmロケット弾ポッドを2門装着する。
ベータ・アースではマイティ・マウスやハイドラ70に当る系譜のもので、よく対戦車ヘリの短翼に、円筒形で蜂の巣のような穴の開いたロケット弾ポッドが装着されているが、アレを思い浮かべると遠くない。
弾頭は対人特化のフレシェット弾で、目標の上空で爆発して1千個以上のダーツのような矢弾を100m以上の範囲に撒き散らす広範囲殲滅兵器だ。
38発のこれが5000の集団を襲えば、どのような惨事を引き起こすか想像に難くない。
出来れば使わずに済ませたいが、かと言って使うべき時は躊躇うつもりもなかった。
手際よくクラブの装備変更を終え、ドマイセン軍監視の為に上空に送り出すと、最後に残ったファージ・フォーの40mmグレネードランチャーユニットに弾薬を補給する。
それらの作業を全て終えると、ドマイセン軍の方も遺体の収容作業をあらかた終えたようで、恐らく最後と思われる遺体を載せた荷車が、本陣の方へと去っていく姿が見えた。
その他の兵は、今は遠く本陣の周辺で待機しているように見える。
ドマイセンの兵士によって片付けられた南門前には、兵士によって踏み荒らされ、また所々にグレネードの榴弾によって土を吹き飛ばされた農地が広がっていた。
事が済めば、ニイロの心情的にも何らかの形で、補償なり復旧なりに手を貸すことになるだろう。
偽善とか、誰の責任とか、そんな面倒な話ではない。
ただ、そうする手段を持っていて、単純にそうしたいと思うからする。それだけのことだ。
装着している多機能ゴーグルの角に透過表示されている時刻を見ると、使者との会談を終えて約1時間を少し越えた程度。
このまま撤退してくれなければ実力行使に出ることになる。
(頼むよ、このまま撤退してくれ・・・・・・)
そう思いながらドマイセン軍の方を見つめるニイロの目に、遺体の回収を終えた荷車がドマイセン本陣に到着するのと入れ替わるように、2騎の騎馬がこちらに向かって来るのが見えた。
ゴーグルの拡大機能を介してみると、1人は先程使者として来ていたガーフェンロだ。先程と同じ白馬に乗っており、武装もしていないように見える。
もう1人は、ニイロと同じか多少年上に見える男で、ニイロがこの世界に来る前の訓練で集団戦闘を担当し、見た目が大学の教授か研究者のようだった丸眼鏡のリプリース教官に、どことなく雰囲気が似ている。リプリース教官が眼鏡を外すとそっくりかも知れない。
ただ、特筆すべきはそこではなく、その男の乗る乗騎だ。
(チョ○・・・・・・ボ・・・・・・じゃないよな?)
体高2mはありそうな、巨大な頭と太い首、鷲のような嘴を持つ、かなり頭でっかちなダチョウ、といった風貌の生物だ。
体全体は枯草色の羽毛に覆われているが、首の途中から頭部は白頭鷲のように白い。
ニイロは知らなかったが、サクラコがいれば強鳥類の一種かも知れないという推測を教えてくれただろう。ニイロがいた世界では恐竜が絶滅した後の新生代(6500万年前~)から登場し、ディアトリマやフォルスラコスが有名だ。
「ドマイセン軍第三騎馬隊所属のノルコ・ガーフェンロ! 貴公に話があって参った! 武器は持っていない! 願わくば聞き入れて頂きたい!」
ガーフェンロが最初に来た時と同じような口上を述べる。一種の定型文のようだ。
ニイロは無言のまま油断無く銃を構え、もう1人の男に視線を送る。
「ドマイセン軍コルエバン攻略部隊の総指揮を拝命しています、ソットス・ジーマールです。武器は持っていません」
ジーマールはそう言うと、乗騎を降りて敵対の意思が無いことを告げた。ガーフェンロも同様に降馬する。
総指揮官がわざわざ出向いてきたことにニイロは驚くが、同時に問答無用で攻撃を仕掛け、さらには暗殺部隊まで差し向けた相手だということにも思い当たって、より慎重に出方を伺うことにした。
「それで、ご用件は?」
少々冷たい言い回しだが、命を狙われた相手だ。愛想よく接するには無理があった。
嫌味の一つも言ってやろうかとすら考えたが、さすがにそれは自重した。
「二つです。二つだけ、どうしても確認したい。その為に伺いました」
ジーマールはそう言って、右手の指を2本立てて突き出して見せた。
その仕草を見てニイロの内心では、世界線は違っても、そんな仕草は一緒かなどと、別のところで感心していたりするが、それはジーマールにはわからない。
続けて言い募ろうとするジーマールを横から制して、ガーフェンロが口を開いた。
「ちょっと待って下さい。先程は私も冷静でいられなくて失念していたが、宜しければ貴殿の所属と名を先に伺いたいのだが・・・・・・」
そう言われてみると、ニイロはまだ一度も彼等に名乗っていない。
最初と二度目の訪問の際に、ガーフェンロが所属と姓名を同じように繰り返していたが、それが戦時における交渉事の決まりなのかも知れなかった。
