第10話 招待
9話の後書きで、次話の投稿は20日だと言ったな?
あれは嘘だ!
という訳で更新です。早い分には別にいいよね?
ホルーゲン山地の中、王国との境界線にもなっているヨードフィル渓谷の、南に位置する都市国家、ビンガイン。
この国の北はリドリスファーレ王国に接し、残る三方にはドマイセン、ソータル、カーレムの都市国家が、対王国の名分の下に四カ国連合を形成している。
四カ国連合内でのビンガインの立場は、リドリスファーレ王国に対する防波堤である。
山間地に位置する立地なこともあって耕作地に乏しく、他に産業も無いビンガインからすれば、対王国の矢面に立つことで残る三カ国からの経済的、軍事的な支援を引き出す、綱渡りの国家運営を強いられていた。
この世界の国々の経済基盤が農業である以上、耕作可能な土地の広さはイコール国の経済力になる。
立地上、その土地の開拓が限界に達しているビンガインには、もう発展の余地が残されていないのである。
リドリスファーレ王国にしても、他の都市国家にしても、わざわざビンガインを攻略して傘下に収めたところで得るものは少なく、ただ防衛の負担だけが増加する。
それが、この弱小都市国家がこれまで生き延びてこられた原因であった。
しかし、ここに来て、ヨードフィル渓谷の北側、リドリスファーレ王国領内で大規模な銀鉱山が発見されたことによって変化が齎された。
一言に鉱山の開発と言っても、ただそこを掘っているだけではない。
掘れば当然のごとく土砂が流出し、近隣の川に流れ込む。掘り出した鉱石は精錬する必要があり、現地には精錬施設が設けられ、精錬によって出た様々な毒素は、これまた近隣の川や自然を蝕むのだ。
そして、この川の下流に位置する他の都市国家、特に鉱害の直撃を受けたドマイセンが、強烈にリドリスファーレ王国に対する反発の声を上げ、その交渉の玄関口であるビンガインに対しての圧力を強めていた。
「どうでした? 会議の様子は。少しは得る物でもありました?」
友人であり秘書でもあるイレーツに問われ、ビンガイン国評議会議員、フェルノアンは疲れた表情で首を左右に振りながら、溜息と共に吐き出した。
「どうもこうもない。ヴォルセン議員とルマイン議員が王国侵攻を主張してるけど、驚いたことにホーントン議員まで侵攻派に加わりそうな気配だ。ノギス議員も怪しい」
フェルノアンは、議員としては新進気鋭の38歳。小洒落たビジネスマンタイプで、貿易で財を成し、9人で構成されるビンガイン国の最高行政機関である立法府評議会議員に抜擢されている。
「まじですか・・・・・・これで侵攻派が4人とは・・・・・・」
イレーツが、呆れたような表情で言った。
「うん、今もし、何か事があれば、一気に侵攻って話になっても不思議じゃ無い。フォーデル議員の話じゃあ、今侵攻したとしても国境のリンデン砦すら落とせるか怪しいって話だけどな」
やれやれ、という顔でフェルノアンが言う。
「フォーデルさんは、確か軍出身でしたっけ。それに、リンデン砦を落とせても、今度はあのダスターツ将軍が出てくるでしょう? 何でこんな判りきったことなのに、ホーントン議員もノギス議員も、今頃になって侵攻派に鞍替えなんか・・・・・・」
イレーツはしきりに首を捻って思案顔をする。
フェルノアンの所に入っている情報では、どうやらドマイセン軍の動きが活発化している気配があるが、現状では情報のピースが足らない為に、まだ口には出せない。
「そう言えばイレーツ、ギガントライの話は聞いたかい?」
「おっと、随分強引に話を変えてきましたね? ええ、聞いてますとも。王国のダスターツ伯爵領でギガントライの群れが暴れまわって大損害だとか。それがどうかしたんですか? あ、もしかして、ホーントン議員なんかは、その噂を信じて侵攻派に傾いてるとか?」
その話を聞いたフェルアノンは、不思議そうに聞き返した。
