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妖精の育て方  作者: いちまるよん
第一章 火継ぎの魔女
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第五話 魔女を継ぐ その2 ~使い魔~

 父がものすごい顔で悔しがっています。

 悔しいのやら、悲しいのやらとにかくなんとも言えない表情です。

「ちくしょー」

 さっきからこればかりを言って半泣き状態の父は、今のテーブルに突っ伏したままです。家族はというと、わたしも母も胡桃おばあちゃんも面倒くさいので無視しています(笑い)。

「誰がヴァルプルギスの夜に連れてい行くって?もう五月五日ですよ?」

 葬儀の帰りに「ヴァルプルギスの夜に出てもらおうか?」なんて格好つけていた父ですが、その夜の宴は五月一日に終わりました。


 ――ええ。わたしは結局参加出来ませんでした。


 葬儀の後もなんやかんやで忙しく、忙殺された父はこのとおりです。

 しかし嬉しいことが三つもありました。

 ひとつ目は胡桃おばあちゃんが来てくれたこと。

 二つ目は魔女の杖をもらったこと。

 三つ目は魔女の力を受け継いだことです。


 力を受け継いだ時、膨大な情報が一気に頭に入ってきて驚きました。その様々な情報があたまをぐるぐると周ると頭が冴え冴え、夜も興奮して寝られないほどでした。

 今は落ち着きましたが、逆に何が流れ込んだのか記憶は曖昧になり、拍子抜けするほどいつもの自分と同じ感じがします。

「力が落ち着くまで普通は一週間くらいかかるんだけどね」

 少し残念がっているわたしを見て、胡桃おばあちゃんは笑いました。

「ほにほに、まさかあそこでアレを飲み込んでしまうとは思わなんだ」

 普通は手のひらに受けたあの炎の塊をそのまま胸に収めるらしいのですが、わたしは丸呑みにしてしまいました。

「だって……」

 恥ずかしくて頬が真っ赤になります。

「食いしん坊だから、仕方がないわね」

 母はいたずらっぽく笑った後で真剣な顔で聞いてきました。

「ねぇ、あれってどんな味なの?」

 その質問にわたし、おばあちゃん、そして突っ伏した父は起き上がってツッコミました。


「「「そこ気になるの!?」」」


 我が家には少し特殊な血が流れていますが、何の変哲もない日本のどこにもある普通の家庭です。友達が家に来てもなんら不思議に感じることはない……はずです。

 だって、普通の人には彼らを見ることができないのですから。

 我が家は庭も含めてまぁ、賑やかです。

 花壇の花の蜜をミツバチと取り合う妖精もいれば、古池に釣り糸を垂れてぼーっと過ごす妖精の姿も見えます。

 梅雨時期になれば大きなカタツムリを捕まえてきて大カタツムリレースが開催されます。

 ただ、やめてほしいのは我が家の縁側の廊下でやるので、レース後は廊下がカタツムリの粘液でテカテカになります。学校から帰ってきて縁側を通る時に足を滑らせて何回すっ転んだのか記憶にないくらいです。

 さらに競走馬のように血統で優劣が大きく左右されるらしく、「伝説の~の子ども」とかで話が盛り上がります。なので、卵を産むと大変!そこで大トレード市が開催されるんです。しかし、カタツムリは四十から五十個ほど卵を産みます。

 ということは……。

 次の年は同血統のみの戦いになったりするんです……。

 今、わたしの眼の前にいる妖精たちは早くもカタツムリレースについて熱く語りあっています。

『今年はなんとしてもグーグの奴を一位の座から引きずり落とさねばならなイ』

 腕組みをして険しい表情をしているのは、先日のドギです。そのドギの他にも五人の妖精が茶の間のテーブルの上に集まってきているんですが、勉強しているわたしにとっては邪魔で仕方がありません。

「お取り込みの最中、申し訳ないんですが……」

 やんわりと移動を求めますが、彼らは微動だにしません。

 わたしが困っているとヴァイスがやってきてわたしの目を見つめました。

 ヴァイスは我が家で飼っているホワイト・シェパードのオスです。

「お願い」

 ヴァイスは躊躇なくドギたち妖精の輪に頭をつっこむと、その中の一人を咥えました。

『な、なにするんだイヌっころメ!』

 ジタバタと暴れますが、所詮十センチほどの大きさです。大型犬に敵うわけもありません。

 抵抗虚しく、咥えられた妖精は畳の上に放り投げられ、他の妖精たちは宙を逃げ惑いました。

『いつもいつも忌々しい。奴じゃノ!』

 妖精たちは人が飼っている動物が好きではありません。感が鋭く、自分たちよりも大きく力も強いことから極力関わらないようにしているようです。そして犬は特に飼い主に従順なので手に負えないということです。

「偉いね、ヴァイス」

 側で読書をしていた胡桃おばあちゃんヴァイスを褒めると、ヴァイスは嬉しそうにしっぽを左右に大きく振りました。


「そうだ、魔女になるなら使い魔を決めないとね」

 ――使い魔とは、魔女が使役する絶対的な主従関係で成り立つ動物です。一般的には猫やカラス、カエルやネズミというのが有名でしょうか?

