表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/41

第16話 模擬戦

 ルードサレン城の城館の一画にある、会談の為に用意された会議室には、ダスターツ伯爵領の幹部連だけが残っていた。

 ニイロとサクラコは、筆頭秘書のカウネル・ラッチから模擬戦の舞台が整ったとの報告を受け、準備の為に先に退出しており、ダグ達傭兵3人も先に会場となる練兵場に案内されてここにはいない。


「率直な意見を聞こうか。会ってどう感じた?」


 ダスターツ伯が全員に意見を求めると、それに呼応してギータン・ポアルソンが真っ先に意見を述べる。

「人となりは概ね信頼できると感じました。ドマイセンとの繋がりも、伯爵様の推測通り杞憂だったようです。ただ、我々に対する協力には、明らかに一線を引いていて、無条件に頼んでいい人物ではないようですね」


 それに続いてアデッティ・スコバヤが発言した。

「あの知識と物腰、それに、見たことの無い衣装やサクラコ殿が身につけていたアクセサリーからしても、本人は平民と言っていましたが、明らかにただの平民とは思えません。どこか遠国の大貴族、(ある)いは王族という可能性が高いのではないでしょうか。そうであれば、その身を守る武力を身につけていても不思議ではないと愚考します」


 それを聞いて、ダスターツ伯も頷く。

「うむ。スコバヤの論でいけば、我々への協力に一線を引くのも頷ける。身を守る武力にしては、話に聞くものは少々大きすぎる気はするがな」 最後の部分は苦笑交じりだ。


 続いて、今度はガラクト・スローンが口を開いた。

「カジユ村からここまでの道中で観察した感想ですが、こちらが礼をもって接すれば、きちんと礼を保って対応する、そんな人柄と見受けられました。道中での騎士達との宴会でも、誰とでも分け隔て無く酒を酌み交わしていましたし、傭兵達との付き合い方にしても、身分による忌避感は全く無い御仁のようです。

 したがって、きちんと筋を通せば、少なくとも敵に回す事態を避けることは難しくないと思います。

 さらに、どうやらかの御仁は侍女のサリアに思い入れがある様子。彼女を利用・・・・・・という言葉は使いたくありませんが、彼女を架け橋にして友好を保つことも一考の価値があるのではないでしょうか」


 その提案にダスターツ伯は顎に手を当てて考える。

「女子供を利用すると言うのは好かんが、セビエネ村の件といい、友好の使者というのであれば悪く無いか・・・・・・」


 しばし考え込むダスターツ伯に、行政官のラズム・トットレルが聞いた。


「では、伯爵様は、あの男との関係を結ぶことをお望みなのですか?」


「うむ。出来れば王国の戦力として引き入れられれば最上だが、あの様子からして首を縦には振るまい。この地に来た目的を聞けば、いずれはこの地を去るつもりであろうが、それを引き止めるのも難しいと思える。

 ならば、せめてこの地におる間は友好的に関係を結び、あわよくばあの男の方から快く協力させる体制を敷く。

 それが叶わずとも、あの男がこの地を去った後、少なくとも我が国に敵対する事態を避けるだけの友情としがらみを育てるのは、損の無い話ではないかな?

 なに、方策は簡単だ。真っ直ぐ向き合えば、おの男もこちらを真っ直ぐに見てくるだろう」


「それだけの価値があると?」


「まあ、儂はもう疑っておらんが、これからの模擬戦を見れば、お前も納得するのではないか?」

 そう言って笑った。




 城館内での会談から凡そ30分ほど後、ニイロの姿はルードサレン城の一画にある練兵場にあった。

 領軍側の準備が出来たとの連絡があってから、ニイロ達も着替えており、ニイロもサクラコも、武器以外はいつもの装備に身を固めている。

 まずは領軍から選抜された騎士とサクラコが1対1で対戦し、その後、ニイロがデモンストレーションを見せるという段取りだ。


 サッカーコートが2面くらい取れそうな広さの練兵場の、端に急遽設えられた観覧席には、ダスターツ伯を中央に伯爵領の幹部達が並び始まるのを待っている。

 ダスターツ伯の隣には、サリア達侍女を侍らせたメリーチェの姿も見えるが、心配そうな彼女達の視線の先が領軍の騎士ではなく、サクラコに注がれているのは、道中での親睦を深めた甲斐であろうか。