「おや? 私が聞いた話と違うなあ。私が聞いた話だと、どこかの街の女代官が、被害も無くあっさり撃退したって聞いたぞ?」
「まさか、あのギガントライですよ? それも群れで。それを被害無く収めるなんて、どんな英雄ですかって話ですよ」
「まあ、被害無しってのは流石に眉唾だな。女代官に率いられた旅の傭兵団が殲滅したとか。傭兵団なら雇うことも考えられるし、それで印象に残ってたんだが・・・・・・ まあ、噂だからなあ」
「そんな凄い傭兵団がいたら、とうに噂になってますって。この国なんてあっという間に滅ぼされちゃいますよ? 尾鰭付いてるんじゃないですか?・・・・・・あ、もしかして、ギガントライじゃなくてモルモスライ辺りだったのかも。それだったら納得いきますよ」
なぜか得意げに胸を張るイレーツをよそに、この他愛の無い噂話に何かしら引っ掛かるものを感じながら、フェルアノンは呟いた。
「そうだよなあ・・・・・・」
◇ ◇ ◇
馬車での移動速度というのは、意外と遅いものだ。
馬のスピードを、競走馬の走るスピードで捉えてしまうことから来る錯覚なのかも知れないが、当然、あんなスピードで馬を目一杯走らせれば、あっという間に潰れてしまう。
それに、殆どの馬車には揺れを軽減するサスペンションも無く、ちょっと高級な馬車になって、初めて板バネを使った簡単なサスペンションや、高級な貴人用の馬車だとフレームから鎖で客の乗る箱を吊り下げる形式の物が現れるくらいなので、スピードを出せば乗客の蒙る揺れは、相当酷い物にならざるを得ないのだ。
よって、実際にはポクポクとゆっくり歩かせるのが普通で、その速度は人間の歩く速度とたいして変わらない。
馬車で移動するメリットは、非常時に限りスピードを出せること、荷物を多く運べること、そして何より、自分の足で歩かなくて済むからだ。
しかし、自分で歩かなくて済むとは言っても、流石に3日目以降になると色々不満が出てくるものだ。
ニイロは今、ダスターツ伯から寄越された迎えの馬車に乗り、領都ルードサレンへと向かう馬車の、車中の人となっていた。
「どうしてこうなった・・・・・・」
思えばニイロ達がこの世界へ転移して、既に2週間が経っているが、初日の騒動の後、アウトドア用ワンタッチテントで目覚めたニイロを待っていたのは、ジウロと名乗った騎士に先導されて、一斉に平伏したままギガントライ討伐の礼を述べる村人達の姿だった。
慌てたニイロが事の次第を聞くと、ジウロとしては、ニイロの機嫌を損ねないことを第一義として他は割りとどうでも良いらしく、リュドーの街の代官であるアデッティ・スコバヤが戻るまで、カジユの村に滞在してもらうか、或いはニイロ達自らリュドーの街を訪れてもらうか、どちらでも良いのでお願いしたいと平身低頭で懇願される始末となったのだった。
ニイロとしては、まだ転移したてのこともあり、この世界に関する様々な情報を得たいという希望もあって、村人達の態度を平素のものに戻してもらい、ニイロを村の英雄ではなく、只の旅人として接してもらうことを条件に、村への滞在を選択することにした。
次にベータ・アースとの連絡が取れるのは、事前の予測では約1ヶ月後であり、正確な日時については事前に短い通信で送られてくる手筈になっている。それまでに、何らかの成果は上げておきたいと思ったのだ。
かくして、転移2日目は村を上げてのお祭騒ぎとなり、出てきた黒パンと、ショッパイだけで肉と野菜のカケラが入ったスープという、異世界物の定番に妙な感動(やっぱり不味かった)を覚えたり、屠ったギガントライの肉に、塩を振っただけの串焼きの実食イベント(意外と食えた)にチャレンジさせられた。
また、これも異世界物の定番である、提供した食材、特に墫酒(なぜ装備品にこんなものが入っていたかは不明だが)のウケが良く、泥酔したジウロが笑い上戸だったり、ダグが脱ぎ上戸だったことには驚かされた。無論、むさ苦しい猪男の裸を見ても、これっぽっちも嬉しくなかったが。