 しかし前挙したようにに種族は問いません。強い魔力を持つ者は異世界の生物を手懐けたりするらしいですが、それは祖母ですら見たことがないと言っていました。

 ちなみに祖母の使い魔は白文鳥で、祖母が亡くなった日に同じく天に召されました。

「姉さんは白文鳥。可愛い子だったわね。

 で、わたしはこの子だし」

 胡桃おばあちゃんの使い魔は白いフェレットです。だいたい首元か肩の上にいて、今のように座っているとひざ上で丸くなって寝ています。


「ん?」


 ヴァイスと目が合いました。

 首を左側にかしげたヴァイスは、わたしから視線を外しません。

「望んでいるのね、この子は」

 おばあちゃんはヴァイスに手を伸ばし、頭を撫でました。ヴァイスは気持ちよさそうに耳を後ろに倒し、目を瞑ってなされるがままです。

「おばあちゃん、使い魔になるとヴァイスはどうなるんですか?」

「使い魔について知っていることを言ってみなさい」

 使い魔は仕える魔女と命をともにする存在と言われています。なので、寿命が劇的に伸び、祖母の白文鳥のように仕える主人の命が燃え尽きると同時に灰となって消えます。

 魔女と使い魔は魔力の糸によって常に繋がれ、離れていても五感の共有が任意で可能となります。そして、主たる魔女が命に関わる危機に貧した時、使い魔がその生命を投げ出して盾となるといいます。

「うん。だいたいそんなところね」

 おばあちゃんは満足そうにうなずきました。

「で、あなたは使い魔にする方法を知ってて?」

 わたしはあっさりと答えました。

「わたしの火をヴァイスに分け与えます」

 誰から聞いたわけでも、見たわけでもないのにわたしは自然に動きました。

 両の手を胸に当て、意識を手のひらに集中します。


「――この火種は生命の火種。

 魔女の力を分け与える特別な火……」


 胸に当てた手のひらの内側が紅く光り、お湯に触れているかのような柔らかい暖かさが手を包み込みました。魔女を継いだ時のようなマグマのようにグラグラと煮えたぎるようなものではありませんでしたが、それはまさしく『火』でした。


「汝は我が火を欲し、命をともにすると誓いますか?」

 わたしはヴァイスに向かって手のひらに乗った小さな火種を見せました。するとヴァイスは一度わたしを見ると、迷わずにその火をパクリと食べてしまいました。

 口に入った火種はそのまましばらく体内で鈍い光を放ち、十分も経過すると完全にその光は失われました。その間ヴァイスはというと、非常に落ち着いた様子でずっとお座りをしていました。

「いい子ね、ヴァイス。

 あなたは『使い魔』にずっとなりたかったのね」

 胡桃おばあちゃんがそう言うと、ヴァイスは珍しく「わん」と一つ吠えました。

「牡丹から聞いていたようね。いずれお前が悠依のことを守らなければならない、って」

 牡丹というのは祖母の使い魔の白文鳥です。ヴァイスとはとても仲良しで、二人でよくうたた寝していたのが印象的です。


『――ユイ、これでいつまでも一緒にいられるよ』


 不意に頭に流れてきた声にわたしは驚きました。

 聞いたことのない男の子の声でしたが、わたしには誰の声かすぐにわかりました。

 ヴァイスです。

 彼がわたしに話しかけてくれるなんて!

「おばあちゃん!ヴァイスの声が聞こえる!!」

 わたしがそう叫ぶと同時にヴァイスも驚きの声をあげます。

『ユイの言葉がわかるよ!』

 わたしたちは飛び上がって抱き合いました。

「すごい!すごいよ!」

 愛犬家に限らず、動物と暮らす者にとって動物と言葉が通じるということは本当に素晴らしいことです。妖精の声を聞くことができたわたしですが、動物の声を聞くことは出来ませんでした。

「――これが魔女の血、これが魔女の力」

「悠依、これからはもっと素晴らしいことがあなたを待っているわよ」

 胡桃おばあちゃんは朗らかに笑いました。


 その夜、食卓を囲む中で父が気がつきました。わたしとヴァイスを祝福したものの、またご立腹のようです。

「なんでいつも大事な時に父さんを呼ばないのよ!」

 なぜかオカマちゃん口調で父は泣きながら悔しがっていました。 

☆魔女日記☆

“使い魔”…魔女と命をともにする相棒。魔女の火を分け与えることによって、寿命が伸び、五感を主人と共有することができ、言語で会話をすることが可能となる。


“ヴァイス”…悠依の使い魔となったホワイト・シェパード。





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