そんなことを考えていると、敵の総指揮官を目の前にして多少頭に昇っていた血も下がってくる。
「そうですね・・・・・・」
少し思案しながら視線を逸らすと、偶然だが特殊輸送車両の窓から顔を半分だけ覗かせて、こちらを伺うサリアとフィーゼが目に入る。
そこでふと思い立ったニイロは、ちょっと待って下さいとジーマールとガーフェンロに声を掛け、特殊輸送車両の車内にいるサリアとフィーゼの元に歩み寄って、窓越しに何事かを告げた。
告げられた2人はコクコクと頷くと、すぐにフィーゼにも手伝わせて車内で何かの作業を始める。
ニイロはそれを見届けると、今度はおもむろに亜空間ポーチ(大型用)から、キャンプ用の簡易テーブルセットを取り出して特殊輸送車両の横に設えた。
テーブルセットは、普通のホームセンターなどでも売っている、プラスチックとアルミで出来た、数千円で買える折り畳みのヤツだ。
「えっ? 今、どこから・・・・・・」
「そのテーブル? 素材はいったい・・・・・・」
ニイロのすることを見ていたガーフェンロとジーマールが、思わず声を上げた。
「まあ、別に秘密にするわけじゃないけど説明する時間も惜しいんで、取りあえず掛けて下さい」
そう言ってニイロは腰掛け、2人にも正面の席を勧める。
戸惑いながらも恐る恐る2人が腰掛けた、そのタイミングで今度は特殊輸送車両の扉が開き、中からプラスチック製のマグカップを載せたトレイを恭しく掲げたサリアと、ケトルを手に持ったフィーゼが登場した。
2人は手際よく手分けして、ジーマールとガーフェンロ、そしてニイロの前に紅茶を淹れていく。
実は特殊輸送車両の内部には簡易湯沸かし器が設置されており、プラスチック製の食器セットも乗員定数分用意されている。
軍用車両としては珍しいかも知れないが、元がアルファ・アースのイギリス製と言えば納得して頂けるだろうか。戦車にすら湯沸かし器を用意する国だ。
紅茶の香ばしい香りが辺りに立ち込めた。
「これは?」
ジーマールが尋ねる。
「紅茶という、俺の国で一般的に飲まれている飲み物です。チャノキという葉っぱを加工したもので、俺の国では全く発酵させない緑茶が好まれますが、ダスターツ伯の所で頂いたお茶からすると、発酵させた紅茶の方が好まれるんじゃないかと思ってチョイスしてみました。こうやって好みでクリーミングパウダーと砂糖を入れて調整して下さい」
ニイロは、そう言って自分の紅茶にステックに入ったクリーミングパウダーと砂糖を実際に入れて見せた。
本来、ニイロはコーヒー派なのだが、別に紅茶も嫌いではない。
ダスターツ伯の所で飲んだお茶は、どちらかというとハーブティーのようで、ローズヒップに似た香りと、ほうじ茶に少し酸味を足したような味だった。
それでも不安そうにカップの液体を睨むガーフェンロに、ニーロは笑って言った。
「大丈夫。暗殺は俺のシュミじゃない」
そんなニイロの嫌味に、ガーフェンロは苦笑いで返す。
かたやジーマールは平然とした表情で、さっそく見様見真似で自分のカップに砂糖を入れて飲んでいた。
「この粉はミルクですか? ミルクを粉状に加工する技術・・・・・・この小さい袋は紙製? 加工技術も凄いが、表面に書いてある模様・・・・・・文字ですかね・・・・・・」
紅茶の味よりも、細かい所が気になるようだ。そんな言動が研究者を思わせる雰囲気に拍車をかけていた。
そんなジーマールを見て、やっとガーフェンロも同じように口をつける。
「・・・・・・甘い。コクがありますね・・・・・・悪く無い」
そんな感想を口にした。
少しだけ、場の緊張が和らぐが、そこでニイロが改めて口を開いたことで再び緊張感が辺りに漂った。
ニイロ的には訪れた客に対して、取りあえず礼は尽くした。ここからが本番ということだ。
「さて、まずはガーフェンロさんに応えて名乗っておきましょう。俺はニイロ・カオル。カオルが名前でニイロが姓です。苗字持ちだけど貴族じゃありません。一般人。こちら風に言うと平民です。
あなた方の知らない国、ニホンから、この世界の様々なものを見る為に来ました。つまり、王国民でもありません」
「ニホン・・・・・・確かに聞いたことがありませんが、その出で立ち、そして、これらの物を見せられると本当なのでしょう」
ジーマールはプラスチック製のマグカップやテーブルなどを見ながら言う。
「しかし、だったらなぜ王国に肩入れするのですか! 関係の無い他所者が、我が国と王国の争いに余計な・・・・・・」
そう言い募るジーマールに、ニイロはすかさず言葉を被せて止めた。
「おっと、それは今は関係ありません。もう、そんな話をする意味も無い。そもそも、話し合いの申し出を蹴ったのはそっちですよ?