3日目以降は情報とサンプル収集に精を出し、村の子供達を引き連れて野山を駆け巡り、様々な動植物のサンプルを入手して、それをサクラコが分析するのを手伝ったり、大人達には栽培されている作物と栽培方法を尋ねたり、古老には風習や伝承などを聞いてまわったりと、短い日数ながら充実した収穫を得ることができた。
ガンマ・アース側からの物質の転送技術が確立されていない現状では、現物のサンプルを送ることは出来ないが、サクラコが分析した結果のデータは大いに役立ってくれるはずだ。
お礼代わりに、サクラコが怪我や病気などで困っている村人の診療をして回り、これは村人達からすれば、実際に見てないせいで実感の薄かったギガントライの討伐よりも感謝され、面映い気分にさせられた。
ちょっと誤算だったのは、サクラコが調合した子供用の薬で、腹痛や軽い風邪、虫下しなどの薬に、大人用とは違う甘いシロップやチョコレートコーティングされた錠剤などを配った為、村の子供達の間に『病気になるとご褒美が貰える』という間違った認識を持たせてしまったことだろうか。
季節が冬に向かう中、わざと薄着したりして無理に風邪を引こうとした子供が現れたりしたので、慌てて言い聞かせ、以後は大人用と同じ苦いものに切り替えさせた。
また、追ってやってくると予告されていたダグの仲間2人も到着して紹介された。
男の方はコズノーと名乗る、赤毛を短く刈り込んだ戦士風の男で、歳はニイロよりも少し上くらい。赤銅色に焼けた皮膚と、いかつい体躯には歴戦の風格が漂うが、その目は意外と柔和なものがあった。
女の方は、腰まで届く栗色のストレートヘアに、切れ長のブラウンの瞳、腿の辺りまでスリットの入った黒いタイトなイブニングドレスと、この世界に来て、初めて出会う『お色気担当』といった風体の女性だったが、挨拶もそこそこにニイロの持つ装備や、ファージ達に被りつきで質問攻めに遭ったのは、ダグの言っていた魔道具馬鹿の名に恥じぬ行動、と言って良いのだろうか?
その見てくれはともかく、中身は残念美女のようだった。
ちなみに、女の名はニーアーレイと言うそうで、彼女の質問に答える代わりに火魔法を披露してもらうことが出来た。
暫しの集中の後、ありがちな呪文の詠唱などは無く、気合と共に放たれた炎は火炎放射器のように伸びて、標的にした木を瞬く間に燃やし尽くした。その射程は約30m程。
ニーアーレイ曰く、今回はランスのイメージで一直線に撃ったが、炎の形や持続時間はイメージ次第で変えることが出来、炎を壁のように使ったり、障害物を迂回させたりも出来るとのこと。
使った後は凄く疲れるそうだが、少し休めばまた使えるようになるそうで、気力次第で連射も可能だそうだった。これなら確かに魔道士と呼ばれるのも頷ける。
そんな日々を送っていたニイロの元に、領都ルードサレンにいる領主、ログソン・ロウ・ダスターツ伯爵から、ルードサレンへの招待状と4頭立ての迎えの馬車が到着したのは、転移後11日目のことであった。
伯爵旗を先頭に護衛の騎士達50名と、3輌の豪奢な馬車がカジユ村の入り口に止まり、護衛団の長らしき人物が、村の入り口で声を張り上げる。
「我等、ログソン・ロウ・ダスターツ伯爵に仕える騎士団である! わが主の命により、当カジユ村にご滞在中のニイロ殿ご一行をお迎えに参った次第! 願わくば、お取次ぎ願いたい!」
その声は、偶々村の広場でファージとクラブを整備しながら、興味津々に覗き込んではサクラコに押しやられるニーアーレイと、ダグ、コズノーと他愛の無い話に花を咲かせていたニイロ達にも届いた。