 ニイロとダグ達3人組にも、観覧席の一角に席が用意されていた。

 また、観覧席の左右には、訓練中だった100人程の領軍の兵士達が並んで観戦しており、右手に立ち並んだ兵舎の周囲にも、20~30人程だろうか、非番らしき兵士達が見物する姿が見受けられる。


 観覧席の正面、30mほどの所には、既に準備万端の2人が10mほど離れて対峙しており、ダスターツ伯からの始めの合図を待っていた。

 領軍から選抜された騎士は、肩と胴体を守るブレストプレートと呼ばれるタイプの鎧に、コリント式に似たデザインのヘルム、得物は1.5m程もある両手持ちの大剣に似せた木剣だ。

 紹介された折に聞いた話では、領軍でもトップテンに入ろうかという期待の若手だそうで、その巨躯は他の領軍兵士と比べても一回り大きい。


「ああやって並ぶと大人と子供だな。どう見る?」

「そうねえ、サクラコちゃんの実力がよくわからないけど、見せてもらった武器とか見たら遠距離系よねえ。多分、接近されなきゃ勝てると思うんだけど、接近されたら流石に危ないと思うわ。あの騎士、相当やりそうよ?」


 コズノーの問いかけにニーアーレイが自分の予想を述べていた。


「ダグはどう見てるの? あなた、実際にサクラコちゃんが戦うの見てるでしょ?」


 今度はニーアーレイがダグに話を振ったが、その問い掛けに、ダグは面倒臭そうに答えた。


「んー? 圧勝だろうよ・・・・・・」




 騎士と対するサクラコは、いつもの大正時代風ナース服モドキに、武装はニイロが破落戸(ゴロツキ)共の捕縛にも使った四連装スタンガンと、伸縮式スタンロッドを腰の左右のホルスターに収め、両手には、回転弾倉式のグレネードランチャーに似たフォルムを持つ、動物捕獲用のネットガンと、10mm自動拳銃を持っている。

 ネットガンは単発式で、本来両手で扱うものだが、サクラコの膂力なら片手でも運用可能だ。予備の(シェル)は肩から襷掛けにした弾帯に5発ほど持ち込んでいた。

 また、10mm自動拳銃には訓練用の非殺傷ペイント弾が装填されている。


(これ、どう考えてもズルいよなあ・・・・・・)


 ニイロは思う。

 銃の存在を知らない相手の騎士にとって、今のサクラコに不気味に思いこそすれ脅威を感じる要素があるとは思えないだろうが、仔細を知るニイロにすればサクラコの考えは一目瞭然だ。

