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シュガー

とある何でもない日の何でもない朝、

その特別な出来事は起こった。


いつもと同じ、おはよう。から始まって、

さようなら。で終わる日常とは違う。


今日は、スペシャルイベントがある日だった。



日常を崩しにかかる。


そう、転校生がやってくる日。


三年間、毎日学校に通っていたとしても、転校生がやってくる日なんて無いこともある。

慣れた生活の中に、馴染みのない顔が増える日のこと。


浮き足だっていたのは、私だけではなかった。


クラス全員、学年全員が転校生に期待していた。



「知ってるー?転校生って男子らしいよ」


「知ってる知ってる!校長室にいたの見た子がいたらしいね」



そんな話題が数日前から飛び交っていた。


転校生が男だという情報は既に全員が知ってる情報で、

主に女生徒は期待を馳せている状況だった。


新しい友達が増える事もあり、

男子の間でも話題として上がってはいるみたいだが、

女生徒ほどの盛り上がりは見せていない。



「転校生が女だったら、良かったのになー。転校生が美少女とかだと俺らも、もうちょっと盛り上がれんのに」



大多数がそういう意見である。



正直な話し、よっぽどの美形かイケメンでもない限り、

転校生に浮き足立つ女生徒も、言っている間にいなくなるだろう。


馴染んでしまえば、他の男子生徒となんら変わりなくなる。


どうせ、期待と現実は伴わない。


そう思っていた。



ざわついた教室の中に先生が入ってきて、ざわつきが静まる。



「もうクラスのほとんどが知ってると思うが、今日は転校生がいる。いいぞ、入って」



そう言われて、ゆっくりと入ってくる。

高身長の眼鏡くん。


その冴えない様子にガッカリした子も多かっただろう。


しかし、意外とスペックは高い。


確かに冴えない表情ではあるし、眼鏡だけど。


身長は高いし、顔はそこそこ整っている。


むしろ、これでガッカリするのは、好みじゃなかった。とか、

期待値が高すぎた事が原因だろう。


それに、秋という事もあって、雰囲気が季節と合っている感もある。



「鈴木、貴宏(たかひろ)です。宜しくお願いします。」



グッときた。

個人的には、グッとくるものがあった。


動作が綺麗なのだ。


話し方も、ゆったりとしているが、

低くて少し優しい感じの声。



三園(みその)の隣の席が空いてるよな、とりあえずそこでいいな」



三園とは、私の事である。


自己紹介が遅れたけど、

私の名前は三園(みその)夏実(なつみ)だ。



私の隣の席を指定された鈴木くんは、

綺麗な歩き方で、歩いてきて、座った。



『宜しく。私、三園夏実。好きに呼んでくれていいよ』


「宜しく、三園さん。」



柔らかい笑顔で、そう挨拶された。


軽々しくもなく、堅苦しくもなく、

これが初対面としては一番正解なんじゃないかと思った。


こんな何でもない事で、人を好きになるだなんて、ありえない!

そう思えば、思うほど、顔が熱くなった。



「三園さん、暑いの?」


『えっ、ううん。暑くないよ。大丈夫!』



汗が吹き出してくる。


冷静になろう、冷静に。


カバンに忍ばせておいた、最近発売したばっかりの、レアチーズケーキ味の天然水を出して喉を潤す。



「あ、三園さんも、それ好きなの?俺も同じの持ってるよ。レアチーズケーキ味って絶対不味いとか思ってたけど、意外といけるよね」



吹き出しそうになった。


好きな友達も中にはいるけど、名前からして美味しくなさそう。って言って、手をつけさえしない人も少なくない。




『う、うん。好き。』


「俺も俺も。結構、不評だよね、これ。」




どうしようもないくらい、この隣の席の鈴木くんが好きになっていた。


たった数分前に初めて会ったとは思えない。




「今、レアチーズケーキ味が流行ってるみたいだよね」


『あっ、そういえば』



カバンの中に、レアチーズケーキ味のチョコが入っていたのを思い出して、カバンに手を突っ込んで取り出す。



『これ知ってる?一個あげるよ。』


「えっ、いいの?これ食べたことない」


『いいよ。』



チョコを手に一つ渡すと、鈴木くんは、すぐに包みをあけてパクっと口に放り込んだ。



「あっ、美味しい。」




決めた。


この人に恋をしていこう。



そして鈴木くんは私の心の中で、シュガーと呼ばれるようになった。

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