ニイロが騎士のジウロから聞いた最初の話では、リュドーの代官が来るという話だったのに、どういうことかと思ったが、コズノーの推測だと、どうやらリュドーの代官では荷が重いと、いきなり領都へ招待という話になり、即刻迎えの馬車を寄越したのではないか、ということだった。
ニイロは、やれやれと思いながらも対応すべく立ち上がったが、ふと横を見るとサクラコの姿が無い。
しかし、おや? と思う間も無く声が聞こえてきた。
「出迎え痛み入ります。私はニーロに仕えるサクラコと申します。ニーロも直ぐに来ると思いますので、今しばらくお待ちください」
と、いつもの衣装で騎士団の正面に陣取り、堂々と渡り合っている。
ダグがボソリと、「はえーよ、嬢ちゃん」 と呟くのを聞きながら、ニイロは苦笑しつつ、出迎えの騎士達の方へ歩いていった。
そして、村の入り口に達すると、護衛騎士団の長らしき人物に対して、日本人風にペコリと頭を下げると挨拶をする。
「態々のお出迎え、有難う御座います。私がニイロ、ニイロ・カオルです。ニイロが姓、カオルが名前です」
かろうじて皮鎧に見えなくも無いアーマーと、丸いヘルメットにタクティカルゴーグルという、この世界では見られない、一種異様なデザインの装備を纏うニイロが、さらに苗字持ちだと聞くと、護衛騎士達は一瞬ざわりとしたが、直ぐに平静を保つ。
「これは、ニイロ殿は何処かの国の貴族の方でしたか!」
そう言って改めて姿勢を正す護衛騎士団長に、ニイロは笑って否定した。
「いいえ、苗字持ちでも貴族ではありません。平民です。私の国、ニホン国では苗字持ちが一般的なのです。普通にニイロと呼んでください」
そう言われて対応に困ったような表情を浮かべる護衛騎士団長だったが、直ぐに表情を引き締めて言った。
「そうでしたか。申し遅れましたが、私は今回の護衛の長を申し付けられました、スローンと申します。そして・・・・・・」
スローンが背後に目配せすると、最後尾の馬車から侍女と思わしき女性の一団がわらわらと降りて来て、先頭の馬車に昇降台を設置し、馬車の扉を開けると、そこに一人の少女が現れる。
淡いピンクのドレスに身を包み、侍女に手を取られ、馬車から降りた少女は、深々と一礼すると緊張気味に口上を述べた。
「メ、メリーチェ・ロウ・ダスターツと申します。お爺様より、ニ、ニイロ様をお迎えする使者としての役目を拝領し参上致しました。どうか、ご一緒にルードサレンへとお越し願えないでしょうか」
この少女の登場に一番衝撃を受けたのは、ニイロの後方で成り行きを見守っていたダグ達3人である。
この世界に来て日が浅く、一般に知られている情報にも疎いニイロにはピンと来なかったが、メリーチェ・ロウ・ダスターツと言えばダスターツ伯が目の中に入れても痛くないほど可愛がっている孫娘、唯一の肉親であり、その彼女を迎えに送り出すということは、50名という破格の人数を護衛に付けているとはいえ、ニイロの安全を保証する為の人質に差し出したという意味もあるのだ。
それだけダスターツ伯がニイロを重要視しているという証明でもあり、その事実に思い当たった3人に衝撃を与えたのだった。
「ウソ・・・・・・本物?」
「本気かよ伯爵・・・・・・」
「おいおいおい」
思わず声が漏れる。
しかし、そんな3人の思いなど知る由も無く、この世界の事情に疎いニイロからすれば、『お孫さんを使者にするくらい人材不足なのかね? それとも、そういう習わし?』くらいの認識しか無い。
明らかに緊張している少女を和ませるように、軽く笑顔でニイロは答えた。
「行くのは構いませんが、いったいどういったご用件でしょうか? 私が聞いていたのは代官殿が事情を聞きたいから待っていてくれという話なのですが」
「はい、お爺様が仰いますには、今回のモンスター討伐の件、その甚大な功績に対して領主として是非直接お礼を述べたいと仰いまして、重ねて御骨折り頂けませんでしょうか」