 恐らく、ペイント弾で牽制しつつ、接近する前にネットガンで絡め取り、スタンガンかスタンロッドで麻痺させて終わりだろう。


 観客席にいるダスターツ伯が片手を挙げて開始の合図をすると、騎士がいきなり間合いを詰めるべく、サクラコに向かってダッシュした。

 対するサクラコは横に移動しつつ、10mm自動拳銃を相手に向かって数発発射する。


「?」


 ペチペチと音を立てて騎士の鎧に青く塗料の染みが花咲く。

 実弾であればこれで騎士は死亡、良くて重傷なのだが、騎士にはその意味がわからない。


「これはこれは、避けてすら下さらないのは予想外でした。でも、ちょっと無用心すぎではないでしょうか」


 サクラコは呟くと、10mm自動拳銃をホルスターに収め、ネットガンを両手で構えた。

 相手の武器を見たことはなくても、その動きには細心の注意を払うべきだと思うのだが、生憎と相手は猪突猛進タイプだったらしい。


 騎士の方は、剣の届く範囲に入れば勝てると、ひたすら間合いを詰めることに集中し、横に逃れたサクラコにさらに追い縋る。

 サクラコは、ワンテンポわざとステップを遅らせ、相手の騎士が自分を剣の間合いに捕らえる隙を作ってやった。


「捉えたっ!」


 騎士はそう吠えて木剣を横薙ぎに振るう。

 が、そのタイミングはサクラコによって誘導されたものだ。タイミングを合わせて避けるのは難しく無い。


 振るわれた木剣がサクラコを捉えたかに見えた、その瞬間、サクラコは大きくバックステップを踏む。

 人間以上のパワーを持つサクラコの脚力は、その小さな躰を5mほど跳躍させた。

 おおっ!と観衆から感嘆の声が漏れる。


「大声で攻撃のタイミングを相手に知らせるのは、愚かな行為だと思いますよ?」


 サクラコは、そう呟いて両手で構えたネットガンを発射した。

 バスッ、と言う音と共に発射された(シェル)は、銃口から飛び出ると同時に四散し、内蔵された合成繊維網が投網のように広がって騎士を捕らえた。


「ぬおっ! くっ、なんだこれは!」


 騎士がもがけばもがくほど、合成繊維の網は騎士の躰に絡まっていき、木剣では切ることもできない。


「くそっ!くそっ!」


 それでも諦めずにもがく騎士に、サクラコは持っていたネットガンを地面に置くと、腰のホルスターからスタンガンを取り出して構えた。


「あ、それ、ちゃんとした刃物でないと切れませんから諦めて下さい。ちゃんと後で取ってもらえるよう言っておきますから」


 そう言ってにっこり笑うと、騎士の鎧で覆われていない太腿の部分に向かってスタンガンを発射する。


「うごがががっ!」


 撃ち込まれたスタンガンによって全身の筋肉が硬直し、騎士は全身に網を絡ませたまま地面に倒れ伏した。

 それを見届けたサクラコは、スタンガンを元のホルスターに収めると、観客席にいるダスターツ伯爵領の面々に向かって優雅に一礼し、続いてまだ硬直の解けない騎士を軽く診察する。


「意識はありますね? 今は電流で全身の筋肉が硬直しているだけですから、数分もすれば、すぐ元通りになるし後遺症も無いので安心して下さい。念の為に今日だけは安静にしてもらえば、明日からは普段通りに訓練して下さってけっこうですよ。

 それから、未知の物に対する慎重さを身につけられた方がいいでしょう。今の貴方は勇敢ではなく無謀なだけです。

 間合いを詰める突進力は素晴らしかったのですが、もしも最初のペイント弾の牽制に反応する程度の慎重さが貴方にあれば、弾速の遅いネットガンは避けられやすいので、私ももっと慎重に戦う必要がありました。

 あと、勝ったと思った瞬間が一番危険です。今から攻撃するぞと宣言されれば、相手はそれに対処して当たり前ではないですか。よくよく考えられることをお勧めします」


 そう諭すように騎士にアドバイスを送る。

 送られた騎士の方は、まだ自由にならない躰でサクラコを口惜しそうに見つめるが、それでも微かに頷いた。

 後は騎士の救護に来た医療班に現在の症状と対応、網の除去の仕方を教え、地面に置いていたネットガンを拾い上げると、ゆっくり観客席の方へ歩いていった。




「これほどとはな・・・・・・」


 ダスターツ伯が呻くように言った。

 頭では強いのだろうと理解していたつもりだったが、練兵場に入って、改めて対峙する両者の体格差を見た時は、正直、負けるとは思えなくなっていた。

 実際、孫と言ってもいいくらいの年齢の娘の身を心配していたのだが、始まって5分もしない内に娘の圧勝だった。今、こちらに向かって、てくてくと歩いてくる娘は傷一つ負っていない。


「ギータン、どう見た?」

 ダスターツ伯の問い掛けに、領軍トップであるギータン・ポアルソンは表情を歪めて答える。


「正直、ここまで差があるとは思っていませんでした。しかし、言い訳をさせてもらえるならば、やつも我々もサクラコ殿の手の内を知りませんでしたので、それが明らかになった上であれば、次は・・・・・・」


「確かに言い訳だな。戦いで手の内を隠すのは当然。それに、聞けばサクラコ殿はニイロ殿の意を受けて、相手を極力傷つけない武器で挑んでいたのだぞ? ならば手加減無しであれば、いったいどのような事態になっていたか」