あるのは撤退か、徹底的にやるかの二択。貴方はそれを決断すればいい。
そんなことより、二つ聞きたいと言いましたよね? もう、あまり時間も無いことだし、それを聞いたらどうです?」
そう言われるとジーマールも思わず言葉に詰まる。
自分の決断に後悔は無いが、反論する材料も無い。
「・・・・・・わかりました。では聞きましょう。まず一つ、貴方はガーフェンロに『リンデン砦は既に奪回されて、ヤノス将軍は捕虜になった』と言ったそうですが、その真偽は?」
「本当ですよ。リンデン砦には、俺がこの世界で最も信頼する相棒が向かった、と言えば納得してもらえるかな?」
「他にも仲間がいるのか・・・・・・」
小声でガーフェンロが呟く。その表情は心底うんざりした者の顔だ。
「こちらは速やかな全軍撤退をお願いしたそうですけど、指揮官の方は軍勢を撤退させた後、自らは残って捕虜になったそうです。
詳しいことまではわからないけど、通信機・・・・・・あなた方に合わせて言うと、離れた場所同士で会話ができる魔道具の一種でもって連絡を受けました。全て事実ですよ。
ただ、あなた方を一瞬で向こうに連れて行ける魔法でもない限り、証明はできませんから、信じるかはお任せします」
ニイロは淡々とした口調で説明し、それを聞くジーマールは真実を見極めようと鋭くニイロを睨む。
少しの間の後、ジーマールは2つ目の要望を口にした。
「わかりました。では、二つ目です。我がドマイセンと王国との間の懸案である鉱山について、貴方は王国の負担で改善されると言ったそうですね? その事をもう少し詳しくお聞きしたい」
「それだったら、残られたあなた方ドマイセンの指揮官、ヤノスさんでしたか。ヤノスさんと俺の相棒との交渉で決めたそうですよ。
ビンガインとドマイセンの両国で俺達が自由に活動できるよう、本国と渡りをつける引き換えに、鉱害を改善する知識と手段を提供して、その費用については王国が負担する、ってことらしい。
立ち会ったのは王国のホルストーン子爵と、ダスターツ伯爵のところのポアルソン騎士団長だそうです。詳しい内容までは、まだ俺も聞いてないんで、細かいことは聞かれても答えようが無いけど」
「ヤノス将軍が・・・・・・それは・・・・・・あなた方に改善の手段がある、ということなのですか?」
「まあ、今始めてすぐに結果が出るものじゃなく数年のスパンで考えるべきことだけど、以前、ダスターツ伯のとこで聞いた話じゃ現状は未処理で汚染水を流してるって聞いたから、少なくとも今よりは改善できると思いますよ」
ジーマールには、相変わらず淡々と語るニイロの口調が、逆に自信を感じさせるように思えた。
ボノ川流域の現状が改善するのであれば、王国と事を構える理由は格段に小さくなる。
しかし、全ては目の前の男の言葉だけの情報だ。
「ヤノス将軍と連絡を取ることは出来るだろうか」
せめてヤノスがどういった交渉をしたのか、その詳細が知りたい。
「どうだろう? 一応、王国側の捕虜って立場らしいし・・・・・・あ、でもサクラコ、俺の相棒の話だと、本国との連絡は制限緩いみたいだから、大丈夫なんじゃないかな
保証はできないけど、ダスターツ伯爵に頼んでみるくらいのことなら出来ると思う」
「そうですか・・・・・・」
その答えにジーマールは目を伏せて黙考する。
ニイロの視界の角には、多機能ゴーグルに表示されるカウントが、残り20分を切っていた。
(そろそろ・・・・・・)
決断を迫ろうかとニイロが考えた、その矢先、ジーマールは閉じていた目を開くと宣言する。
「軍を撤退させます。ガーフェンロ、悪いのですが先に戻ってワーゾに伝えて下さい。我が軍は速やかに当地を離脱し、本国に帰還すると」
「将軍・・・・・・」