そこまで言われれば、ニイロとしても否は無い。カジユ村での調査も一段落したことでもあるし、そろそろ別の街、それも大きな都市での調査業務も悪く無い。
「わかりました。ではご同道させて頂きます」
その返答に、メリーチェは花の咲くような笑顔を見せて言った。
「有難う御座います。それから、そちらの女性の方、サクラコ様と仰いましたか。それと同じく功績のあった傭兵のダグ様と、そのお仲間の方もご一緒にお連れするよう申し付かっておりますので、是非、ご一緒に」
そう言われたダグ達が、一斉に驚きの声を上げた。
「「「俺(私)達も!?」」」
にっこり笑って「はい」と頷くメリーチェに、3人は返す言葉も無く承諾するしかなかった。
かくして一行は車中の人となり、1台目の馬車にニイロとサクラコ、それにメリーチェと世話係の侍女、女性の護衛騎士の5人が乗り、2台目にはダグ達3人組と世話係の侍女、護衛騎士の5人が分乗して出発した。
ちなみに、ファージは全機ニイロの亜空間ポーチに収納し、念の為、2機のクラブを12.7mm機銃装備でステルスモードのまま上空に随行させている。
車中では、普段人と接する機会の少ないメリーチェからの、マシンガンの如き質問攻めを、なんとか当たり障りの無いよう往なしつつ、逆にこれから乗り込む領都の情報や、近隣諸国の簡単な国際情勢などの情報を取り込むことに成功したし、サクラコも、メリーチェとは(見た目)歳の近い同性同士らしく歓談していたので、それについてはニイロも色々な意味で安心させられた。
聞いたところだと領都ルードサレンまでの行程は一週間。
初日、2日目は途中の村で一夜の宿を取って宿泊し、夕食時には護衛の騎士達にも墫酒(人数が多いと瓶入りを数出すより面倒が無いのだ)を振舞って親交を深めたり、思いの他親密になったらしいサクラコとメリーチェ、ニーアーレイから、侍女達も含めた女子会(?)に無理矢理参加させられそうになったり、途中だったファージとクラブの整備を、ニーアーレイと騎士達の好奇の目と質問の嵐を浴びながら済ませたりと、それなりに忙しく過ごした。
しかし、その旅も2日が過ぎ3日が過ぎると、思わぬ敵がニイロを悩ませることになる。
その敵とは、『退屈』と『揺れ』であった。
最初は物珍しさもあって、それなりに馬車の旅を楽しんでいたニイロだったが、この世界の旅に慣れているものならいざ知らず、スピードに溢れた現代社会で生きてきたニイロにとって、殆ど変わり映えのしない風景を眺めながら、ゴトゴトと揺られ続けるだけの馬車の旅は、ニイロの精神を『退屈』という名の苦痛で苛むのだ。
さらに、現代の車とは比べようも無い貧弱なサスペンションと、舗装すらされていない道が醸し出す『揺れ』は、34歳になったニイロの腰と臀部を猛烈に痛めつける。
こうなってくると、不謹慎ながら盗賊団の一つも出ないものかなどと考えたりもするのだが、50名もの完全武装した護衛騎士を伴う馬車を襲う馬鹿な盗賊などいるはずもない。
実際、1度だけタクティカルゴーグルのマップの隅に複数の輝点が現れ、不謹慎にもワクワクしながら警戒していたところ、こちらの姿が視認できる距離に近づいた途端、あっという間に蜘蛛の子を散らすように消え去ってしまった。
もしかすると、これが盗賊団だったのかも知れないが、期待(?)も虚しく、行楽日和とも言える青空の下、ただ只管、『退屈』と『揺れ』に耐え続けるしかなかった。
「どうしてこうなった・・・・・・」
何度目かのニイロの呟きを、目先を変えて退屈を紛らわす目的でメンバーチェンジした際に、偶々同じ馬車に同乗したダグが耳聡く聞きつける。
ニイロを拾って以来、予定が狂いっぱなしのダグにしても、退屈が辛いのは一緒らしい。
「そりゃこっちのセリフだよ・・・・・・」
二人は目を合わせ、力無く同時に項垂れて首を左右に振った。
領都ルードサレン到着まで、あと4日の予定ある。
で、次の投稿予定は22日です。