 そう言われるとポアルソンは返す言葉もなく恥ずかしそうに顔を伏せた。

 そこに、ちょうど観客席前まで戻って来たサクラコが、にこやかな表情で声を掛ける。


「では、もう1戦お相手して致しましょうか? 今度は同じ武器でけっこうですが、如何でしょうか」


 その誘いにはニイロが慌てた。サクラコにその気があったかはわからないが、その言い方では挑発と取られても仕方が無い。


「駄目だよサクラコ。それは許可しないし、その言い方はポアルソンさんに失礼だ」


 少しキツめに発せられたニイロの言葉に、それまでにこやかだったサクラコが目に見えてシュンとしてしまった。

 思えばサクラコは優秀なAM(オートノマスマシン)だが、ロールアウトして一ヶ月も経っていない。

 知識としてのデータは人間を越える膨大なものを持つが、経験という観点からは、まだ赤ん坊と一緒なのかも知れないとニイロは思う。


「ご、ごめんなさい・・・・・・」


 その様子にポアルソンの方が慌ててサクラコを擁護した。


「い、いや、伯爵様も言われたように、手の内を隠すのは常道。それを言い訳にした私が悪いのだ。サクラコ殿を責めないで頂きたい」


 そこまで言われればニイロもこれ以上、とやかく言うつもりはない。


「わかりました。でもサクラコ、ちゃんとポアルソン様に謝って。そしてちゃんと反省してくれたら、それでこの話は終わりにしよう」


「はい、ポアルソン様、生意気なことを言って、申し訳ありませんでした」


 そう言ってサクラコはポアルソンに頭を下げる。

 それを見届けてから、ニイロがサクラコに笑顔を見せると、サクラコもホッとしたように笑顔になった。

 ポアルソンの方も、サクラコに優しく笑いかけて言った。


「はい、その謝罪、確かに受け取りました。もう頭を上げて頂きたい。それに、あの戦いは素晴らしかった。あの跳躍、人間業とは思えない」


(すいません、人間じゃないんです)


 ニイロは内心で苦笑しながらポアルソンに謝る。これは声には出せない。


「そうだな。あの跳躍は凄かった。その実力、一部ではあるのだろうが、確かに見せてもらった」

 ダスターツ伯もサクラコに賛辞を送り、次にニイロに向き直ると、「して、更に何か見せてくれるとのことだが・・・・・・」と、次なる演目を催促した。


「わかりました。では」


 その催促にニイロは笑って答えると、サクラコに「伯爵様から質問があったら解説して差し上げて」と指示を出し、予め頼んであったアシスタント役の騎士3人を引き連れて練兵場の中へと進む。

 アシスタントの騎士達は、それぞれ1体づつ、鎧と兜を着せた案山子(かかし)を担いでおり、ニイロの指示に従って、まず1人がニイロから100mほど離れた地点に案山子(かかし)を設置した。


「これから、ご提供頂いた鎧と兜を着せた案山子(かかし)を敵に見立てて、ニイロが攻撃します」

 観客席で伯爵の傍に控えたサクラコが解説する。

「あれだけ離れているということは、あれも弓のようなものと思ってよいのかな?」

 ダスターツ伯がサクラコに質問した。

「そうですね、弓の上位互換と思って頂ければよいかと思います。ただし、性能は段違いですが」


 そう言っている間にニイロの準備が出来たのか、片手を上げて観客席の方に合図すると、標的に向き直ってトラッドC60自動小銃を構えた。

 数拍の呼吸の後、ニイロの持つ銃が、ダン!ともガン!とも言い難い音響の射撃音と共に白煙を噴いた。そして、その射撃音の反響が鳴り止むかどうかのタイミングで、今度はダダダッ!とバースト射撃による連射音が練兵場に木霊(こだま)する。

 その後も、2度、3度、射撃音が響くと共に、標的の案山子(かかし)がグラグラと揺れるが、その盛大な射撃音にも係わらず、肉眼では銃と標的の間の弾道が見えないので、観客には何が起こっているのかわからない。

 ただ、射撃音が重なる都度に小さな穴が開き、歪に形を変えていく案山子(かかし)に、誰もが言葉を失って見入っていた。


 十数発の射撃の後、頃合と見たのかニイロは、傍らで耳を塞いでいたアシスタントの騎士3人に、一人は標的の案山子(かかし)を引き抜いて観客席に届けさせ、残る2人には新しい2体の案山子(かかし)を設置するよう指示する。