指示されたガーフェンロは言葉に詰まる。
ホッとしている反面、本国に許可を取らないままの撤退は、後で問題になる可能性も残っている。
「構いません。一度戦場に出た以上、行動の決定権は私にあります。これ以上の被害を出さずに現状の改善が望めるなら、私の進退を賭ける価値もあるでしょう。政治屋にも少しは働いてもらわなければなりません」
ジーマールの答えに、ファーフェンロは頷くと席を立ち、ニイロにも一礼すると愛馬を駆って本陣の方向へと駆け出していった。
その後姿を見送りながら、ジーマールも席を立つと、ニイロに向かって声を掛ける。
「では、私も戻りますが、今度は嘘偽りなしに撤退するので安心して下さい。ああ、そうだ・・・・・・戻ったらガーフェンロに秘蔵の酒を進呈しなくては・・・・・・ちゃんと使者の役目を果たしてくれたのですから・・・・・・」
半分は独り言にも似た呟きだったが、それを聞いたニイロには閃くものがあった。
そそくさと亜空間ポーチから酒の瓶を取り出してテーブルに置く。
「お土産です。持ってって下さい」
俗にポケット瓶やベビーボトルと言われる180ml入りの小さいウイスキーの瓶だった。
物資の補給の際に、有力者との接触に当って贈答用に活用するよう送られてきたものだ。
他にも通常の720ml入りの瓶や、一升瓶の日本酒なんかもあるが、色々と考えて今回はこれをチョイスした。
元の世界では特に高価な物ではなく、それこそコンビニでも入手できるような代物だが、この世界では貴重品であることに間違いない。
「これは?」
琥珀色の液体の入った瓶に、ジーマールは怪訝な顔でニイロに訪ねる。
「ただの酒ですよ。けっこう強いので水で割るか、あれば氷を入れてチビチビ味わいながら飲むのがお勧めです。3本あるから1本はガーフェンロさんに、残りはご自由に」
瓶の表面には趣向を凝らしたデザインのラベルが張ってあった。
ラベルに表示された英文の文字は、ニイロが異国から来たことを証明するものになるだろう。そしてそれは、ジーマールが撤退した判断に、実在する異国の人間が関与した証拠にもなる。
「なるほど、ありがたく受け取っておきましょう。」
そう言って席を立ちながら小瓶をポケットに入れる。
「そうだ、今後、貴殿と連絡を取りたい場合はどうすれば?」
「うーん、難しいな。一旦、ルードサレンには戻るけど、そこから先は・・・・・・ただ、今後鉱害の回復に係わるとすれば、現地の状況も確認することになるだろうから、近い内にドマイセンにも行く可能性はあります。今後の話し合い次第ですけどね」
「そうですか。出来れば王国抜きで話がしたいんですがね」
「予め言っておくけど、国同士のいざこざに首を突っ込むのは今回限りというのが、ダスターツ伯爵との約束です。
あなた方がこのまま撤退してくれれば、その後は俺達の行動の邪魔さえしなければ手を出しません。どこかの国に取り込まれる気も無いですよ」
そう言って釘を刺しておく。
ジーマールの狙いが、ニイロをドマイセンに取り込むことなのは明白だが、応じる気は一切無い。
「そちらの国に行くとしても、目的は鉱害対策です。それ以外のややこしいお話はお断りします」
「そうですか、わかりました。ただ、私はどうも諦めが悪くてですねえ。とにかく、また会える日を楽しみにしてますよ」
ジーマールはそう言ってニヤリと笑う。しかし、すぐに表情を引き締めると、ニイロに向かって一礼し、乗騎に乗ると自陣の方へと去っていった。
その後姿を見ながらニイロは呟く。
「俺はあんまり会いたくないなあ・・・・・・」
次回予定は年明け1月3日です。
次回で第二章を終わって、第三章に移・・・・・・り、たい、なあ・・・・・・。
それでは皆様、良いお年を。