 標的になっていた案山子(かかし)が観客席に届けられると、ダスターツ伯とポアルソン、スローンの3人が食い入るように検分する。

 廃棄寸前だったとはいえ、まだ一応現役だった金属の鎧は、文字通り蜂の巣のごとく6mm弾によって撃ち抜かれ、かなりの数が背中まで貫通していた。


「これを見れば手加減しても大怪我という意味がわかるというもの。サクラコ殿、あの武器はいったいどのくらいの距離を飛ぶのか」


 眉間に皺を寄せながら発せられたダスターツ伯のその問いに、サクラコは答える。


「どこまで届くか、という意味でしたら、あの口径ですと2kmほどでしょう。ただし、狙って当てられる距離ならば、約400~500m程度でしょうか」


「し、しごひゃく・・・・・・魔法はおろか、長弓(ロングボウ)でも無理だ・・・・・・」

 サクラコの解説を聞いたポアルソンが、(うめ)くように言った。


「しかも、矢と違って放った瞬間は音でわかっても、目に見えんのでは避けられん。この様子では盾も役に立つまい。つまり、狙われたら四方を石壁にでも囲まれた部屋にでも篭るしか無いかの」

 愉快そうにダスターツ伯は笑った。半ば自棄(やけ)のようだ。

 そうこうする内に、ニイロの準備が整ったようで、観客席に向かって片手を上げて合図する。


 今度の案山子(かかし)は練兵場の端に近い位置に設置されており、ニイロも反対側の端まで下がっている。双方の距離は200mほど。

 ニイロの肩に担がれているのは携帯用60mm対戦車ロケットランチャーだ。


「あれは?」

ダスターツ伯がサクラコに聞く。


「あれは携帯用60mm対戦車ロケットランチャーと言います。角竜(セントロサウルス)・・・・・・ここではギガントライでしたね、ギガントライ戦の折には使わなかったのですが・・・・・・」

 そうサクラコが言い掛けた言葉を遮るように、ニイロの担いだロケットランチャーが文字通り火を噴いた。

 バスン!という腹に響く発射音と同時に、火炎と煙のバックブラストをたなびかせながら、シュルシュルと飛翔したロケットの弾頭は、狙い違わず5mほどの間隔をおいて設置された案山子(かかし)の片方に着弾し、爆煙と共に標的を跡形なく消し飛ばしてしまっただけでなく、爆風と破片でもう片方の案山子(かかし)も吹き飛ばしてしまった。


 その轟音の余韻に、しばし、誰もが呆然と見守る中、爆発によってもうもうと舞い上がった土煙が晴れるのを待って、ニイロに促されたアシスタントの騎士達が標的の回収に走り出し、ニイロも騎士達を手伝うべく標的のあった場所へと向かっている。

 観客席では、ポアルソンがサクラコに問うた。


「あ、あれでギガントライを屠ったと言うのか。確かにあればらば・・・・・・」

「いえ、ですから、ギガントライの時は使わなかったのです。あの時使ったものは、生憎とこの場所では狭すぎて周囲に被害が及ぶといけませんので」

「すると・・・・・・あれより強力なものが他にもある、と? ちなみに威力は? あれはどのくらい飛ぶのだ?」 恐る恐るといった感じでポアルソンが尋ねる。

「一応、ギガントライに使った90mm対戦車ミサイルは、あれよりも強力ですが、その他に何があるかは私の権限を越えますのでニーロに聞いて下さい。あと、今、ニーロが使ったロケットランチャーの有効射程は約600mほどで、標的との距離にもよりますが、だいたい10cmほどの鉄の板であれば貫通できると思います」


 それを聞いたダスターツ伯は、呆れたように呟く。

「10cmの鉄・・・・・・つまり、石壁程度では四方を囲っても無駄ということか・・・・・・」

 その呟きを聞きつけたサクラコが、ダスターツ伯に向かって同意した。


「厚さにもよりますが、そうですね。でも、変な気さえ起こさなければ無用の心配ですよ」

 そう言ってニッコリと微笑む。

 その笑顔は、果たして天使の微笑みなのか、悪魔の微笑みなのか、伯爵には判断できなかった。

今回はギリギリでした。

次回更新予定は10月31日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